農作業事故の防ぎ方と労災補償【2】
2011年03月03日
農作業事故の防ぎ方(1)
三廻部 眞己
「不安全行動」を撲滅する
農作業事故のみならず各業種に共通することですが、事故は作業手順の手抜きや基本動作を怠ったときに起きています。図3は厚労省が製造業の休業4日以上の死傷災害の原因別割合を調べたものです。
図3 平成4年度製造業全体の休業4日以上死傷災害の原因別割合
(出典 :労働省安全課資料)
それによると、最も多い原因として「不安全・不衛生な行動」が94%を占めています。おもな内容を多い順にみると①誤った動作が約30%、②危険な場所への接近が約18%、③運転中の機械等の掃除等が約8%です。
それでは、事故を起こす「不安全行動」がなぜ起きるのでしょうか。そのおもな原因を10項目を挙げると、①作業知識の不足、②誤った判断、③作業中に悩み事を思い出す、④作業経験の不足、⑤過労、⑥やる気の欠如、⑦身体的不適応、⑧確認の不備、⑨作業指示の不明確さ、⑩作業前のミーティングが不十分であること、等です。
事故を防ぐ安全管理活動は農業経営技術の一環
農作業事故が発生する仕組み、原理・原則については、前回のコラムの図2で労働省説を紹介しました。実際に事故が起きる原因は、安全管理がしっかり行き届いていないからです。
安全管理とは、「安全」をつくり出していく活動のことで、作業手順の中に「安全」を組み込んでいく活動です。この活動が不十分であるがために、「不安全・不衛生な状態」や「不安全・不衛生な行動」が放置されて事故が起きるわけです。
そこで筆者は、経営者が事故を防ぐ安全管理活動を、農業経営技術の一環として取り組むよう願っている次第です(図4参照)。事故を起こせば、莫大な治療費が必要です。それに農業生産の収入はストップします。生活費は必要です。貯金では対応が困難です。リスクマネジメントして、労災保険の加入がどうしても必要になってきます。
おもな事故要因は4つ
図4 農作業事故発生要因の相関関係 -農作業事故要因は4つ-
注)農作業事故の発生は、①経営者の安全管理の欠陥によって起きている。安全管理の欠陥により、②労働者の不安全行動が起こり、③作業現場の不安全状態が生じ、④欠陥機械が運転され、それぞれの災害要因が絡み合って労働災害が起きている。地域農業の“安全管理”ということは、この4つの災害要因をJAや経営者が取り除いていくことである。
(図表出典 :三廻部眞己 「農業労災の予防と補償制度」・東京農業大学出版会)
事故防止対策は予防が第一です。作業者が「不安全行動」を起こさないように、農業経営者が安全の確保に向かってリードしていくことが最も大切です。
その任務を表したのが図5です。経営者として何をなすべきか。図2と比較検討すると、管理監督責任がクローズアップしてきます。
図5 農業経営者の安全管理業務の概要とその手順(クリックで拡大)
注) 安全管理上の手抜かりがあって事故が発生すれば、安全配慮義務違反として莫大な損害賠償金が求められる場合もあります
また、事故を防ぐには、危険予知能力を発揮して、潜在事故要因を取り除いていく必要があります。事故が起きてからでは遅いのです。この点、集落営農組織の安全パトロール活動が実に重要です。その結果求められた安全対策を、行政機関に要請することも必要です。
図6 こうすれば事故は防ぐことができる
注)
1)地域農業の安全パトロールを行い、潜在災害要因を早期に取り除けば無災害となる。
2)事故は安全管理の欠陥によって生じているものである。
3)地域農業の「安全文化」が高揚すれば事故は減少する。
また、農作業の安全対策は個人任せになっていますが、地域中が農業機械の作業現場となってきました。個別農家の事故防止対策では限界があります。集落営農組織やJA等が安全対策を組織的に展開すれば、地域のリスクレベルも低減し、安全教育も必然的にすすみ、事故を防ぐことができるようになります。そのために地域農業の安全管理体制を確立する必要があります。
実施方法としては、①地域農業の安全・健康対策委員会の設置、②活動計画案、③収支予算案を設定する必要があります。(詳しくは、拙著「農作業事故の防ぎ方と労災補償」 家の光協会発行・2010年4月をご参照下さい)(つづく)
左 :農道の舗装工事に必要な生コン等の資材は市に要請して、現物支給を受け、農家が工事する
右 :集落営農組織の安全パトロールを毎年正月に行い、危険な整備場所を特定している
みくるべ まさみ
昭和8年、神奈川県生まれ。東京農業大学客員教授・農学博士、労災予防研究所長、技術士(農業コンサルタント)、労働安全コンサルタント。主な著書に『農業労災の防ぎ方』『農業の安全管理』(ともに農林統計協会)、『解説農業労災と補償制度』(家の光協会)、『農業労災の予防と補償制度』(東京農大出版会)、『農業者の労災補償Q&A』(JA全中)など。学術論文なども多数発表。