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きょうも田畑でムシ話【131】

2024年02月09日

ラクダムシ ――個性強すぎの害虫ハンター?  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 昆虫は大きく、肉食系と植食系とに分かれる。
 その言葉からは肉食系がガツガツと肉にかぶりつく存在であり、植食系は優しいベジタリアンというイメージを抱きやすい。肉食ということでカマキリを思い浮かべれば、そうなってしまう。
 しかし、農家の人たちからすれば歓迎したいのは肉食系であり、できれば植食系にはお目にかかりたくないはずである。


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左 :肉食昆虫の代表といえば、やはりカマキリ。お食事中でした
右 :アブラムシに近づくテントウムシ。探せばもっといいえさ場があるのになあ


 では、そのほかにどんな例があるかを考えてみよう。
 肉食系の身近な昆虫として忘れたくないのは、テントウムシだろう。半球体で、背中のデザインは実に多彩。トコトコと歩く姿は愛らしく、子どもや女性にもけっこうな人気がある。
 食性はどうかというと、アブラムシを食べる種が多い。アブラムシが農業にとって重要な害虫であることは、否定しようがない。作物の汁を吸い、そのくちで病気となるウイルスを運ぶ。アブラムシのいない環境にしてくれるテントウムシは見た目だけでなく、その働きからも大歓迎だろう。
 ただし、俗に「テントウムシダマシ」と呼ばれるニジュウヤホシテントウやオオニジュウヤホシテントウなどは植食系だから、イモムシと同じように葉をえさにする。したがって、「テントウムシはどれも益虫である」とひとくくりにできないのは残念だ。


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左 :くちの先端で開いているように見えるのは、大顎肢(だいがくし)だろうか
右 :真冬のテントウムシ。枯れずに残った葉の上を歩いていたが、アブラムシは近くにいない


 アブラムシをえさにするテントウムシなら、成虫も幼虫もアブラムシを食べる。つくりこそ簡単だが、ちゃんとした大あごがあり、むしゃむしゃとかじる。大あごで押さえて体液を吸うという言い方もされるが、見ているとアブラムシの体そのものがテントウムシの体内に消えていく。そのさまは肉食昆虫そのもので、見事な食べっぷりである。
 ナミテントウやナナホシテントウなどだれもが知るテントウムシは、気温が高ければ寒い冬でも活動する。
 といっても歩くところを見るくらいで、アブラムシを襲う場面は見たことがない。天気の良い暖かい日に動くことはあるが、たいていは樹皮や木の名札、物のすき間にもぐり込んで春を待つようだ。
 そうした有名どころでないテントウムシにはこの時期、樹皮下で出会うことが多い。これまでにもモンクチビルテントウやヨツモンヒメテントウ、ハダニクロヒメテントウとおぼしき種に出くわした。寒い季節はそうやって、ちいさな出会いを楽しむことが多い。


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左 :ご近所ではおなじみのモンクチビルテントウ。近くの黒っぽい個体はハダニクロヒメテントウだろうか
右 :冬の公園ではナミテントウが板の上の散歩を楽しんでいた


 このごろはよく、インフルエンザや新型コロナにかかった人の話を耳にする。それを予防するワクチンはあっても、そんなに次から次へと病気が近づくなら、お守りやお札のひとつも持ちたくなる。
 そんなこともあってか、21世紀の現代、しかも令和の時代になってから、それまで一部にしか知られていなかった妖怪・アマビエが脚光を浴びることになった。アマビエのイラストとちょっとした解説がインターネットで広がり、疫病退散にもってこいの妖怪として持ち上げられた。
 怖い妖怪も多い。ところがアマビエはどことなくユーモラスで、かわいげがある。そんなことも拡散の一因になったのだろう。


 それで思い出したのがラクダの毛だ。その毛を包んだお守りを身につけていれば、悪病が近寄らないと信じられた。
 もっとも江戸時代のことだから、見世物小屋でラクダを見ることができれば、それだけで何かご利益があると思ったのではないだろうか。
 ラクダが日本に初めてやってきたのは、推古天皇の御代とされる599年。その後も幾度か持ち込まれたようで、もっとも有名なのが1821年に長崎の出島から江戸へと向かった4歳のメスと5歳のオスのヒトコブラクダだろう。
 なにしろ、日本には生息しない珍獣だ。毛が悪病退散に役立つだけでなく、おしっこだって腫れものに効くとされた。見世物小屋は大盛況で、図体だけでかくて鈍い人を称して「らくだ」と呼ぶようになったとか。落語の有名な演目「らくだ」も、ラクダが渡来したことによるご利益のような気がする。


tanimoto131_7.jpg いまや動物園で楽に見られるようになったラクダだが、この冬はなんと、地元の公園で野生種に出会った。
 なーんていうと驚く人もいそうだが、そこで見つけたのはラクダムシという、ラクダの名を冠した昆虫の幼虫だ。
 といっても、認知度は低い。見る機会も少ないはずだ。昆虫を見つける才能のある人はともかく、ラクダの毛を持たない身としては、悪病も寄りつかない代わり、ラクダムシも長いこと、近づいてくれなかった。


「松の木の樹皮を探すといいよ」
 親切な昆虫マニアが教えてくれた。
 ありがたいアドバイスに従い、松の木があればあっちの木、こっちの木と、かなりマジメに探した。樹皮を総めくりにするわけもいかないので、気づかいながらのことだが、松の木にいるというクリサキテントウも同じように探しているのにいまだに見つかっていない。どうやら松とは縁がないように感じた。
右 :松の木のこも巻き。ここに集まる虫を一網打尽にする昔からの知恵だが、たまにラクダムシの幼虫もやってくるらしい


 すると、別の虫好きが教えてくれた。
「杉の樹皮がいいらしいぜ」
 それで今度は杉に目を向けたのだが、なかなか見つけられず、涙がこぼれる。
 それは花粉症のせいだという忠告もあったが、ラクダムシが見つかるならそれでもいい。うれし涙に変えてやると思ったものである。

 またまた、別の人が耳より情報を運んでくれた。
「いやいや、探すならケヤキだよ。ケヤキの樹皮下でけっこう見られるよ」
 たいした期待もせずに探すと、なんとまあ、ラクダムシの幼虫がちゃんといたのである。動物園に行って、風で飛ばされたラクダの毛を手に入れようと真剣に考えていた矢先なので、うれしくてたまらない。


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左 :しなやかな動きを見せるラクダムシの幼虫。最初はジムカデかと思った
右 :「孫太郎虫」の俗称で知られるヘビトンボの幼虫。この不気味さが魅力でもある


 樹皮のすき間に、ムカデを細く弱々しくしたような生き物がいた。木肌にへばりついているのに、流れるようにして動く。それで何だろうと目を向け、それこそがめざすラクダムシの幼虫だと気づいたのである。
 体長は15mmぐらい。ラクダムシとはなんともヘンな名前だが、それは成虫の動作を見ての発想だとか。すぐには理解できないが、英語だと「スネークフライ」だから、ヘビトンボのようにも受け取れる。
 そう思って見ればなるほど、ヘビトンボの幼虫に似ている。子どもの疳の虫によく効くといわれてきた「孫太郎虫」と言った方がわかりやすい人もいよう。


 盾を小さくしたような形の堅そうな頭を持ち、数珠つなぎの体節が連なる。木の皮のすき間にもぐりこめるくらいなので、平べったいのが特徴だろうか。
 細長い体の前方に3対のあしがあり、後ろ半分は何もないようでさびしい。そのせいか、異様な感じがする。その感覚は、江戸の人々が見た珍獣ウオッチングに近いかもしれない。
 10回も11回もの脱皮を経てさなぎになるらしいが、そのさなぎは自由に歩くことができるという。幼虫を見つけただけで感謝していたのに、チャンスがあればさなぎも見てみたいという欲が出る。


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左 :ラクダムシの幼虫。よく見ると、頭の横にもうひとつの頭。おそらく脱皮殻だろう
右 :羽化の場所を探すために歩くクサカゲロウのさなぎ。ラクダムシのさなぎもこうやって歩くらしい


 しっぽの先が吸盤かカギのような役目をするのか、幼虫はシャクトリムシのような動きも見せる。おしりをよっこいしょと前に引き寄せるような進み方だ。
 しかし、素早い。前進もするが、見事な後退も見せる。だから最初に見たとき、しなやかな動きをするジムカデを連想したのだろう。
 幼虫は、松の樹皮下にいるキクイムシの幼虫を食べるところが観察されている。トビムシやシロアリもえさにするらしい。
 tanimoto131_13.jpg分類上はアミメカゲロウ目に属する。
 ということはクサカゲロウの仲間でもあるから、アブラムシも食べるのだろうか。だったら、農林業にとっては益虫といってもいい存在になる。
 成虫は以前、夏の林で見たことがある。クサカゲロウもそうだが、成虫には幼虫のようなおどろおどろさが感じられないのだ。
 だが、なにはともあれ、もっと知られてもいい虫だ。ラクダの見世物の興行成績はかなりのものだったから、ラクダムシをたんとつかまえて、見世物小屋でも開くかなあ。
右 :若葉のころのラクダムシ成虫。この横顔から、ラクダが想像できる?

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。


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