提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


ときとき普及【49】

2022年07月27日

山菜園(その3)


やまがた農業支援センター 阿部 清   


 山菜の新商品開発を目的にした普及計画に携わっていた頃、京浜の青果市場のセリ人から"春の3山菜"ということばを教えてもらったことがある。タラノ芽、コゴミ、フキノトウを指していて、早春の気配を感じる代表的な山菜とのことだった。また、廃棄される部分がほとんどなく、多くの人が知っているからだ、とも言っていた。

 「赤ミズ」の商品化の際には、山どころの地域では知らない人がいない山菜であっても、市場関係者からは料理レシピを要求されることが多かった。食材として利用した「もぎりミズ」のミズ汁は、大好きな郷土食だ。しかし、赤ミズの荷姿は通常食用にしない葉を多く付けており、それが、販売する際の課題であった。「赤ミズ」の市場流通上の欠点に断じることはやめようと、「なじみのない山菜は販売が難しい」という風に結論づけた。

 このネタは、しばらくの間普及活動に使っていた。「廃棄する部分のない山菜は商品化が容易」「都会の消費者は、なじみのない山菜は食べない」など。当時は、山菜ネタの普及活動に、とりわけ力が入っていたことを思い出す。


column_abe49_1.jpg アク抜きという前処理が必要な山菜ではあるが、ワラビは「廃棄する部分のない山菜」の代表格で、多くの人が判断に困らない、なじみのある山菜である。
 山菜の種類の多くは、北斜面に群落を形成していることが多い。これは、土壌水分が安定していることによる。事実、山の南斜面では、ワラビ以外に目立った山菜は少ないが、ワラビは日当たりの良い場所に群落を形成している場合が多い。しかし、ワラビは、遮光された林床においても良品が採取できることから、里山や原野であれば場所を選ばない山菜かもしれないと思っている。ワラビは日照を好むが、土壌の乾燥を嫌う山菜に違いないと。


 ワラビの光飽和点は約25kix(キロルクス)であると推定されている。普及員時代、実栽培では、遮光資材を用いて遮光率を30~60%程度にすることで収量や品質を向上させていた事例があった(遮光条件により品質が向上する山菜だが、ワラビに対する遮光施設は経済的には割があわない)。
 特筆すべき点は、20年以上も連年で栽培が可能なことだ。そのため、少し前に流行ったソーラーシェアリング(営農型太陽光発電)に適した作物だろうと考えていた。太陽光パネルは、平均で28%、施設直下で最大78%の遮光率であるからだ。ソーラーシェアリングにおいては、パートナーたる作物は、施設化という特殊性を考慮していないと感じたものが多かった。「ずいぶん相性の悪い作物を選定している。ワラビだったらベストパートナーだ。太陽光パネルがコンパニオン(この場合は遮光という意味)としての役割を担うこともが可能だ」と思っていた。

 ほどなく、発電事業者からソーラーシェアリングのアドバイスを求められる機会が訪れた。ワラビだけではなく、野ブキも例にあげ、ソーラーシェアリングのパートナー作物としてのウンチクを披露したのだった。
 ソーラーシェアリングの諸課題を理解しながらも、一方では、パートナー作物栽培の経済性についての疑問を振り払うことができなかった。「なぜ、施設下という栽培作業性の悪い場所で、営農しなければならないか」ということだ。消去法でパートナー作物を選択していくと、収量性や品質向上が期待できるワラビ以外に適合する作物は考えつかなかった。「中山間地域には、耕作放棄地化が心配されるほど、あり余る農地が存在するのに、ソーラーパネルの設置場所として農地を選ぶ理由がわからない。営農側からも、施設の架台は邪魔になるのは間違いない。少しの勇気を持って、農地法上の非農地証明を受ければ、課題はたちどころ解決できる」とアドバイスすることを忘れなかった。


column_abe49_2.jpg わが家のわらび園は、植栽開始から20年程度も連年で栽培(というより放任?)している。現在の生育のそれは、普及員時代の見立てのとおり、生産性や品質に変化がない。8月下旬以降に葉が倒伏しないこと、大型雑草を制御するための刈り払いと、施肥のタイミングを間違えないという栽培のポイントを外さなければ、ワラビ園地として維持することができるようだ。

 枯葉への火入れの是非を明確にできないでいたが、最近では、火入れを行わない管理方法が適していると判断している。なぜならば、火入れを行わない方が、有機質の蓄積により土壌水分が保持され、結果として、品質が安定すると感じたからである。もうひとつ、有機物は窒素供給源になっているようで、自生地の有機物の堆積状況を見れば、これは議論の余地がない。施肥窒素のみで自生地栽培を維持するのは難しいからでもある。「山菜は、一に土壌水分、二に有機物・・・」、これが、最近になって感じている山菜の自生地栽培のコツだ。施肥に全幅の信頼を寄せていた普及員時代を懐かしく思い出すとともに、当時の至らなさを反省している。


 晩夏以降の倒伏防止と大型雑草対策のため、6月下旬から7月上旬の刈り払いが必須であるが、昨年のような空梅雨の場合は判断が難しい。天候の関係でいえば、刈り払いは先行して行うため、空梅雨の昨年は、ドキドキしながら作業を行った。倒伏防止のためには、この時期の刈り払いは効果が高い。
 観光ワラビ園では、初秋に茎葉が倒伏したワラビは、翌年の萌芽が芳しくないという話を聞くことがあった。晩夏以降に倒伏しないことが、翌春の萌芽を安定させるポイントになるのだろう。施肥は、融雪直後と刈り払い後の2回行う場合が多いが、わが家では刈り払い直後の1回のみにしている。


column_abe49_3.jpg 家庭料理の定番は「ワラビたたき」だ。味噌味で、薬味として葉サンショウを入れるが、このために、山菜園の仲間にサンショウを加えたのだった。サンショウは、ワラビの収穫時期になるとちょうど展葉するという相性の良さ。地区の高齢者から譲り受けた「とげなし種」だ。同時に、秋田県で特産品になっているチョロギも分けてもらったが、こちらは管理不十分で、数年前になくしてしまった。


 ワラビの収穫物の多くは塩蔵にしている。目標束数まで収穫を継続し、その後は株養成に切り替えている。収穫直後に塩蔵処理すると、切り口の硬化が少ない。これも、山菜園ならではのことと思っている。
 地域では、塩蔵したワラビやウドを使ったソウルフードが多く、両者が塩蔵した山菜の代表だといわれる由縁でもある。雑キノコも塩蔵で、乾物はゼンマイやウルイなど。いずれも山里の冬の食卓を支えた(支える)食材になっている。同じ県内でも、山から離れてた里では山菜が少ない分、野草を貯蔵する場合が多いように感じる。山形県ではスベリヒユが、その代表的な野草になっている。

 普及員をやっていると、各地域のソウルフードに触れる機会が多い。それらを食べながら、材料となる山菜の生産を考えることに勤しんでいた。


●写真上から
・刈り払い直前のワラビ園地
・刈り払い直後のワラビ園地
・刈り払いから約2週間後、再生を開始したワラビ園地

あべ きよし

昭和30年山形県金山町の農山村生まれ、同地域育ちで在住。昭和53年山形県入庁、最上総合支庁長、農林水産部技術戦略監、同生産技術課長等を歴任。普及員や研究員として野菜、山菜、花きの産地育成と研究開発の他、米政策や農業、内水面、林業振興業務等の行政に従事。平成28年3月退職。公益財団法人やまがた農業支援センター専務理事(令和2年4月現在)。主な著書に「クサソテツ」、「野ブキ・フキノトウ」(ともに農文協)等。


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