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ぐるり農政【175】

2021年10月20日

鈍い電気自動車への対応

ジャーナリスト 村田 泰夫

 
 日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が「電気自動車(EV)への全面移行」に懸念を唱えている。2020年12月のオンライン記者会見で最初に発言してから、公の場で何回も繰り返し表明している。

 直近の会見である21年9月には、「エンジン車以外の電気自動車しか生産できなくなれば、わが国の自動車産業を支える550万人の雇用の大半を失う」と警告を発した。


murata_colum175_1.jpg 豊田章男会長の発言の趣旨は次の2点に集約される。
①自動車の電動化とは、EV(電気自動車)に限定しているようだが、それは誤りで、ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッド車も含めるべきだ。
②わが国の発電は、石油や天然ガスなど火力発電に依存しており、仮に自動車の電動化を進めても、2050年にカーボンニュートラルを達成することは困難である。


 はっきり言って、説得力があるとはいいがたい。ハイブリット車は、ガソリンエンジンで走っているときに発電し、低速時にその電気でモーターを回すので、ガソリンの使用量を大幅に減らすことができる。「低燃費」であることは確かで、ガソリンの使用効率がいいから温室効果ガスの排出量も減らせる。しかし、ハイブリット車は、基本的にはガソリンエンジンで走る自動車であり、それを「温室効果ガスゼロの電気自動車の中に分類しろ」というのは、とても無理な話である。

 第2の論点は、なるほどと思わせる側面もある。石油や天然ガスを燃料とした発電に依存し、太陽光や風力など再生可能エネルギーによる発電に転換しなければ、カーボンニュートラルは実現できない。しかし、だからといって、「電気自動車への転換を急ぐべきではない」ということにはならない。電動(EV)化への全面移行が難しいか、それとも既得権を守るために、自動車業界がゴネているとしか受け取られかねない。


murata_colum175_2.jpg 豊田氏の主張は、日本自動車工業会の会長としての発言だが、わが国の自動車業界全体の考え方かというと、そうでもないらしい。というのは、ホンダの三部敏宏(みべ・としひろ)社長が2021年4月、新たに社長に就任したときの記者会見で、「脱エンジン宣言」ともいうべき爆弾発言をしたからだ。

 三部社長は「2040年までにEV(電気自動車)、FCV(燃料電池自動車)の販売比率を100%にすることをめざす」と述べた。その行程表も明らかにし、「先進国ではEVなどの販売比率を2030年には40%、35年には80%にする」とした。FCVは、燃料電池車のことで、水素と酸素の化学反応によって発電した電気でモーターを回して走る。「水素自動車」と呼ばれることもある。EV、FCVとも、二酸化炭素(CO2)を出さないので、地球温暖化の防止に役立つ自動車として注目されている。

 このホンダの姿勢に、業界はびっくりした。いずれ電動化は避けられないと、わかってはいても、具体的年限を決めて公表した野心的な取り組みに驚いたのだ。

 「生産するすべての乗用車を電気自動車にする」ということは、簡単なことではない。電気自動車は、1回の充電で走行できる航続距離がガソリンエンジン車と比べて短い。しかも、充電時間が長くかかる。FCVの場合は、燃料となる水素の供給網づくりから始めなければならない。もちろん、これらの課題は現在時点のことであり、今後の研究開発や政府による支援などで解決されるかもしれないが、現時点での決断に業界は驚く。


murata_colum175_3.jpg トヨタの豊田社長とホンダの三部社長の姿勢は、対極の立場にあると言っていいのではないか。どちらの主張が、業界内の支持を集めるのだろうか。豊田社長がハイブリット車にこだわるのは、トヨタが世界でナンバー1のハイブリット車メーカーであることと無関係ではないだろう。既得権を守ろうとするなら、時代から取り残される恐れがある。


 EV(電気自動車)への移行は、世界中で加速している。2030年までに、メルセデス・ベンツは全販売をEVに、フォルクスワーゲンとBMWは全販売車の5割をEVに、2035年までにゼネラル・モーターズはエンジン車を全廃する。また、ノルウェーでは2020年に新車販売の半分以上がEVになったという。既得権にしがみついている時間的余裕はない。


 経済誌などに掲載された三部社長のインタビューによると、EV時代の到来を難題と受けとらず、むしろ好機と受け止めているようだ。「電動化をモビリティー産業と捉えれば、歓迎すべき環境だ」と語っている。つまり、「攻めの経営」のきっかけにしようとしているのだ。

 ホンダには成功体験がある。1970年代初め、世界中の自動車メーカーが「達成できない」とした米国の「マスキー法」(大気浄化法)をクリアするCVCCという低公害エンジンを開発し、一躍、世界メーカーの一員にのぼり詰めた。その後、わが国のメーカーは厳しい規制に対応する新技術を次々と開発し、厳しい排ガス規制に対応した日本の自動車産業は、世界の業界を引っ張る存在となった。わが国の自動車メーカーに、ホンダのような野心的な目標に挑戦するメーカーが続出することを期待したい。(2021年10月18日)

むらた やすお

朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。


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