信州発 "農"と言える日本人 【52】
2013年08月14日
創造する
高見澤勇太
高校2年の娘に誘われて、映画を見に行った。
宮崎駿監督作品『風立ちぬ』
何の予備知識もないまま観た。
スタジオジブリのアニメは、女性や子供が好む映画が多いが、
大人の男性が夢とロマンを抱くような内容で、ビックリした。
時代背景は、大正時代から昭和の初期。
『飛行機大好き少年が大人になり、飛行機の設計士になる。
そして世界に誇れる戦闘機"零戦"を作り上げる。
そこに夢や希望・挫折・生と死・恋愛を織り込んだ映画』である。
その映画の中に、こんなセリフがあった。
「創造的人生の持ち時間は10年。
君の10年を力を尽くして生きなさい」
主人公が尊敬する、イタリア人設計家の言葉だ。
当時の日本は貧しい国で、平均寿命は短命、
人生の中で創造的活力のある時期は10年ほどで、
「その年月をすべてそそぎこめ」
という意味ではないか。
◇◇◇
自分が就農した30年ほど前は、
良い農作物を栽培して出荷量を増やせば、お金の取れる時代だった。
品質の良い野菜を作るために、巷で
「この資材を使用するとこんな良い白菜ができる」
という話を聞くと、資材の価格に糸目をつけず、その資材を購入する。
そんな時代だった。
現在はというと、「一番に経費の節減」が叫ばれる。
「それなりの野菜を低コストで栽培する」時代、
といっても過言ではない。
自分なりにやってきた農業は、創造的な30年だったと思う。
しかしそれは、野菜を栽培するための創造で、
農業を経営として考える創造ではなかった。
農協という組織は、最低レベルの70点ほどの品物でも、
検査をクリアすれば良品になる。
100点の農家の野菜が、市場で1000円で売れたと仮定しよう。
70点の農家の野菜は、700円で売れるとしよう。
簡単に言うと、
真ん中の850円が双方の農協口座に振り込まれるシステム。
優良農家はやる気が低くなり、
ダメ農家は、いつも他農家に"おんぶにだっこ"状態である。
農業協同組合の「協同」を広辞苑で調べると、
「ともに心と力を合わせ、助け合って仕事をすること」
とあった。
良い農家が浮かばれるシステムを早く創造しなければ、
『ともに助け合いながら共倒れになる』気がする。
たかみざわ ゆうた
1964年長野県生まれ 北佐久農業高校卒業後、すぐに家業である農家の後を継ぐ。長野県農業士協会会長(07・08年)、野菜ソムリエながの代表(08・09年) 、南牧村議会議員(07年~11年)。座右の銘は「ゆるく・楽しく・美しく」


