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きょうも田畑でムシ話【136】

2024年07月08日

ダンゴムシ――功罪を天秤にかける  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 始まりは、ニガウリの苗だった。
 家庭菜園めいたことは何年も前からしているから、ニガウリのタネからつくる苗もオチャコノサイサイ、苗が多くできすぎて困るくらいだ。狭い菜園のどこに定植するかで、毎年頭を悩ませる。

 ところが、今年はちがった。ニガウリの苗がうまく育たなかった。
 タネは毎年多めに残してあるから、端っこをプチッと切って一晩水につける。翌朝起きてビニールポットに埋めておけば、そのうち勝手に芽が出て立派な苗になる。
 去年はとりわけ豊作で、毎日毎日、ニガウリが食べられた。ゴーヤーチャンプルーを食べ続けた。


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左 :去年はニガウリが大豊作。数株しかないのに、毎日これくらい収穫できた
右 :毎年、タネをまいて野菜苗を育てる。芽を出してしばらくは虫に食われることもなかったのに、その〝マイ神話〟がついに崩れた


 それなのに、今年はどうだ。タネをまけどもまけども、芽を出さない。何度かまき直しをして、ようやく発芽するものが現れた。
「よし、これなら何とかなる」
 ほっとしたのも束の間、朝になってポットを見ると、ようやく本葉を広げたばかりの苗が何者かにかじられていた。ほかの野菜苗はと見ると、シソやバジルの葉も同じような被害にあっている。


 シソの害虫なら、すぐにわかる。毎度おなじみのオンブバッタだ。卵からかえったばかりの小さな幼虫が何匹もいて、やわらかい葉を食害している。
 オンブバッタのかじり痕なら、見慣れている。ナメクジが犯人なら、粘っこい痕跡が残る。ウリハムシは葉に円を描くようにして溝を切り、彼らにとっていやーな物質の流れを断ち切ってから食事を始める。カメムシのくちは針状だから、葉をかじるなんて芸当はできっこない。
 そうしたあれこれを頭の中で推理・検討するのだが、答えにはたどりつけない。


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左 :ふ化して間もないオンブバッタ。幼虫だからたいした被害ではないのだが、数が多いとそれなりのダメージはある
右 :葉を食べるクロウリハムシ。食事の前に丸くかじり、苦み物質を遮断する


 ――犯人はどいつだ?
 わからないまま、木酢液に焼酎、唐辛子を混ぜてつくったものをかけた。効果のほどはわからないが、いかにもという匂いが鼻に残る。

 あくる日。忌避剤をかけた苗のポットに、ダンゴムシがいるのを見つけた。
 3匹も。
 ピンときた。そいつらがおそらく、ニガウリの加害者だ。


tanimoto136_5.jpg 野菜苗のポットはいくつもある。念のため、ほかも調べてみると、同じ場所に置いた20個ほどのうちの4個で、ダンゴムシが見つかった。
 そういえばその少し前、モロッコインゲンの苗もひとつだけ、何者かに荒らされていた。双葉を広げてすぐ、茎の根元と葉がかじられたのだ。そこにもダンゴムシがいたのに、気づけなかった。
 ダンゴムシを疑わなかったのには、理由がある。苗づくりの段階で、ニガウリの葉が食べられたという記憶がないのである。キュウリ苗は早いうちからウリハムシに目をつけられるが、ニガウリは常に安全、害虫知らずの野菜だと思っていた。

右 :発芽したばかりの野菜苗ポットを見ると、ダンゴムシがいることはある。だが、苗をかじられた記憶はなかった

 ダンゴムシは、海から陸に上がった〝上陸3きょうだい〟の末っ子だ。フナムシ、ワラジムシ、ダンゴムシの順で、陸上生活に順応した。
 一番乗りを成し遂げたものの、フナムシはいまだに、海岸から離れられない生活を続けている。ワラジムシはある程度の集団でいないとからだの乾燥が防げず、長生きできない。
 そこへいくとダンゴムシは、見事な変身ぶりだ。個体ごとにバラバラの生活をしていても、ある程度の乾燥に耐えられる。ダンゴムシはいわば、3きょうだいの中の成功者なのである。
 集団行動をとる必要がないから、あっちに1匹、こちらに1匹と、よく見かける。もっと巨大だったら目立ってしかたがないが、小さいから、気づかれずに過ごせる。上陸時期はフナムシ、ワラジムシより遅れたが、そのあとの生活は快適だ。自分の行きたいところへ、いつでもひとりで行くことができる。


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左 :フナムシ。陸上生活を始めたのは早いが、海岸から離れず、集団生活を送る
右 :常に集団というわけではないが、ワラジムシが群れている場面にはたびたび遭遇する


 ところが、現実には寄り集まることも多い。
 草を刈る。抜く。ためておく。そのあと数日してその場を見ると、枯れた草の山ができている。
 そのときだ、ダンゴムシの寄り合い所帯に圧倒されるのは。
 層になった草の上方でしなっとしている草々をちょいとよけれると、いるわ、いるわ、いるいるいる。ダンゴムシの大集団がそこらじゅうにいる。

 どうしてそんなことになるかというと、集合フェロモンが働くからだ。ごちそうを見つけたら独り占めすればいいのに、彼らの世界にはそうしてはならぬという厳しい掟があるのかもしれない。ワラジムシのように保湿が目的ではなく、とにかく仲間とのきずなを大切にしたいようなのである。
 その際に用いるのが、自分たちのウンコだ。消化器官の形状がそうさせるのか、丸い体からひり出すそれは直方体になる。その形の不思議さに加え、ウンコには仲間にだけ伝わるにおい成分も含まれているのだ。
 えさはたんとあり、自分だけではとても食べきれない。腐る前に仲間にも分けてやろうというやさしい気持ちの表れなのかどうかは不明だが、ウンコからもれる集合フェロモンが仲間を呼びよせる。


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左 :ダンゴムシだって集団になることはある。石灰質を求めて......カタツムリの子も一緒だった!
右 :ダンゴムシのふんは直方体。しかもふんには極秘情報が詰まっているらしい


 本当は腐りかけの草の方が好みのはずだが、そんなことはこの際、どーでもいい。集まりすぎるほど集まったことが、問題なのである。うじゃうじゃウギャーのダンゴムシ団子状態の生まれることが、ニンゲンにとっては驚きなのだ。
 狭い育苗ポットの中でデビューしたばかりのニガウリ苗に、うじゃウギャーのダンゴムシが集まることはない。
 だが、まだあどけない葉に数匹のダンゴムシというのは、いかがなものか。葉はかじられ、運が悪いと茎までいたぶられる。あとに残るは、あわれなニガウリ幼苗である。
 幸いにも、というか、けなげにも足を踏ん張るようにして立ち姿勢を保つ苗もあった。心やさしき菜園家はそれを地植えし、もみ殻くん炭をまき散らした。忌避効果は不明だが、何もしないよりはマシだろうという、いつもながら気休め対応で幕を引いた。


tanimoto136_10.jpg ダンゴムシの大集団を見ると、ふだんは心の中で快哉を叫ぶ。
 大量のウンチがわが菜園にもたらされる、しかも園主が大好きなタダの贈り物なのだ。野菜の生育に役立つ栄養分がもらえるのだから、感謝しても憎むことはないだろう。
 ずっと、そう思ってきた。
 しかし今回の事件には、憤慨した。ふん害ならシャレにもなるが、食害だからショックに近い。
 ――ダンゴムシとの付き合い方も、ちっとは考えるべきかなあ。
 悩んでしまう。
右 :あれれ、ダンゴムシがキャベツをかじってる! やめてほしいなあ


 ダンゴムシは、ウンチをあしではさんで土の上に落とすようだ。幼体はなんと、おしりから水分補給をするようだ。
 ようだ、としか書けないのは、確信が持てるだけのデータを持たないからだ。
 いずれにしても、もう少しはちゃんとダンゴムシを観察しないとね。
 ニガウリをかじられたうらみはいつのまにかどこかに消え、ダンゴムシは再び、興味深い観察相手となるのだった。

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。


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