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日本の「食」は安すぎる 【4】

2009年11月17日

食文化の再構築が必要だ

                農産物流通・ITコンサルタント 山本謙治


 先日、あるインターネット調査で、興味深いレポートを眼にした。
 「何を頼りに料理をしているか」という問いに対して、40代以上の回答者は「自分の頭の中にあるレシピを参考に」と答える率が高いのに対し、20代以下になると「インターネットでレシピ検索する」という回答が半数を超えるという。つまり、若い世代は「レシピがないと料理できない人たち」になっているのだ。


 この傾向は僕にもよく理解できる。ここ10年くらいの間で、スーパー店頭でのレシピカードの配布がとても多くなっている。
 昔はレシピカードを取っていく主婦は少なかったが、最近では、レシピがないと素材が売れない、という状況になっているようだ。
 もっといえば、「この野菜とこの肉を買って、この調味料で味をつけてできあがり」という、セット提案型の売り場作りが多くなっている。若い世代の料理に関する知識が本当に貧弱になっていることで、教えてもらわなければ食材も買えない、ということになっているのだ。


 こんな状況が進めば、手をかけなければならない素材は、全く売れなくなってしまうだろう。現に、今売れている農産物といえば、トマトやブロッコリーといった、手間をかけずに食べることができ、味がハッキリした、“わかりやすい”ものばかりではないか。


 料理をするという文化がなくなれば、素材である農畜産物は売れなくなってしまう。だから、この不況下で内食志向が出ているうちに、料理技術の普及もしていかなければならないと思う。これは「食育」という流行とはまた別に、考えていかなければならないことだと思う。
 大げさに言えば、料理技術というところからはじまり、ひいては「食文化を再構築する」というところに至らなければならないのだ。


 いま、日本は自国が持っている、深みのある食文化を大きく損なおうとしている。
 しばらく前に、沖縄県の食文化が長寿につながる、ともてはやされていたけれども、現状をみると沖縄の若い男性の健康状態は非常に悪く、肥満傾向にあり、成人病罹患率なども上がっているという。

 「日本の食文化は素晴らしい」というのは、もはや過去の話だということを認識して、国民全体がどのような食を目指さすべきか、をきちんと設計し直す時期が来たのではないだろうか。(つづく)

やまもと けんじ

株式会社グッドテーブルズ代表取締役・農産物流通コンサルタント。
一次産品の商品開発のアドバイザーをする傍ら、全国の郷土食を食べ歩いている。「週刊フライデー」、「きょうの料理」、「やさい畑」などに連載を持ち、著書に「激安食品の落とし穴」(KADOKAWA)「日本の食は安すぎる」(講談社)、「実践農産物トレーサビリティ」(誠文堂新光社)などがある。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」も人気が高い。


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