ゴマ栽培
2008年12月03日
概要
「起源と栽培の歴史」
●ゴマは、ゴマ科、ゴマ属の1年生作物で、人類が利用を始めた最古の油用植物とされます。ゴマ属の野生種のほとんどが西南アフリカのサバンナに分布していることなどから、原産地は西南アフリカとされますが、インド亜大陸とする説も有力です(河瀬真琴 2003 など)。BC3000年以前には、すでにインドからパキスタンにかけて広がるハラッパ高原(Harappa Valley)の古代インダスなどで栽培されていたと考えられています(D.Bedigian and J.Harlan 1986など)。BC2300年頃から栄えた古代メソポタミア文明のバビロニアやアッシリア、古代エジプト文明などで広く栽培されてきました。
●気温が高く、乾燥気味の気候を好み、多湿土壌や塩類集積土壌を除き、適応土壌は比較的広い。主根は土中深くまで伸長し、干ばつに良く耐えます。病害虫が少なく栽培期間も3~4カ月と短いため、栽培は比較的容易です。
●一方で、塩害や湿害には非常に弱く、また栽培中の気温が低いと生育が停滞しやすいため、栽培地を選定する際には、これらを考慮することが重要です。
●アフリカ中南部(スーダン、ナイジェリア、タンザニア、エチオピアなど)や西南アジア(インド、ミャンマー、中国など)、中南米(メキシコ、パラグアイなど)など世界各地で1,174万haの栽培があり、およそ600万tが生産されています(FAOSTAT2018より)。
●日本で栽培が始まったのは、おそらく縄文時代晩期であろうと考えられています。
●日本での栽培面積はわずか215.9ha、収穫量は95.88tであり、主な産地は、鹿児島県喜界町であり、そのほか沖縄県(竹富町、宮古島町)、茨城県(水戸市、笠間市)、山形県(白鷹町)などで栽培されています(2007年産 /農林水産省 特産農作物の生産実績報告より)。
●消費のほとんどを輸入に頼っており、2020年の輸入量はおよそ20万t。主な輸入先はアフリカ中南部(ナイジェリア、ブルキナファソ、モザンビーク、タンザニアなど)、中南米(パラグアイ、グアテマラなど)となっています。
左上 :ゴマの開花と結実(岩手在来 黒ゴマ)
右下 :ゴマの成熟期(岩手在来 黒ゴマ)
「栄養的価値と利用法」
●ゴマ種子には脂質が53.8%含まれています。脂肪酸のバランスも良く、飽和脂肪酸を15.3%、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸(C18:1)を38%、必須脂肪酸でn6系多価不飽和脂肪酸であるリノール酸(C18:2)を46%含んでいます(日本食品標準成分表2020年版(八訂)より)。
●機能性成分: ゴマには抗酸化性成分であるゴマリグナン(セサミン、セサモリン、セサミノールなど)が含まれます。ゴマ油の抗酸化性は、サフラワー油(紅花油)より数倍高く、焙煎ゴマ油はゴマサラダ油(未焙煎)よりも高いことが知られています。
●ゴマセサミンには、コレステロールの腸内での吸収抑制や肝臓における代謝改善の働きがあり、血清中のコレテロール濃度を低下させる機能があります。ゴマセサミンは熱に対する相定性が非常に高く、加工や調理でも高く保持されます。また、セサモリンの分解で生じるセサモールは加熱温度が高いほど速やかに生成され、これらが炒りゴマや焙煎ゴマ油の酸化安定性につながっていると考えられます。
●ゴマの栄養価や機能性成分は品種や産地によって違いがあります。
●ゴマ油は香りを珍重するため、圧搾法で精油されます。焙煎ゴマ油は、独特の香ばしさがあり、琥珀色をしているのが特徴です。選別(精選・遺物除去) →加熱・焙煎 →搾油(破砕・圧搾)→ろ過 →熟成(静置・沈殿) →仕上げろ過の工程で製造されます。
●一方、未焙煎ゴマ油は、焙煎工程を省いたもので、ゴマ油独特の香ばしさがなく、あっさりとしているのが特徴です。
●精選した粒を、炒りゴマ、すりゴマ、練りゴマなどにし、幅広く調理に用います。
主な品種と種子の入手方法
「品種と特徴」
●分げつ数などの草型は品種系統によって様々です。蒴果(サヤ)の子房内部の室数(列数)は、品種系統によって、4室(2心皮)、6室(3心皮、稀)、8室(4心皮)があります。また、1節に着生する蒴果数は、1個または3個(稀に2個、4個)があります。
●種子の色は多様ですが、黒、褐(茶)、黄褐(黄)、白の4種に大別されます。
●黒ゴマは全国的に栽培され、早生で寒さにも比較的強いため、岩手県北部から青森県南部地帯でも栽培されています。
分枝が多く、収量が高い傾向にあります。黒ゴマの種皮の黒色は水溶性のタンニンやポリフェノールによるものです(福田靖子ら 1991年、日食工学誌38(10)より)。
●黒ゴマは、粒が大きく多収ですが、一般に種皮が粗で厚く含油率は低い傾向にあります。ゴマに特有の香ばしさが比較的薄く、やや苦味を呈します。搾油のほか、粒のまま黒色を活かして、炒りゴマやすりゴマなどとして用いられます。
●茶ゴマ、黄ゴマ、白ゴマは、寒冷地以南の過湿ではない平坦な田畑で、栽培されます。
●茶ゴマは、特有の香ばしさは薄いが、甘い香りの成分が他のゴマよりも多く含まれます。炒りゴマとして香りと味が良いため、好んで用いられます(浅井由賀・竹井よう子 1996、日食工学誌29(4)より)。
●白ゴマは表皮表面にシュウ酸カルシウムが多く集積しています。また、黒ゴマや茶ゴマではセサミンが種皮以外の部位(子葉や胚乳)に高い濃度で存在しているのに対し、白ゴマでは、セサミンが種皮部にもかなりの濃度で存在しています(白戸知子 1997年、食の科学232 より)。
●白ゴマや黄ゴマは、一般に粒が小さく収量も比較的少ないものの、種皮が平滑で薄く、含油量が高いことから、搾油に適しています。
●農研機構ジーンバンク事業においては全962点、うち国内原産品種系統439点(2021年現在)の種子が保存されています。種類区分が"在来"とされる系統は岩手在来黒ゴマ、茨城在来白胡麻、埼玉在来茶ゴマなど12点です。
●農研機構農業研究センターでは、種皮が茶褐色の「ごまぞう」「にしきまる」、種皮が黒色で「岩手黒」並の中生種で寒冷地にも適する「まるえもん」、種皮が白色でやや早生の「まるひめ」といった、ゴマセサミンを多く含む品種を育成しています。
●地域に適合した在来種(書籍や各地域の公的な試験研究機関などで情報を得られます)、または特性や栽培適地が明らかな育成品種(農研機構の公表資料などから情報を得られます)を選びましょう。
ゴマの種皮色(左:黄褐 /中:白色 /右:黒色)
寒冷地におけるゴマ品種系統の特性比較 2008年
栽培地:岩手県軽米町 透明マルチ栽培 播種期:6月5日
温暖地におけるゴマ品種系統の特性比較(大潟直樹2013年) 2006~2008年の平均値
栽培地:茨城県つくば市 黒マルチ栽培 播種期:6月上旬
暖地におけるゴマ品種系統の特性比較 2008年
栽培地:鹿児島県鹿屋市 マルチなし露地栽培 播種期:6月3日
「入手先」
●各産地では独自に種子の供給を行なっています。しかし、いずれも地域街への供給はしていません。
●以下の種苗会社(例)では、ネット通販での入手が可能ですのでご参考ください。( )内は種子商品名です。
○(株)佐藤政行種苗 (黒ゴマまるえもん)
○タキイ種苗(株) (黒ごま、白ごま)
○(株)サカタのタネ(黒ごま、金ごま、白ごま)
○(株)トーホク (金ごま)
○(株)アサヒ農園(黒胡麻、金胡麻、白胡麻)
栽培概要
ゴマの作期と栽培手順(寒冷地、手刈り収穫の例)
「播種前の準備」
●連作は避けましょう。
●排水性の良い圃場を選び、よく腐熟した堆肥を10a当たり1~2t程度施し、耕起して土壌とよく混和し、雑草もしっかりと抑制しておきます。降雨が多い地帯では、明きょなどの排水対策を施します。
●適するpH範囲は広く、pH5以下の酸性土壌や、pH7以上のアルカリ性土壌を除いては、pHを矯正する必要はありません。施設野菜後や家畜分を大量に投入し塩類が集積している土壌は避けます。
●基肥は、10a当たり成分量で窒素4~8kg、リン酸6~10kg、カリ4~8kg程度を全面に散布して、耕起、整地します。
●前作に野菜を栽培した後など、肥沃な畑地では、施肥量をさらに少なめとします。
●寒冷地では、マルチ栽培によって地温を高め、発芽や発芽後の成長促進を図ります。温暖地でも、同様の効果が期待でき、分枝数、開花節数および蒴果数が増加して、収量の安定化につながることが知られています。(熊崎忠 2010.名城大農学報46 など)
●マルチ栽培では穴あきマルチシートを用いると便利です。適するマルチシートの規格としては、例えば9215B(幅95cm、2条(条間45cm)、株間15cmm、黒色)などがあります。
「播種」
●一般的に発芽の適温は25~40℃程度であり、発芽にはおおよそ20℃以上の日平均気温が必要とされます。適度の土壌水分があれば、播種から1~2日で発芽を開始し、3~5日で出芽します。
●寒冷地の在来種は、温暖地、暖地の在来種に比べ、15℃程度の低温でも発芽率や初期生育が優れています。
●播種適期は、寒冷地(東北北部)で6月上旬、温暖地(東北南部から関東地方)で5月下旬から6月上旬、東海以西の暖地では5月中旬~6月中旬です。寒冷地では播種が遅れると減収するおそれがあるので、遅霜のおそれがなくなり気温が十分に上昇する季節になったなら速やかに播種することが重要です。
●収量を高めるには、生育適温の範囲内では日射量の影響が大きく、開花中期頃(播種後60~90日頃)に日射量が多い季節を迎えるよう、播種期を設定すると良いでしょう。
●寒冷地や温暖地では、抑草を兼ねて黒マルチ栽培とすることをお勧めします。畦幅60~70cm、株間15cm程度とし、1株4~5粒播きとします。覆土深は1cm程度と、ごく浅めにします。覆土深は0.5~1cm程度とごく浅めにし、ごく軽く抑える程度に鎮圧します。種子量は10a当たり180g(約500ml)程度です。
●暖地では無マルチとし、畦幅50cm、株間15cm程度とし、1株3~5粒播きとします。覆土深は3cm程度とし、ごく軽く抑える程度に鎮圧します。播種後、出芽前に多量の降雨があると、土壌表面が固結しクラストが形成されると出芽率が著しく低下するので、降雨予報を注視して播種日を決定します。
穴あき黒マルチ栽培でのゴマの出芽揃期 (長野県駒ケ根市)
左上 :黒マルチ栽培(岩手県農業研究センター 品種:岩手黒 6月下旬)
右下 :黒マルチ栽培(岩手県農業研究センター 品種:岩手黒 8月上旬)
「管理作業」
●播種後、出芽前までに使用できる除草剤にはトリフルラリン乳剤やリニュロン水和剤があります。(2022年1月現在)
●出芽揃い後、2回程度に分けて間引きします。1回目の間引きは草丈が10cm程度を目安に行います。これに合わせて株元の雑草を除き、うね間は攪拌して除草します。
●4~5葉ころまでに2回目の間引きを行い、最終的に1株当たり1~2本とし、株元はしっかりと抑えます。また、欠株があれば補植します。
●生育が十分でないときは、開花期までに窒素を成分量で10aあたり1~2kg程度追肥します。
「害虫防除」
●スズメガ類(寒冷地ではメンガタスズメ、暖地ではシモフリスズメが多い)やオオタバコガの幼虫は、開花期頃から茎葉や蒴果を直接食害し、またたくまに大きな被害につながるため、幼虫が小さいうちに早めに人力で除去します。ゴマのオオタバコガに対しては、クロラントラニリプロール水和剤を使用することもできます(2022年1月現在)。
●アブラムシ類が突発的に多発生した場合は、還元澱粉糖化物液剤やベルメトリン乳剤(2022年1月現在)などを用いて防除します。
「収穫調製」
●ゴマは茎の下から上部へ順に開花し、開花の順に徐々に成熟します。上部の成熟を待っていると、やがて早く成熟した蒴果から順に裂開を始めます。
●下部の早く成熟した朔果が2~3個ほど烈開を始めたら、収穫適期です。直ちに刈り取りを進める必要があります。
●湿気が残り裂開が少ない午前中に、鎌で丁寧に刈り取ります。
●持ち運びしやすいよう、ゴマの生育量によって、5~15株をやや緩く結束し、朔果を上向きにして立てかけ、サヤが茶色に乾燥するまで、1週間程度天日乾燥します。
●小規模であれば、軒下やビニールハウスの中など、雨が当たらず風通しの良い場所で、シートを敷いて乾燥させ、弾けた飛んだ子実を回収しやすくします。または、白い寒冷紗で大きな袋を作って、その中に包んで乾燥させると、子実の損失を防ぐことができます。
●よく乾燥したら、シート上で、棒などで叩いて脱穀させます。遅れて成熟した上部のサヤは裂開が進まないので、再度立てかけて天日乾燥し。2回目の脱穀を行います。
●大きな桶にゴマを逆さにいれて、棒で叩き落とす方法もあります。
●シート上に広げてさらに天日乾燥、または寒冷紗で目貼りした静置式乾燥機などで、十分に乾燥させます。
●唐箕(とうみ)による風選(風量や目張りなどは各自工夫)や、ふるい選別などを組み合わせて行い、調製します。
●普通型コンバインによる収穫作業体系も開発されています。あらかじめ、コンバインの刈り取り幅に合わせてゴマを栽培し、下部の蒴果が褐変し裂開する前までに、普通型コンバイン(大豆ソバ仕様キット、専用グレンシーブφ40mm)により蒴果を収穫し、荒選別で夾雑物を除去し、静置式乾燥機で温風乾燥させる体系です(三重県農業研究所生産技術研究室 成果情報2019/農研機構次世代作物開発研究センター(担当:カンショ・資源作物育種ユニット)を代表機関とする革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)による)。
左上から
収穫間近のゴマの草姿 (岩手県紫波郡矢巾 (株)佐藤政行種苗育種研究所提供)
成熟し裂開した黒ゴマの蒴果 (引用 季節の花300調布市神代植物公園)
収穫後結束、自然乾燥中のゴマ(岩手県滝沢市)
及川一也
株式会社クボタ
●参考文献・資料
及川一也著(2003) 雑穀 11種の栽培・加工・利用
大潟直樹 (2013) 作物研究所研究報告No.14 .高リグナン含有ゴマ品種「まるえもん」および「まるひめ」の育成
丹野和幸 (2021) 日作紀90(2).ゴマ(Sesamum indicum L.)栽培の研究動向と多収条件に関する考察
福田靖子 (2007) 日本調理学会誌40(5).伝統食品「ゴマ」の調理加工からみた健康増進機能
その他、それぞれの内容中に引用文献等を記載
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