麦編 品種の選定 六条皮麦
はじめに
●六条皮麦は、主に精麦(押麦や切断麦などの麦ごはん)用、麦茶用に用いられています。
●これまでのうるち性品種に加えて、もち性の品種が育成されています。
●用途や気候によって適する品種が異なるので、適切な品種を選びましょう。
品種の紹介
●以下に、主な六条皮麦品種の特性・用途適性・栽培地域などを紹介します。品種選定の参考にしてください。
◆ファイバースノウ (育成地:長野県農業試験場)
●精麦適性が優れ、精麦業界からの評価が高い品種です。
●耐寒雪性が強く、北陸地域を中心に主に寒冷地・積雪地域で作付けされており、六条皮麦の作付けシェアの60%近くを占めています。
●主な栽培県は、福井県※・富山県※・石川県※・三重県※・長野県※・岩手県※・山梨県※です(※は奨励品種採用県)。
ファイバースノウの草姿(提供 長野県農業試験場)
◆シュンライ (育成地:長野県農業試験場)
●精麦適性が優れており、一部では麦茶用にも使われています。
●強稈(かん)で倒伏に強い品種です。
●主に温暖地北部や寒冷地南部で作付けされており、六条皮麦の作付けシェアの20%以上を占めています。
●主な栽培県は、栃木県※・宮城県※・兵庫県※・群馬県※・長野県※・福島県※です(※は奨励品種採用県)。
シュンライの穂(左)と草姿(右)(提供 長野県農業試験場)
◆ミノリムギ (育成地:長野県農業試験場)
●やや長稈で、耐寒性が強い品種です。
●かつては精麦用として広く栽培されていましたが、かなりの部分がファイバースノウやシュンライに置き換わりました。
●主な栽培県は、宮城県※・新潟県※・岐阜県です(※は奨励品種採用県)。
ミノリムギの草姿(提供 長野県農業試験場)
◆はねうまもち (育成地:農研機構 中央農業研究センター)
●もち性の品種で、精麦適性が優れています。
●ファイバースノウの突然変異で育成された品種で、栽培特性はファイバースノウと同等です。
●耐寒雪性が強く、北陸地域を中心に主に寒冷地・積雪地域で作付けされています。
●主な栽培県は、福井県※・新潟県・青森県・山梨県などです(※は奨励品種採用県)。
はねうまもちの穂(左)と精麦(右)
◆ホワイトファイバー (育成地:長野県農業試験場)
●もち性の品種で、精麦適性が優れています。
●シュンライ並の早生で、収量も同程度です。
●東北南部や東山地域で作付けされています。
●主な栽培県は、宮城県※・長野県※・大分県です(※は奨励品種採用県)。
ホワイトファイバーの草姿(左)と精麦(右)(提供 長野県農業試験場)
◆きはだもち (育成地:農研機構 次世代作物開発研究センター)
●もち性の品種で、機能性成分β-グルカンが他のもち性品種よりもやや高いです。
●オオムギ縞萎縮病(Ⅰ~Ⅴ型)に抵抗性で、短強稈で極多収です。
●関東地域で作付けされています。
●主な栽培県は、千葉県・静岡県などです。
きはだもちの草姿(左)と精麦(右)
◆カシマゴール (育成地:農研機構 作物研究所)
●麦茶専用品種で、麦茶用として最も多く作付けされています。
●カシマムギ並の早生で、穂数が多く多収です。
●大麦縞萎縮病(I~III型)に抵抗性です。
●やや小粒です。
●主な栽培県は、茨城県※・神奈川県※・愛知県です(※は奨励品種採用県)。
オオムギ縞萎縮病I型ウイルス汚染圃場での発病程度
左上 :カシマゴール / 右下 :カシマムギ
カシマゴールは成熟期に稈の折損が発生しにくい
左上 :カシマゴール / 右下 :カシマムギ
◆カシマムギ (育成地:農林省農事試験場)
●麦茶専用品種で、麦茶業界から高く評価されています。
●麦茶用ではカシマゴールに次いで多く作付けされています
●大麦縞萎縮病に弱く、成熟期に稈の折損が発生しやすいなど、最近の品種と比較すると栽培性が劣り、作付けが減ってきています。
●主な栽培県は、茨城県※・千葉県※です(※は奨励品種採用県)。
◆さやかぜ (育成地:農研機構 作物研究所)
●主に麦茶用ですが、押麦用としての精麦適性もあります。
●短強稈・多収ですが、カシマムギよりも成熟期がやや遅い中生種です。
●大麦縞萎縮病(I~III型)に抵抗性です。
●主な栽培県は、群馬県※・岐阜県※・愛知県・広島県※です(※は奨励品種採用県)。
「さやかぜ」の穂
品種選びのポイント
●一般的に、精麦用には「ファイバースノウ」や「シュンライ」のような'並性'品種が用いられ、麦茶用には「カシマムギ」や「さやかぜ」のような半矮性で小粒の'渦性'品種が用いられています。
●用途によって、高品質の生産物を得るための適正な栽培方法(土壌条件)が異なります。
●例えば、精麦用には蛋白質含量が上がりにくく硝子質粒が発生しにくい水田圃場が適し、麦茶用には蛋白質含量が上がりやすい畑圃場での栽培が適しています。
●気象条件によって、同じ品種でも出穂期・成熟期・稈長・穂数などが大きく異なり、収量や品質および病害・諸障害の発生にも影響します。
●播性を含めて品種の特性を把握して、栽培地に適応する品種を選んでください。
●品種によって、栽培適地の範囲が異なります。
●品種選定の際、まずは自県で奨励品種等に採用されている品種を選ぶのがお勧めです。
吉岡藤治
農研機構 作物研究所 大麦研究関東サブチーム長
塔野岡卓司
農研機構 作物研究部門 畑作物先端育種研究領域 主席研究員
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