大分県
塩崎洋一
塩崎洋一
昭和63年に大分県で普及員として奉職。 令和4年3月に早期退職して農業に踏み込み始めたが、普及現場の要請により中部振興局を舞台に、普及活動の第二幕が上がった。そして第二幕を終えて、自社で色々やっていたところ、北部振興局の要請によって、普及活動の第三幕を上げることとなった。臼杵市在住。
2024.12. 2
この日は、管内の中山間地で、経営展開の相談でした。
実は、私が新入りの頃(昭和63年)、お父さんはJAの畜産担当で、鍛えてもらった方です。JA退職後に、自家の肉用牛経営を規模拡大してきましたが、息子さん2人が帰ってきて一緒にやっているところで、今後のさらなる経営展開を計画中です。
事務所の畜産班のH総括が担当していたので、先日、一緒に伺いました。
その際に、「いろいろな経営状況がある中、今の牛舎で親牛が一杯なら、種のついたヤツ(妊娠牛)を、牛舎の下にある田に放せばいいのでは。それなら、施設に多額の投資をせずに行ける。屋根とスタンチョンと餌箱だけでもいい。この田の広さなら、20か30は出せる。そして、育成や分娩に今の牛舎を使って増やせばどうか」と提案。
さらに数日後、市役所の担当も交えて伺うと「耕作条件の良い田ではなく、放牧には牛舎の上に荒廃地がある」とのことで、みんなで行ってみた次第です。
左から次男さん、お父さん、H総括、市役所担当、長男さん。後ろの石垣の向こうに荒廃農地が広がっていました。放牧には十分使えます。ついでに獣害対策にもなります
資材高騰、飼料高騰、何もかもがコスト高のこの頃、いかにコストを下げるか。ざっくり言えば「アイデア勝負」です。
『牛を飼うには、こうしなければならない』という先入観が、コストアップを招いている感は拭えません。『牛を飼うには、これだけあれば良い』と考えれば、あとは「ここだけ気をつければ良い」で進んでいけます。先入観や固定観念は、やはり、いろいろな場面でリスクと言えそうです。
2024.11.25
当ブログに投稿を始めた(2013年)南部振興局勤務の前は肥育の広域普及指導員として、県内全域を走り回っていたところですが、その頃に巡回していたのが、和牛肥育農家のSさんです。
この日は担当のNさんと、牛房別に濃厚飼料給与量を掲示してあるシールの張り替えに来ました。
牛舎前でSさんと話すNさん、牛舎の裏には県内随一の水田地帯が広がっています
現在40頭ほどいますが「それなりの経営規模なのに、そんなこと、普及がやってるの?」と思われるかもしれません。
実はSさん、牛飼い経験60年を超える、御年83歳です。大型機械を操っての牛舎の管理作業もさることながら、水田も20haほどやっているのです。もちろん、休日には息子さんが手伝いをしていますが、それでも驚くほかはありません。少々耳が遠い、年相応に膝が痛いほかは、年齢を感じさせないタフな親父さんです。
そんなこんなの、これまでの付き合いの流れでやっているわけですが、このSさんも、先日ブログで紹介したエサを使っているのです。そのエサに変えた際に、給与量を間違わないように、特に、肥育前半の給与量を増加させる期間に、貼り出しをしているという次第です。
それでも、枝肉の出荷成績を見せてもらった7月の着任当初、「もしや?」と思い、稲わらの給与量を伺ったところ、やはり少ない。Nさんと一緒に本人の前で計量して、増量を指示しました。給与量の変更を指示したので、そこから毎月体重も量ることにしたのは、言うまでもありません。
2024.11.15
海の見える牧場、県内でも何カ所もありません。私の好きな風景ですが、この牧場、ひとつ大変な点があったのです。
あいにくの曇り空ですが、周防灘を見渡す牧場です(出荷前の牛たちのパドック)
ちなみに国東半島は、果樹園が多かった地域です。これ以上は言いません・・・
地図を見ればわかりますが、県南部沿岸は豊後水道のリアス式海岸。北部は周防灘で遠浅も多いのですが、この周防灘は瀬戸内気候に属するところです。つまり、雨が少ない気候区分なのです(最近は違うようですが)。
管内東部寄りの国東半島の端に牧場があるのですが、数年前に放牧活用の肉用牛経営を新規に始めたとのことで、この日、初めて伺いました。そして驚いたのは、毎日20頭の牛たちに、水を運んでいると言うのです。
帰り際に、Nさんと話しました。
「行政的に放牧を進むるんはいいけど、なんで水がないん? 荒廃農地を使ってやって、確かに初期投資も少ないけど、毎日水くんで拘束されて、続かんでな(毎日水くみで拘束されたら、続かないだろう?)」
「条件の良いところは、他が使ってます」
「そりゃそうやけど、パドックも一番便利が悪いとこじゃ、人間が毎日行っち作業すんところが便利悪い。牛は歩いて行けるんやけ、人間の便利良いとこにせんかった(人間が毎日行って作業するところが便利が悪い。牛は歩いて行けるんだから。なんで便利のよいところにしなかった?)」
などなど。
県内には、こうした荒廃農地や山林活用で放牧がうまくいった例も、あるにはあります。
が、ここは肉用牛専業です。他で収入がないことを考えれば、当該用地の全体像から、作業の全体像も考えて、組み立てねばなりません。
良い事例を見ることは多々ありますが、どこが問題点か、どこで苦労するのかなど、リスクをよくよく見る必要があります。
ここに給水設備を作って、水運びの拘束性をなくす提案をしたのは言うまでもありません(普及活動第2幕でやった方法です)。
2024.11.12
Sくんが発表した取り組みは、組織作り、仕組み作りやそれぞれのマッチングなどが主な普及活動でしたが、この日はなぜか、耕種農家サイドで生産されるトウモロコシの獣害対策でした。
この地区では、写真の道路に沿って約1.4ha、14カ所に作付けされているのですが、その14枚のうち、この1カ所、ここだけがやられるとのこと。去年も、ここだけがなぜかやられたそうで、今年も実証用に持っている電柵を設置することになった次第です。
Nさんに連れられて、ポールを置いていって差し込んで、線を張りました。
Nさん曰く「ここだけが山に接していて、ここから来るんです」とのこと、見ると存分に猪が遊んでいる様子。
山側の電柵の外側は、彼らの遊び場に持ってこいです、右側の草藪には足跡が無数に・・・
私はポツッと言いました。
「汗かいち一生懸命にやりよるけど、猪んやたあ藪から見ち笑いよるで」
(汗をかいて一生懸命にやっているけど、猪のヤツは藪の中から見て笑っているよ)
ちなみに、農家さんが鹿よけにテープを張っているので、こちらは電柵で猪よけです。
農家さんが鹿よけに張ったテープの外側に、手際よく電柵を張るNさん。手早い。写真右手の山の中から、イノシシがこちらを観察しているようです
以前勤務したところの果樹農家さんの話では、高低差のある二重の柵、それをこうしたテープや防風ネットと電柵で組み合わせてやると、彼らは遠近感がズレて飛び込んでこれなくなるとのことです。
いずれにせよ、複数の対策を組み合わせて知恵比べです。
2024.11. 8
先日来、発表練習を重ねてきたSくん、当日を迎えました。
練習でのたどたどしさはどこへやら。なかなかのものでした。
そして、結果は特別賞。家畜保健衛生関係を除く部門での受賞でした。
優秀賞は逃したものの、受賞を得たことは、自信になったようです。
それでも、とりまとめ作業をやっている中では、色々と思うところがあったようですが、それは、必ず将来の役に立つと励ましてきたところでした。
実際にこうした結果が出て、はじめて身についていくスキルでもあります。
そうして将来、いつの日か、「あの時言われたのは、これだったのか」と、実感していくことでしょう。