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きょうも田畑でムシ話【103】

2021年10月07日

ミバエ――ぴょんぴょん跳ねるせっけん虫  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 「いいから、いいから」
 そのままでいいからというつもりで、ぼくは言った。
 ゴーゴンの髪の毛のように乱れた木の枝を整理していたときのことだ。

tanimoto103_0.jpg 刈り込み、切り込み、あまりにもひどいものは引っこ抜いた。そのとき、土の中から茶色い、つやつやした細長い虫が出てきた。
 コメツキムシの幼虫だ。農家には「針金虫」の俗称で知られ、サツマイモやダイコンなどの食用部にもぐりこんで孔を開ける。
 見つけたのは、玄関のすぐ脇に生えていた木の根元だった。畑でもないので、そのままにしておいて構わない。それで、いいから、いいからとなったのだった。
右 :コメツキムシの幼虫。農家には「針金虫」の俗称で知られる


 コメツキムシはいつ見ても面白い。成虫は鋼鉄のようなボディーで、ぺちんぺちんと音を立てて飛び上がる。その跳躍は見ていて飽きない。だから面白がって、何度でもやらせる。子どもに見せれば、大喜びだ。
 でもどうして、そんなことができるのか。
 不思議に思って調べたことがある。彼らにはヒトでいう首のあたりに留め金のような仕組みがあり、それを外すことで生まれる反発力を生かして、ぴょんと跳るようだった。
 だからといって「コメハネムシ」とせず、コメツキムシとか「叩頭虫(ぬかずきむし)」という名前にした先人のセンスには頭が下がる。
 かつては、水車の回転力を利用して米をついた。スイッチひとつで何分づきというふうに精米できる現代とは大違いだが、水の力を利用して米をつく発想も、なんともステキだ。


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左 :いまにも跳びはねようとしているコメツキムシ。その反発力には驚かされる
右 :トビムシは、石や鉢をどかすと目にすることも多い。小さいが、その外見はそれぞれ個性的だ


 跳ねる虫は、ほかにもいる。例えばトビムシはこの地球のあらゆるところに住んでいるそうで、跳躍力にも定評がある。
 彼らは跳躍器というものを持ち、ふだんは腹の下に折り曲げていて、有事の際にはそれを使って弾きとぶ。
 国内には体長3cmぐらいになる大きなコメツキムシもいるが、それは例外だろう。よく見るものでいえば1cmか2cm程度。それに比べるとトビムシはあまりにも小さく、たいていは3mmもない。しかも石の下や落ち葉の下に隠れているものが多いから、遊びの天才である子どもたちだって、相手にしたいとは思わなかったのだろう。
 虫はそもそも、なんのために跳ねるのか。


 ぼくが跳ねる虫に興味を持ったのは、キンケノミゾウムシが最初だった。クヌギやクリ、コナラなどの葉の中に侵入して食べ進み、時期が来ると葉を丸く切り抜いて地上に落ち、繭の状態でぴょんぴょんと跳ねる。「キジも鳴かずば撃たれまい」といわれるが、キンケノミゾウムシだって土の上で跳ねなければ、少なくともぼくには気づかれなかっただろう。
 ある年の初夏にたまたま目撃したばかりに、それが観察できる時期になると毎年、観察しに出かけた。
 さらにその後、またまた、たまたま見つけたのがキカラスウリの実に潜んでいたカボチャウリミバエだった。
 これも農家にはよく知られていて、カボチャの中から音がしてくるとしたら、その幼虫である可能性が高い。


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左 :羽化したばかりのキンケノミゾウムシ。丸いものがそれまで入ってた繭だ
右 :キカラスウリの実。カボチャウリミバエの幼虫は、この中に大量に潜んでいた


 「弾ける」という表現をしていいなら、植物の方がもっとすごい。いまごろだとツリフネソウの種が弾ける植物の代表だろうか。
 むかしの日本人はツリフネソウを、吊り下げた帆掛け舟や花器の釣り舟に見立てた。しかし最近は大ヒットした映画「ハリー・ポッター」シリーズの影響か、「ホグワーツ魔法魔術学校の組分け帽子のような形をしている」と表現する子も少なくない。
 そんな命名譚はともかく、実が充実してくると、さやが弾けて種が飛び出し、さやはいじけたように丸まってしまう。
 ツリフネソウの花の時期にはくちの長いハチドリみたいなホウジャクというスズメガの仲間がせわしなく飛びまわる。その時期が過ぎれば種飛ばしショーを見せるので、観察者として退屈することはない。黄色い花をつけるキツリフネもあるが、見る機会が少ないせいか、ホウジャクが蜜を吸うところは見たことがない。それはそれとして、ツリフネソウは実に興味深い植物である。
 もっと身近なところでは、カタバミがある。尖った形のさやにはたくさんの種が入っていて、ちょっとふれるとパチンと弾けて、種を飛ばす。
 スローモーション映像でみると、機関銃で弾を飛ばすような感じだ。ヤマトシジミという小さなチョウの食草でもあるので、わが子が幼かったころにはふざけて弾き飛ばす遊びもよくしたものである。


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左 :ツリフネソウの花の蜜を吸うホウジャクの一種。くちが長い
右 :カタバミ。とがった形のさやの中にあるタネは、すこしの刺激で爆発するようにして周辺に散らばる


 そんなこんなで、跳ねるという動作には、心をひかれる。
 この秋、その跳ねる虫に新たなものが加わった。
 知っている人はいたのだろうが、ぼくにとっては新発見だ。ムクロジの実を利用するミバエの一種に出会った。
 ムクロジというのは、羽根つきの玉になる植物だ。黒くてまん丸で、じつに硬い。その玉を覆っている果皮の部分を、せっけんとして利用してきた歴史がある。ぼくも実際に試したが、そこそこの汚れ落としになる 。
 たいていは乾燥したムクロジの実を、寒くなったころに拾ってきた。しかし今年は時間に余裕があったので、もうすこし早いうちに拾おうと思い立ち、近くの公園に出かけたのがその虫との出会いにつながった。


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左 :ムクロジの実。果皮をむくと、黒い玉のようなタネが出てくる
右 :ムクロジの果皮からは泡が出て、洗濯に使える。その成分はサポニンだ


 ムクロジの大きな木を見上げると、青い実が鈴なりになっていた。地上にもいくつもあって、すでに茶色くなったものがあれば、まだ青々としたものも転がっていた。
 青いものを拾っていって乾燥させればきっと、きれいな標本になる。そう思っていくつか拾い集め、ビニール袋に入れて持ち帰った。
 その先はよくあることだが、袋に入れたままで忘れてしまった。
 2日ほどして袋を見ると、一部の実は腐ったように褐変し、ビニール袋には水滴がついていた。そしてそこに、何やら動めくものの姿を見つけたのである。
 ――ん?
 となる。まあ、当然だろう。きれいな青い実だとばかり、思っていたのだから。
 よく見るとそれは何かの幼虫のようである。形状から察するに、ハエの幼虫、すなわちうじ虫だ。
 さらによく見ると、ほかにも蛾の幼虫らしきものが2種確認できた。ひとつは、アシブトヒメハマキというハマキガの一種によく似ていた。もう一方は見当がつかない。


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左 :ムクロジの実に残っていたアシブトヒメハマキのさなぎの殻
右 :ムクロジの腐った実から姿を見せたミバエの幼虫。黒い点が目のように見えるが、じつはおしりだ


 問題はうじ虫だ。はっきりいって、あまりうれしくない。どんぐりを拾ってくると、高い確率でゾウムシの仲間の幼虫が出てくるが、それはぷくんとふくれた感じで、いくらか愛きょうがある。「どんぐり虫」と呼べば、そんなにいやな感じはしない。
 繭で跳ねるキンケノミゾウムシもゾウムシの一種のわけだから、その親せきだと思えば、どんぐりの虫はなんともない。芋虫・毛虫が苦手なぼくも、あまり嫌悪感を抱かずに接することができる。
 だが、ムクロジのうじ虫は、どう見てもうじ虫だ。


 ――いやだなあ。庭に捨てるかな。
 と思った瞬間。
 そいつが跳びはねたのである。
 頭をよぎったのは、もう何年も前に見たカボチャウリミバエだった。あれよりはいくらかスリムな感じではあるが、とにかく跳ねた。
 ――おいおい。そんなことをしては、いけない。
 そう思った。そんな芸を見せたら、ぼくにとっては一気に、興味をひく虫に変わってしまうからだ。
 しばらく見ていると、そいつは何匹もいて、「そいつら」になった。体を丸くしたと思った次の瞬間、どいつもこいつも、ぴょーんと跳ねるのだ。
 動画を撮ろうと試みたが、勢いがありすぎて、すぐに視野から外れる。かといって引いた動画では、ちっぽけな虫がいるとしか見えない。結局、証拠動画と、そこにいる写真を撮るだけに終わった。


tanimoto103_10.jpg しかし、いったん興味に火がつくと、拾った先でもっと調べてみたくなる。
 ふたたび公園に向かい、果皮に穴があいたものに注目して探し、実を割ったり、土の表面をすこし削ったりした。
 うじ虫くんはすぐに見つかった。かなりの確率で寄生しているようだ。
 しかし、過去に拾ったムクロジの実で見たことはない。
 とすると、当たり年なのか? あるいは場所や木によるちがいなのか?
 それはさておき、実から放り出された幼虫は野外でも、家で見たのと同じようなぴょんぴょん行動を飽きるほど見せてくれた。
 土の中からは、そのさなぎが見つかった。「囲蛹(いよう)」と呼ばれる、一般的な形のハエのさなぎだった。
 あとで友人に尋ねると、ミバエの一種であることはまちがいなかった。その種名は専門家でないとわかりそうにない。
 それが確かめられただけで十分だ。
右 :ムクロジの実に寄生いていたミバエのさなぎ。囲蛹と呼ばれる形態だ


 ムクロジは、漢字で「無患子」と書く。子どもが病気にならないように、との願いをこめた命名だろう。
 しかし、その黒い玉からうじ虫が出てきたら......。
 そんな夢想は、ゆめゆめしてはならない。
 せっけんの実であり、子の健康を祈るのがムクロジの実だと覚えるだけにとどめておくのが幸せというものだろう。

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。


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