青虫の足あと【58】
2012年05月11日
自分を取り戻すもの
山田早織
この4月から、息子は保育園に通い始めました。
親子ともども不安いっぱいで、2週間の慣らし保育が始まりました。
保育園入園に伴って、仕事の時間も大幅アップ!! そのことが、私の不安をさらにあおっていました。
夕方仕事が終わって、保育園に迎えに行き、帰宅してから30分以内で食事を作らないと、寝る時間が遅くなってしまう…しかも朝も早くなるから、その分早く寝かせてあげないと…。買物も週末にまとめて、下味をつけて冷凍して…一週間のメニューを…etc。
頭の中がいろいろなことでいっぱいになり、慣らし保育が始まって、すぐにクラクラ。
はじめの2日は、朝送って1時間半でお迎え。次は給食の時間にと、お迎えも日替わり。仕事は休めないので、その後職場や実家に預けて仕事へ。仕事をしながらの慣らし保育は想像以上に大変!
スケジュールは何とかなるのですが、精神的にかなりきついです。
朝保育園で泣かれ、迎えに行って実家に預けてまた泣かれ…一週間、私も毎朝泣きました。
保育園に慣れてしまえば、楽しい場所になるのはわかっています。
でも、こんな思いをさせてまで仕事をする意味があるのか、そもそも、そんな価値のある仕事が自分にできるのか…またまた頭の中がぐるぐるしました。
一週間たった頃、保育園に少しずつなれてきたけど、私の体調は最悪。
夕方、肩こり頭痛とひどい吐き気の中、ビニール袋を片手に大泣きしながら、実家まで子どもを迎えにいきました。
毎日を過ごすのに精一杯で、桜が散っていくのも、なんの感情もなく見ていました。
欲求もない、物欲もない、どこかに行きたい気持ちにすらならない。
ふだん欲求の塊の私には、初めての状態でした。
子どもと一緒にいるときはちゃんと子どもを見ようと、携帯電話は置きっぱなし、メールのやり取りすら、精神的に余裕がなく、できなくなりました。
自分のキャパの狭さに、またまたガックリきて落ち込んだとき、宅配便が届きました。
山のほうに住む友人が、たけのこや大根の葉っぱの佃煮などを送ってくれたのです。
箱を開けた瞬間、たけのこ独特の香りが…
「あぁ、忘れてた。たけのこの時季かぁ」そういえば、スーパーにもあったなぁ。春なんだなぁ…
友人からの贈り物は、私のパツンパツンに張り詰めた心の糸を、緩めてくれるものでした。
旬のものの香りや味わいが、本来の自分を取り戻すきっかけになってくれた。
いつも、何気なく過ごしていた季節。旬のものの、香り。
それらは、自分を取り戻すのに充分なものだった。
子どもが保育園に慣れ、大好きな先生もできた今は、日々小さな成長に喜びながら、ちょっとだけゆとりを持って生活することができている。
食事の楽しさも復活してきた。
頑なになっていたんだなぁ。
毎年たけのこを食べるたびに、このことを思い出すんだろうな…。
写真よりも鮮明に、そのときの気持ちを思い出させてくれる。
旬のものって、やっぱりいいな。

やまだ さおり
静岡県浜松市出身。フランス料理店に勤務後、23歳で起業した(有)しあわせ家族代表取締役、園芸福祉士。培養土、花苗・野菜苗の販売のほか、庭づくりや商店のディスプレー、野菜の宅配など、関心とニーズのある分野に事業とボランティアを展開中。