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きょうも田畑でムシ話【83】

2020年02月06日

ホタルミミズ――苦しいときのヒカリ頼み  

プチ生物研究家 谷本雄治   


 1月往ぬる、2月は逃げる、3月去る――。
 いったい誰が言い出したのか知らないが、じつにうまくたとえたものだ。
 1月には正月がある。それでほかの月に比べると3日も7日も短く感じ、2月はもともと日にちの配分が少ない。続く弥生3月ともなれば陽気が良くなってぼんやりするし、年度末で何かと行事めいたものが多い。そんなこんなで毎年、この3カ月はあっという間に過ぎ去っていくような印象を受けるのだ。
 なーんて言われれば、なんとなく、その気になる。いや違う、と異論を申し立てると、そのためにまた時間をとられるから、ほほう、なるほど、ということで手を打つのがいちばんだ。


tanimoto83_9.jpg そんな中でふと思いついたのが、ホタルミミズ探しである。寒い時期でないと見つけるのは難しいとされている。時がかけ足で去っていくなら、急がねばならぬ。
 ホタルミミズは長いこと、幻の存在だった。1934年に報告されたのが最初だとかで、ほんの10年ぐらい前までは見つかるたびにニュースとして流れたものである。それがいまや、「ちょっと探せば見つかるよ」「そう。意外に身近なところにいるようだ」と変わってきた。
右 :朽ち木の下にいたこのミミズも透き通っているが、近くで捕れたホタルミミズのような赤みはない


 ぼくが初めて実物を見たのは、4年前だった。大学の研究者を訪ね、そのキャンパス内で見せてもらった。
 見た目はミミズである。
 それはまあ、当然だ。
 体長は約4cm。太さは1mmぐらい。
 見慣れたシマミミズやフトミミズとは明らかにちがった。小さくて、透き通った感じで、美しいのである。
「カッコいいなあ」
 そんな言葉が口をついた。
 研究者によればとにかく、ふん塊を見つけることだ。
 それ以来、毎年寒くなると土をほじくり、ミミズのふんの山を崩してきた。
 でも、見つからない。
 それでもめげずに、続けていた。


 そして1月がもう終わろうとするころ、家族がとつぜん、ハクチョウが見たいと言い出した。高速道路を走れば1時間もしないところに、冬鳥の集まる水辺がある。
 オオバンやホシハジロ、ユリカモメに混じって、ハクチョウがいた。いたにはいたが、外来種のコブハクチョウである。国内での移動もあるものの、基本的にはオオハクチョウやコハクチョウのように渡ってくる鳥ではないとされている。
 それよりも、頭の中ではミミズがのたうちまわっていた。今年こそ、自力でホタルミミズを見つけたい。


tanimoto83_3.jpg  tanimoto83_4.jpg
左 :コブハクチョウも移動するらしいが、ここではいつも見られる。たぶん、居ついているのだろう
右 :トカゲのはやにえ。からだの青さがまだ残っていた


 まわりを見ると、なんとなく、すんでいそうな草地があった。
 探すポイントは、湿り気があるのに湿りすぎていない土だ。
 ところがこれが、かなり難しい。結局のところ、湿っているところがいいのか、乾いているところなのか......。
 まずはと思って歩くと、トカゲが見つかった。といってもモズのはやにえである。
「カッコいいなあ」
 またしても同じせりふを吐いた。しかし、その通りなのだ。そのトカゲは青い色を残したまま、木の枝にひっかかっていた。
 幸先がいい。今回はツイていそうだ。
 そう思うと、幸運の女神が近づいてくれることが多い。


 そして出かけた次の場所で、あちこちにそれらしいミミズのふんが見つかったのである。
 ホタルミミズのふんの粒は、じつに細かい。一粒の直径は0.5mmあるかどうかのミクロサイズだ。ツリミミズやフトミミズのふん塊を見慣れた目からすると、あまりにも小さい。
 それがいま、目の前にいくつもある。
 近くに転がっていた棒きれで、その小さな山の周辺を掘り起こした。
 でも、何も、出てこない。
 次の山。
 見つからない。
 さらに、次の山――。
 そうやって何度ほじくったかわからないが、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるものだ。くにゃり、くにゃらと動くものがついに見つかった。


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左 :ちょっと探せば意外に見つかるホタルミミズのふん塊。あとは、ここ掘れワンである
右 :土の中から姿を見せたホタルミミズ。初めて見れば、まさに「ヤッター!」の気分になるはずだ


 このときはまさに、家族総出で土をほじくっていた。
 そんなシーンを目にすれば気になるのが人情である。子連れの母親は特に、何をしているのか知りたいという気持ちが抑えられない(ような気がする)。
「何かあるんですか?」
 山菜でも採っているとでも思われたのだろうか。ある、といわれればそうだが、どちらかといえばちがう。
「いるんです、ミミズが」
 ぼくは正しく、「いる」と言った。
 するとその女性は子どもに向かって、小声で「ミミズなんだって」と伝え、あきれたような顔をして、その場を去った。
 それでいのである。「ミミズですって? ほらぼく、そこを掘るのよ。ミミズよ、ミミズがいるんだって!」とはしゃがれても困る。
 光を発するホタルミミズだと言わなかったぼくの対応は正解だ。一緒になって大勢でほじくり返すものではなかろうて。


tanimoto83_1.jpg その晩。わが家は、ちょっとした興奮に包まれた。
 写真うつりを良くするために体を水で洗い(もちろんミミズの!)、濡らしたペーパータオルの上に置いた。
 久しぶりに見るホタルミミズは、きれいに透き通っていた。腸というのか、ふんというのか、食べたものがよく見える。それだけでも十分にうれしいが、お楽しみはこれからだ。
右 :透き通ったからだが美しい(?)ホタルミミズ。湯上りの肌のような色だと思う


 ホタルミミズといっても、体全体が光るわけではない。光るのは、おしりの方だ。いや、だからこそホタルに例えたのかどうか、そこまでは知らない。
「いいかい。やるよ」
 宣言して、ピンセットでおしりのあたりをこちょこちょ、たまにキュッとはさむようにして、大急ぎで部屋を暗くした。
「あーっ、光ってる!」
 ちいさな歓声が上がったのは言うまでもない。ペーパータオルに光がにじむところを見ると、光る液体のようなものを出しているのだろう。
 ぼんやりとした緑がかった光が見え、数秒後に消えた。
 それを何回か繰り返し、カメラのシャッターを押すのだが、光っているところがうまく撮れない。それだけが残念である。でも、証拠ぐらいにはなるだろう。


tanimoto83_7.jpg  tanimoto83_6.jpg
左 :ホタルミミズの頭の方。こちらは光らない
右 :光るところを撮影しようと何度も試したが、うまく撮れなかった


 あくる日。近くの公園に出かけた。もちろん、ホタルミミズを求めて――。
 すると、冬になるたびに何年もほじくっていた場所に、今年もまたミミズのふん塊があった。
 そこを掘る。
 と、当然のようにホタルミミズが出てきたのだ。


tanimoto83_8.jpg 帰宅後、何気なく、玄関わきの地面を見た。いつかはハンミョウの巣がいくつも見られた土である。
 と、そこにもミニサイズのふん塊があるではないか。
 灯台下暗しとはよくいったものだ。これでまた、あの光を拝むことができる。
 夕方、そのふんの山を踏んでみた。それに反応して光ることもあるらしい。
 でも、光らない。
 掘り出して水でざっと洗い、ツンツンとつついてみた。ボーッとした緑色の蛍光灯のような明かりがともったが、写真はやはり、うまく撮れない。
 気の毒なことに、ホタルミミズが光るのは敵をおどかすためらしい。光るところを見たケラが、食べようとしなかったという観察報告がある。
 さて、土の中ではどう見えているのだろう。
 目の前の光は消え、新しい問題だけが残った。
右 :玄関のすぐわきで見つけたホタルミミズのふん塊。じつに細かい

たにもと ゆうじ

プチ生物研究家・作家。 週末になると田畑や雑木林の周辺に出没し、てのひらサイズのムシたちとの対話を試みている。主な著書に『週末ナチュラリストのすすめ』『ご近所のムシがおもしろい!』など。自由研究もどきの飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。


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