麦編 ランク区分 コムギ
はじめに
●農産物検査法に基づく麦品位等検査で2等以上と確認されたものは、品質分析結果に基づいたランク区分方式によって、経営所得安定対策で支払われる直接支払交付金の交付単価が決まります。
●調査対象となる品質は、小麦ではたんぱく、灰分、容積重、フォーリングナンバーの4項目(醸造用小麦についてはたんぱく3項目と容積重)です。
●この4項目のうち、基準値を満たす項目の数で、ランク区分が決定されます。基準値は、小麦の用途によって個別に定められています(表)。
Aランク
・品質評価項目の基準値を3つ以上達成し、かつ、許容値を全て達成している麦
Bランク
・品質評価項目の基準値を2つ達成し、かつ、許容値を全て達成している麦
Cランク
・品質評価項目の基準値を1つ達成し、かつ、許容値を全て達成している麦
・品質評価項目の基準値を2つ以上達成しているものの、許容値を達成していない麦
Dランク
・品質評価項目の基準値を全く達成していない麦
・品質評価項目の基準値を1つ達成しているものの、許容値を達成していない麦
・雑銘柄の麦
・異なる銘柄を混合している麦
品質項目
ランク区分にかかわる各品質項目は、以下のようになります。
「たんぱく」
●子実中に含まれるタンパク質の量の割合です。
●ランク区分では、日本めん用小麦、パン及び中華めん用小麦、醸造用小麦の3つの用途に分けられ、それぞれ求められる基準値が異なります。
●日本めん用小麦に比べて、パン及び中華めん用小麦や醸造用小麦では、たんぱくが高いことが求められます。
「灰分」
●小麦の粉を加熱・灰化して燃え残った、無機成分の割合です。
●灰分が多いと小麦粉の色がくすむため、値が小さい方が良いとされます。
「容積重」
●1Lの容積に入る小麦の粒の重さ(g)で示されます。
●値が大きい方が、製粉の歩留まりが高いとされます。
●ブラウエル穀粒計または電気式穀粒計で測定します。
図1 ブラウエル穀粒計による容積重の測定
150gの小麦を自然に詰めた時の容積を測定し、1L当たりの重さ(g)に換算します
「フォーリングナンバー」
●小麦粉中のデンプン粘度です。
●フォーリングナンバーとは、試験管に全粒粉を入れ、水を加えて沸騰水中で撹拌した後に、撹拌棒が糊状になった溶液中を降下して試験管の底に到達するまでの時間です。
●小麦粉中のα-アミラーゼの活性が高いと、デンプンが分解され、溶液の粘度が低下して撹拌棒の沈降が早くなります(=フォーリングナンバーが低下します)。
●小麦は糊化粘度が最高に達した後、徐々に粘度が低下する(ブレークダウン)特性を有しています。フォーリングナンバーは通常の小麦が測定時に最高粘度に達するように沸騰水中での攪拌時間が設定されているため、糊化温度が低い"低アミロース品種"は糊化のピークが過ぎた状態で測定され、フォーリングナンバー値が低くなります。特に"もち品種"では測定時にはブレークダウンしており、フォーリングナンバー値は極低くなります。
図2 フォーリングナンバー測定用の試験官と撹拌棒
試験管に小麦粉を入れて水を加えて温めながら撹拌した後に、撹拌棒が糊状になった溶液中を降下して試験管の底に到達するまでの時間がフォーリングナンバーです
●α-アミラーゼ活性は、穂発芽することによって高くなるので、フォーリングナンバーは穂発芽の指標になります。
図3 健全粒(左)と穂発芽性(右)
各基準値達成のための対策
「たんぱく」
●たんぱくは、子実(収量)に対するタンパク質の量の割合なので、子実重の大半をでんぷんが占める小麦では、子実重が増えるとたんぱくが低下する傾向があります。
●一般に、同じ肥培管理を行っても、畑作に比べて水田作では低く、黒ボク土では高く、灰色低地土や泥炭土等では低くなる傾向があります。
●品種特性や土壌特性に応じた施肥をすることで、たんぱくを制御することができます。
●追肥する時期によって、たんぱくへの影響が違ってきます。出穂・開花期前後の追肥は、たんぱくを高める効果が高いです。
●黒ボク土壌では、リン酸を施用すると収量が上がりますが、このように収量を制限している要因を取り除くことで収量を上げて、たんぱくを下げることができます。
「灰分」
●土壌中の無機成分から作られます。
●同じ土壌、肥培管理でも、品種によって灰分に違いが見られます。
●粒の充実が良くなり子実重が重くなると、灰分は低下する傾向があります。
「容積重」
●粒の充実が良いと、容積重は高くなります。
●雨害、日照不足、干ばつ、高温などにより登熟不良になると、粒の充実が悪くなり、容積重は低くなります。
●病害や倒伏、穂発芽などの障害により、容積重は低くなります。
●乾燥・調整時に比重選別や粒厚選別を行い、細麦を取り除くことにより、容積重をそろえることができます。
「フォーリングナンバー」
●登熟後半から収穫時に降雨が続くと穂発芽し、フォーリングナンバーが低下することがあります。
●このとき低温だと休眠が打破され、穂発芽が助長されるので注意します。
●倒伏することで穂発芽しやすくなり、フォーリングナンバーが低下することがあるので、倒伏した小麦は刈り分けます。
●貯蔵・保管時には、乾燥・低湿度にすることで、フォーリングナンバーの低下を抑制できます。
島崎由美
農研機構 中日本農業研究センター水田利用研究領域
池永幸子
農研機構 東北農業研究センター畑作園芸研究領域
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