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麦・大豆

麦編 品種の選定 小麦

(2022年2月 改訂)

はじめに

 小麦の生産地では、道府県で奨励品種決定調査など、地域の気象条件や、需要の実情にあった品種の選定試験を行っていますので、品種選定の際には、最寄りの農業改良普及センターなどにご相談されることをお勧めします。

地域別品種の紹介と特性

「北海道」
◆きたほなみ
●現在、日本で一番作付けの多い品種で、2006年に育成された品種です。
●うどん用としてめんの色、食感に優れ、製粉歩留まり(一定量の原麦から粉の取れる割合)が高く、輸入小麦に劣らない品質を備えています。


試験圃場のホクシン(左)(上)ときたほなみ(右)(下)
(提供 :北海道立総合研究機構 農業研究本部 北見農業試験場)


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きたほなみの栽培風景
(提供 :北海道立総合研究機構 農業研究本部 北見農業試験場)



きたほなみ(左)(上)とホクシン(右)(下)の草姿、穂、粒
(提供 :北海道立総合研究機構 農業研究本部 北見農業試験場)


◆春よ恋
●パン用の春まき小麦品種です。
●もちもちとした食感のパンができることから、非常に人気の高い品種です。

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春よ恋の試験圃場(左)(上)と圃場(右)(下)
(提供 :ホクレン農業総合研究所)


◆ゆめちから
●パン用の秋まき小麦品種です。
●タンパク質含有率が高く、強いパン生地ができる品種です。

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「ゆめちから」の立毛
(提供 :(国研)農研機構 北海道農業研究センター)


◆北見95号
●2020年に北海道優良品種に認定された、新しい秋まき小麦品種です。
●菓子への加工適性を高めた品種で、新たな用途への利用が期待されています。

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北見95号(提供 :北海道総合研究機構 農業研究本部 北見農業試験場)

「東北」
◆ナンブコムギ
●昭和26(1951)年に育成された、東北地域で長く栽培されている品種です。
●東北品種の中では比較的早生で、やや長稈で倒伏しやすいです。
●耐雪性に優れますが、縞萎縮病には弱いです。
●めん、パン、家庭用粉など、さまざまな用途に使われています。 
 
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ナンブコムギの株と穂と粒
(提供 :(国研)農研機構 東北農業研究センター)


◆ネバリゴシ
●低アミロース品種で、めんのモチモチつるつるした食感が特徴です。
●ナンブコムギ並の早生で、ナンブコムギよりも多収の品種です。

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ネバリゴシ
 :現地圃場 /  :株標本(左からネバリゴシ、キタカミコムギ、ナンブコムギ)
(提供 :(国研)農研機構 東北農業研究センター)


◆ゆきちから
●パン用の硬質コムギ品種で、製パン適性はナンブコムギよりも優れてます。
●中華麺にも多く利用されています。
●耐雪性に優れますが、穂発芽耐性が十分でないので、適期に収穫することが重要です。

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ゆきちからのパン (提供 :(国研)農研機構 東北農業研究センター)

◆夏黄金
●2017年に育成された、新しいパン用品種です。
●「ゆきちから」と比較して、製パン性や農業特性が改善されています。
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夏黄金の立毛(提供 :(国研)農研機構 東北農業研究センター)

「関東~東海」
◆さとのそら
●2009年に育成された、うどん用の品種です。
●一定期間低温に遭わないと茎立ちしない秋播性という特性を持っていて、生育が安定しています。
●用途の汎用性が高く、うどんだけでなく菓子などへも利用されています。

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 :さとのそら株標本 (さとのそら(左)、農林61号(右))
 :さとのそら生麺 (さとのそら(左)、農林61号(右))
(提供 :2枚ともに 群馬県農業技術センター)


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生育期のさとのそら (提供 :群馬県農業技術センター 稲麦研究センター)

◆ゆめかおり
●関東・東山地域で広く普及しているパン用品種です。
●製パン性が優れ、実需者から高く評価され、普及が拡大しています。
●越冬性が十分ではないので、多雪地での栽培には不向きです。

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ゆめかおり  立毛(左)(上)と製パン試験(右)(下)(提供 :長野県農業試験場)

◆きぬあかり 追加
●2009年に育成された、うどん用の品種です。
●うどん用としての加工適性が優れているだけでなく、収穫量の多い多収品種です。

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きぬあかり(提供 :愛知県農業総合試験場)

◆ゆめあかり
●2013年に育成されたパン用の品種で、徐々に作付けが増えています。
●パン用としての適性に加えて、倒伏しにくく、収量が多いなどの特徴があります。

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ゆめあかり(提供 :愛知県農業総合試験場)

「西日本~九州」
◆せときらら
●2013年に育成された、パン用の品種です。
●「ふくほのか」に製パンにかかわる遺伝子のみを戻し交雑によって導入した品種で、農業特性に優れ、収量が多い特徴があります。

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(左)(上) :せときらら収穫期の立毛 (右)(下) :中央が、せときらら(中国161号)のパン

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 :株 左から せときらら、ふくほのか、農林61号 
 :穂と粒 左から せときらら、ふくほのか、農林61号
(提供 :(国研)農研機構 西日本農業研究センター)


◆シロガネコムギ
●関東以西の温暖地で最も多く作付けされている小麦品種です。
●1974年育成の古い品種ですが、軟質小麦として高い汎用性と品質により、現在でも広く栽培されています。

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試験圃場のシロガネコムギ (提供 :(国研)農研機構 九州沖縄農業研究センター)

◆チクゴイズミ
●初めての低アミロース品種で、めんのモチモチした食感が特徴です。
●九州地域を中心に、西日本で栽培されています。

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チクゴイズミの圃場(左)(上)とそうめん(右)(下)
(提供 :(国研)農研機構 九州沖縄農業研究センター)


◆ミナミノカオリ
●温暖地向けのパン用硬質コムギ品種です。
●赤かび病耐性、穂発芽耐性が十分ではないので、適期に防除、収穫することが重要です。

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ミナミノカオリの圃場(左)(上)と粒(右)(下)
(提供 :2枚ともに(国研)農研機構 九州沖縄農業研究センター)


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 :ミナミノカオリの株、穂、粒 
 :パン(左から 1CW、ミナミノカオリ、ニシノカオリ) 
(提供 :2枚ともに(独)農研機構 九州沖縄農業研究センター)


◆はる風ふわり
●2020年に佐賀県で奨励品種に採用された、新しいパン用の小麦品種です。
●製パン適性が高く、高タンパク質の収穫物が得られやすい性質を持っています。

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はる風ふわり(左)(上)とミナミノカオリ(右)(下)
(提供 :(国研)農研機構 九州沖縄農業研究センター)


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 :はる風ふわり(左)とミナミノカオリ(右)の穂
 :はる風ふわり(左)とミナミノカオリ(右)の粒
(提供 :(国研)農研機構 九州沖縄農業研究センター)

品種選びのポイント

●小麦は冬作物で、栽培期間の気象条件、なかでも冬期の気温条件によって、作付けできる品種が異なります。
●毎年、病気や障害(穂発芽など)が発生する地域では、耐病性、障害耐性をもった品種を選定することが必要です。
●現在の麦流通制度では、実需者(製粉会社や加工業者)との播種前契約によって作付けが可能となるので、実需者の求める特性をもった品種を選定しなければなりません。

●小麦の生産地では、道府県の奨励品種決定調査によって、各道府県内での栽培に適した小麦品種の選定が行われており、基本的には、これらの品種から、栽培する品種を選びます。

「奨励品種等を作付けするメリット」
●「栽培指針」「栽培ごよみ」が作成されています。
●県の指導が受けやすいです。
●種子が安定的に供給されます。
●通常、実需者との播種前契約は、JAなど集団で行われるので、個人で事務手続きをする必要がありません。

留意点

●実需者との播種前契約が成立すれば、奨励品種等でなくても、作付けはできます。
●奨励品種等でない品種について、農産物検査を受けるには、農政事務所に産地品種銘柄として認定されることが必要です。
●奨励品種決定調査を行っていない都府県でも、産地品種銘柄指定を受けている品種がある場合もあります。また、近隣県の普及品種であれば、比較的栽培しやすいです。
●いずれの場合も、もよりの農業改良普及センターなどにご相談されることをお勧めいたします。

執筆者 
関昌子
農研機構 作物研究所小麦育種グループ

八田浩一
農研機構作物研究部門 畑作物先端育種グループ グループ長補佐

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