いま、郷土食が面白い! (2)
2013年03月07日
最近気になる、ブレイクしそうな郷土食文化たちII
(つづき)そうした風が吹き始めたからでしょうか、最近はフランスやイタリアで修行をして帰国した日本人シェフが、東京や大阪などの大都市圏を経由せずに、あえて自分の出身地に店を開業するというパターンが増えてきました。
これまでは、海外修行から帰ったら、まずは大都市圏に店を出し、余生は地方に戻って過ごすというのが普通でしたが、今は違うのです。これは、海外で修行をしてきた彼ら、彼女らからすれば、当然のことかもしれません。
高度に物流システムの発達した日本では、離島でないかぎり、どんな地方でも1~2日あれば食材を手に入れることが可能です。逆に、地方では東京や大阪では手に入らない食材を見つけることができます。鮮度だって、比べものにならないほど新鮮なものを入手可能。それに、フランスやイタリアの料理は、地方独自の食材や料理法というものを非常に大切にします。郷土料理が、その国の料理のベースになっているということを、みな理解しているのです。だから、海外修行組の中には、自分の出身地域でやるぞ、という意欲に燃えた人が多く出てきているのです。
■地方の時代がやってきた!
なぜこんなことになっているのか。私個人の考えを言えば、「中央の食文化」に、みな飽きてしまったのだろうと思います。
高度経済成長からバブルに移行した頃、それまでの耐乏生活から、どんどんお金を使ってハレの食を楽しむようになりました。フランス料理やイタリア料理など、きらびやかなイメージを持つ国のレストランが人気を呼ぶ。そこではフォアグラやキャビア、等級の高い牛肉など、豪華な食材が惜しげもなく並びます。提供されるのは、地方ではなく中央の食文化の粋です。自分が豊かになったという実感を、豊かさの象徴である都市部、または先進的な外国の食文化を味わうことで感じていたのでしょう。
しかし、思う存分に贅沢を味わったバブルもはじけ、価値観が変わってきました。テレビでは相変わらずグルメ番組が花盛りですが、そうした情報の洪水によって、逆に中央の食文化が最強のコンテンツとはならなくなってきているとも思えるのです。銀座に人気シェフの新しいレストランが開店した、フランスの一流パティシエのブティックがオープンする、といったニュースは、どこか目新しさが見当たらない、どこかでみたことのある風景なのです。だから、昔と比べると、そんなに集客のパワーを持っていないようにみえるのです。
その一方で台頭しつつあるのが、冒頭から述べている地方の食文化です。「中央の食」は、宮廷料理のようなものですから、よく考えてみるとバリエーションがそんなにありません。しかし「地方」は、日本全国どこにも存在しています! つまり、ネタはまだまだあるということ。そういえば、先のB-1グランプリにも、出場を希望する地域や団体が目白押しだそうですから、この金脈は、まだまだ掘り尽くせそうにありません。
次回は、こうした地域の食文化で私が最近、「面白い!」と思ったものを、いくつかとりあげていきたいと思います。また、地方の食文化が盛り上がると、なぜ第一次産業のためにもなるのか、ということも、あわせて書いていきましょう。(つづく)
写真上から
●アル・ケッチァーノの奥田シェフと料理達
●アル・ケッチァーノの奥田シェフと料理達 チーズの横に添えられているのはなんと伝統の柿!
●これが年末には東京の有名百貨店で一本300円になる平田赤ネギ

やまもと けんじ
株式会社グッドテーブルズ代表取締役・農産物流通コンサルタント。
一次産品の商品開発のアドバイザーをする傍ら、全国の郷土食を食べ歩いている。「週刊フライデー」、「きょうの料理」、「やさい畑」などに連載を持ち、著書に「激安食品の落とし穴」(KADOKAWA)「日本の食は安すぎる」(講談社)、「実践農産物トレーサビリティ」(誠文堂新光社)などがある。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」も人気が高い。