農業に気象情報を活用しよう(3)
2013年02月20日
凍霜害対策への利活用
(株)ウェザーニューズ 梅田 治
1 早春の凍霜害
茶や果樹などで、早春に最も気をつけなければいけない事象の一つに、急な冷え込みによる凍霜害がある。新芽が出たばかりの時期に、寒さに耐性のない作物が、霜により変色・枯死などしてしまう事象で、その年の収穫・販売に大きな影響を及ぼす。
ウェザーニューズに生産者の会員から寄せられる「ウェザーリポート」という情報の中にも、春先からは、お茶農家の方からの凍霜害による被害を伝えるものがみられる。
表1 :降霜による茶葉の変色・枯死を伝えるウェザーリポート (ウェザーニューズより)
茶葉の新芽が出始める時期の遅霜が最も恐れられており、市場価値が最も高いとされる新茶の収穫量や質に大きな影響を及ぼす。茶農家にとっては、この時期に凍霜害を受けてしまうことは、まさに死活問題につながる。
2 遅霜が起こりやすい気象条件
霜は、空気中の水蒸気が地上付近で一気に冷やされて昇華(気体から一気に固体になること)し、同じく冷やされた植物や金属などの物体に接した際に、白く針状の氷として付着したものである。気象的には、高緯度で形成された寒冷な気団あるいはその一部が移動性高気圧になって日本を通る時に、発生しやすい。高緯度でできた気団は寒冷であり、移動性高気圧の通過時には晴天で風が弱く、放射冷却により、地面付近に強い冷え込みをもたらす。これは接地気層に微気象が発生しているもので、地面近くは極端に低温となるが、数mほど上層は温暖であり、その温度差が5~6℃に及ぶことも珍しくない。
移動性高気圧が通過する際には、その前方を低気圧が通過することが多いので、霜害は雨の後に発生することが多い。逆に、寒くても強風をもたらすような冬型の気圧配置の際は、空気がかき混ぜられ、地表面からの放射も弱まり、霜害は発生しにくい。同様に、曇天の日には、雲により天空への熱の放出が弱められることにより、地表付近の冷え込みは緩和されるため、霜害は発生しにくい。また、畑の地形によっては、冷気がたまりやすい低地や窪地などがあり、局地的な霜害にも注意が必要である。
2010年の春は、3月の後半~4月になっても寒い日が多く、各地で遅霜による被害が相次いだ。以下図2-1および図2-2に、2009年と2010年の日平均気温・日最低気温の月平均値の平年との比較を示す。対象地点は、2009年の被害リポート近隣観測点である浜松のものだが(表1)、特に2010年の4~5月にかけては低温傾向が顕著である。
図2-1 :2009年~2010年の浜松の日平均気温の月平均およびその平年値
図2-2 :2009年~2010年の浜松の日最低気温の月平均およびその平年値
まずは、茶生産地周辺の春季の降霜日について、事例検証をしてみよう。
2010年の3~4月のうち、降霜の報告があったウェザーリポート3例について抽出し、その日の午前9時の実況天気図および近隣の観測点の午前中の気温や風のデータを表2に示す。
表2 :中部地方において降霜のリポートがあった日とそれぞれの日の気象状況 (上記過去の天気図、観測データはこちらから取得)
いずれの事例も、静岡県を含む中部地方は高気圧(帯状のもの含む)に覆われ、早朝はこの時期にしてはかなり冷え込んだ。特に3月30日の事象では、高気圧が北に偏って通過した影響もあり、午前中にかけては北寄りの風が卓越し、冷涼な空気が入り込み、浜松市内でも早朝に氷点下まで気温が低下した。
これにより静岡県内の広範囲で茶農家に甚大な被害をもたらし、県内の茶園の65%が凍霜害の被害を受けたと報道された。
表2の事例はすべて、上述の降霜時の典型的な気象条件に該当しているので、各種気象データを確認することで、ある程度は降霜の発生が予測できるとわかる。ただし、予測情報だけでは状況によって判断がむつかしいこともあり、それに併せて実況データ(実測された観測データ)もうまく活用して、致命的な被害回避のための施策をとるとよい。労力および経費を最小限にするために、より詳細な情報が必要とされているところである。
3 凍霜害に向けた対策
昔から凍霜害に対して、人による作業から機械によるものまで、さまざまな対策が取られてきた。それぞれ長所・短所があるが、昔から、生産者および、それに関わる人々の知恵に基づいてきたものが多い。以下代表的なものを挙げる。
【送風法】
茶農家の多くが導入している対策手段として、防霜ファンがある。放射冷却により、地上付近の空気が過度に下がるのを防ぐ目的で、人工的に風をおこし、地上数mの比較的暖かい空気と地面付近の冷たい空気をかくはんし、茶葉に接する気層の気温低下を防ぐ。接地密度や稼働条件などもあり、完全な対策とはいかないものの、霜が茶葉等の作物へ付着するのを、ある程度防ぐことができる。
この方法は、上下の温度差(逆転度)が大きいほど効果が大きい。ただし設備の導入費用などの金銭的負担は小さくなく、茶畑が広大になればなるほど、その傾向は顕著である。さらに、防霜ファンの稼働時は電気代などの経費も発生するため、稼働を最小限にするために、生産者はさまざまな努力をしているという。
多くの防霜ファンは、時間や実測気温による自動的な稼働開始/停止機能を備えており、茶農家の豊富な知見により稼働されている。だが、設定の安全度を高めるほど経費に跳ね返るため、作業の準備/操作に実況系/予報系をあわせた気象情報が大いに活用されている。
【氷結法】
茶や果樹の新芽の時期に、地表付近が氷点下に下がるような強い冷え込みが発生した際、茶葉など作物への表面に連続散水し、水が凍る時に発生する潜熱によって、作物体温を0℃付近に保ち、霜害から守る方法である。水の供給に連続散水器(スプリンクラー)を使用するが、水の必要量は、夏期の灌水と比べ少量で済む。ただし、凍結により茶葉などの作物が多量の氷に包まれるため、氷の重みで枝折れや幹が裂けたりするので注意が必要である。
霜の発生が予想される場合には、事前の心構えをしっかりとするとともに、遅滞なく、その対策行動を取れるような準備を行う必要がある。また、予想外の降霜発生事象となった場合でも、早期に情報を入手し、可能な限りの対策行動が取れるような形にしておくことが理想的である。最近では、携帯電話のメールサービスにより、情報を受信できるサービスもある(表3)。田畑の位置情報などを事前登録しておけば、自動的に自分の田畑に関わる降霜の予測情報を受信したり、自身が設定した降霜条件を満たした時点での気象情報を送信してくれる(有料)。農作業中にも情報を知らせてくれるので、タイムリーかつ便利である。
これらの気象情報や、自身の体感・雲や空の様子などの経験則から、いち早く対策行動を取れるよう、他の生産者との情報交換など、協力しながらすすめていくことが望ましい。(つづく)

うめだ おさむ
(株)ウェザーニューズ 栽培気象グループ 気象予報士 1989年入社。予報センターなどを経て、2010年より栽培気象グループ。生産者向けコンテンツを携帯電話などで提供中。