提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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近年、紋枯病の発生は全国的に減少~横ばい傾向が続いてきました。この要因として、良食味米生産のため施肥量が大幅に抑制されたこと、混合剤によっていもち病や害虫との同時防除が行われてきたこと等が考えられます。一方、温暖化の進行にともなって発生の増大が懸念される病害として、高温性の紋枯病が再び注目されています。
●発生形態
紋枯病の主な伝染源は前年の被害イネ上に形成された菌核で、土壌中で越冬した菌核は代かき時に水面に浮上・浮遊し、イネ株に付着して感染します。さらに、隣接株への水平進展と上位葉鞘への垂直進展により病勢が進展していきます。紋枯病菌は、生育適温が30℃前後と高温で多湿条件を好むことから、高温多雨年や過繁茂となったイネで発生が多く、高温期に登熟を迎える早生品種や短稈・多けつ品種で被害が著しいことが知られています。本病に罹病した株は、葉鞘や葉身が枯死するとともに倒伏しやすくなり、収量と品質の低下を生じます。さらに、紋枯病が白未熟粒の発生を助長していること(宮坂ら2009)、外観品質の低下に加えて、食味総合値が低くなる傾向も明らかにされています(向畠ら2009)。
左 :イネ紋枯病(発生初期の病斑)
右 :止葉まで進展した紋枯病(穂いもちとの複合被害)
品質・食味低下要因として紋枯病が位置づけられたことから、米の産地間競争が激化する中では、紋枯病の発生動向に注意が必要です。なお、飼料用イネ等では多肥栽培が基本となることから、当然ながら紋枯病の発生リスクが高まります。
●防除対策
紋枯病に対する実用的な抵抗性品種が存在しないことから、耕種的および薬剤防除が防除の中心となります。紋枯病の発生を助長する多肥と密植栽培を避けることを基本とし、プラウ耕や代かき時の浮遊残渣除去による残存菌核量の低減など、耕種的対策も見直すべきでしょう。その上で、発生予察に基づいた薬剤防除が最も現実的な防除手段となります。登録薬剤の種類は多く、いずれの薬剤も効果が高いものです。水面施用の粒剤やパック剤、長期持続型育苗箱施用剤も開発され、防除薬剤の選択肢が拡大しています。一方、施用方法や価格には大きな差があることから、経営方針に基づき防除コストを考慮した薬剤選択が大切です。前年多発圃場での防除や思い切った省力化には水面施用粒剤や育苗箱施用剤、大規模経営におけるコスト低減には発生程度に応じた散布剤の使用が考えられます。
茎葉散布による防除適期は穂ばらみ期~出穂期にあり、圃場内における紋枯病の発生状況を把握した上で、各薬剤の使用説明書を熟読し適切な施用を行ってください。
紋枯病は、感染好適条件下で爆発的な増加を示すいもち病とは大きく異なり、じわじわと病勢進展する病害です。このため、要防除水準の策定が極めて有効と考えられ、おおむね穂ばらみ期の発病株率が10~20%以上の時に防除が必要とされています。本病の発生は圃場内に残存する菌核量に影響を受け、同一地域内でも圃場ごとに発病程度は大きく異なります。このため、画一的に薬剤散布を行うことは過剰防除につながりやく、減農薬志向で単純に薬剤成分数を減らすことも危険です。山形県の早坂(2002)は、畦畔際1条を見取り調査する簡易調査法が防除要否判定に有用であるとしています。
今後、IPMの観点からより合理的な防除を目指すには、このような簡易発病調査法を現場に適用していくことも必要と考えます。
表 都道府県が設定しているイネ紋枯病の要防除水準(一部)
参考:(社)日本植物防疫協会のホームページ→ JPP-net →一般向け情報、から入手可能
荒井治喜
(独)農研機構中央農業総合研究センター 北陸研究センター 上席研究員