麦編 雨害、穂発芽
はじめに
●雨の多い日本では、収穫期の降雨による、ムギの穂発芽、赤カビ、褪色粒、容積重の低下といった雨害の発生がしばしば見られます。
●雨害が起こると、穀粒の品質低下を招き、ムギの商品価値が損なわれてしまい、収穫目前の麦が台無しになってしまう場合もあります。
●収穫期の降雨による雨害を防ぐには、穂発芽しにくい品種など、耐性品種を使うことや、適期を見極めて収穫することが肝心です。
麦の収穫適期と梅雨入り時期の関係
●暖地の九州は、5月下旬に早生小麦やビール大麦、はだか麦が成熟期を迎えます。
●関東は6月上旬以降になります。
●北海道では7月中旬から8月中旬にかけて、秋播き小麦、ついで春播き小麦が成熟期を迎えます。
●収穫適期は、成熟期から約3~4日後、穀粒水分が30%以下になる頃です。成熟期の穀粒水分は30%以上と高いので、収穫には早すぎます。
●実際の収穫適期は、梅雨入り直前の時期や天候が不順な時期と重なっています。九州から東北にかけての平年の梅雨入り時期は、6月上旬から中旬、梅雨がないと言われる北海道でも、収穫適期の7月や8月の天候が不順になる年があります。
●適期収穫可能日は、実際は数日に過ぎないため、計画的に効率よく収穫作業を進めて、適期に収穫することが重要です。
●適正な収穫期を逃すと、穂発芽などの雨害が発生し、品質が低下するので、注意します。
穂発芽
●穂発芽は、収穫期前の降雨により、穂上の種子が発芽してしまう現象です。
穂発芽
左上 :ビール用オオムギ品種「ゴールデンメロン」(提供:農研機構 蝶野真喜子氏)
右下 :コムギ(北海道十勝地方 2016年)(提供:帯広畜産大 大西光一准教授)
●外観は発芽しているように見えない種子でも、内部で発芽の過程が始まっている場合もあります。
●降雨により穂発芽が発生し、収穫前に種子の発芽が始まると、発芽のための栄養として種子に蓄えられているデンプンなどの貯蔵物質が消化・分解されてしまいます。
●小麦粉の主要成分は、種子に含まれるデンプン等であるため、貯蔵物質が消化・分解されてしまうと小麦粉の品質が悪くなり、おいしいうどんやパンが作れなくなります。
穂発芽耐性品種の開発
●穂発芽の発生のしやすさには、ムギの品種の間で差があります。
●品種間の差を決めているMFT遺伝子やMKK3遺伝子が明らかになっています。
穂発芽しやすさの品種間差
(穂発芽検定の結果、右に行くほど穂発芽しやすい品種)
(提供: 農研機構 吉川亮氏)
「穂発芽性極難小麦」選抜のための穂発芽検定の様子
15℃の低温下、非常に穂発芽しやすい処理条件で穂発芽検定を行っているため穂発芽性難の「北系1354」でも穂発芽している。しかし、北海道立農業試験場とホクレン農業総合研究所との共同育成系統である「北系1802」は、この条件下でもほとんど穂発芽しない
(提供:北海道立総合研究機構 西村努氏)
●穂発芽耐性が向上した品種の開発が進められています。
●北海道では「きたほなみ」など、これまでの品種に比べて穂発芽しにくく、かつ品質の良い品種が開発されています。ビール用オオムギ品種でも、品質が良くこれまでの品種と比べて穂発芽耐性が向上した「はるさやか」が開発されています。
●こうした新しい耐性品種を使うことが、穂発芽被害の発生防止に役立ちます。
穂発芽の発生しやすさと登熟期の環境
●同じ品種を使っていても、穂発芽の発生しやすさは、その年の登熟期の天候により大きく左右されます。
●その年の登熟期の天候を見て、穂発芽の発生しやすさを予測し、収穫計画を立てることが重要です。
●穂発芽を起こさないためには、種子が成熟しても休眠を続け、雨にぬれても発芽しない状態を保つことが大切です。
●ムギの種子の休眠の深さは、その年の登熟期の環境、特に気温により大きく影響を受けます。
●種子の休眠は、登熟期の気温が低く登熟期間が長くなるほど、深くなります。
●逆に気温が高く登熟期間が短くなると、休眠が浅くなり、穂発芽しやすくなります。
●そもそもムギは、冬に向かって寒くなる季節に芽を出し育つ冬作物で、ムギの種には気温が低くなると発芽しやすくなる仕組みが備わっています。
●そのため、収穫の時期でも気温が低い日に降雨があると、穂発芽が発生する可能性は高くなります。
●北海道などでは、収穫期の7~8月でも天候が不順な場合は、気温が大きく下がることがあり、こうしたときの降雨には注意が必要です。
●収穫期に気温が低く、雨が予想される場合には、早めの収穫を検討しましょう。
●その場合、収穫物をできるだけ早く乾燥機に入れる必要がありますが、乾燥温度は高くなりすぎないよう注意します。
普通型コンバインによる効率的な収穫 (提供:農研機構 渡邊好昭氏)
中村信吾
農研機構 作物研究部門 作物デザイン研究領域
◆麦づくりの、その他の情報はこちらから