大豆編 大豆の品種と加工適性
(2024年6月 一部改訂)
- はじめに
- 豆腐用~タンパク質含量が高く栽培しやすい品種を選ぶ
- 納豆用~裂皮の少ない外観品質の良い品種を選ぶ
- 煮豆用~大粒で外観品質の良い品種を選ぶ
- 味噌用~蒸煮大豆の色が良い品種を選ぶ
- 在来品種・有色品種~付加価値を付けて販売
- 新規用途品種~販売先の確保や普通大豆の混入防止が重要
はじめに
●大豆はタンパク質や脂質に富み、炭水化物が主体の米や麦などの栄養を補完できる、優れた作物です。
●主に豆腐、味噌、納豆、煮豆、醤油など伝統的食品に加工されますが、最近では製造技術の向上により食感や風味が向上した大豆ミート、また豆乳を加工した豆乳ヨーグルト、豆乳クリーム、豆乳シュレッド(チーズ様食品)といった新しい大豆食品が作られています。
●加工用途によって求められる特性は少しずつ異なりますが、品種によって用途が限られることは少なく、複数用途で使われることが多くなっています。タンパク質含量や粒大などは同一品種でも生産年、栽培地域、土壌などで大きな差が出ることがありますが、加工の際に調整がされています。
●「丹波黒」などは乾燥子実を煮豆用として用いるほか、未熟種子をエダマメ用としても用いることがありますが、使える農薬が異なる場合もありますので注意します。
●また分離大豆蛋白はゲル化力や粘着力などを利用してハムや水産加工品の食感改良材などに用いられています。
●農研機構の育成品種の入手先(種子販売許諾先)はホームページから検索できます。
●用途別の主な品種は、農林水産省のホームページ「国産大豆品種の事典」を参照してください。
さまざまな大豆食品
大豆粉を使用したクッキー。さまざまな食品に混ぜて使用できる
大豆粉を使用したパン。
左から「フクユタカ」、「小粒緑豆」、「くろこじろう」、強力粉100%で作ったパン。小麦粉に対して大豆粉10%使用
豆腐用~タンパク質含量が高く栽培しやすい品種を選ぶ
「収量が高く栽培しやすい品種を選ぶ」
●需要量が大きいため、ある程度まとまって作付けできる品種が有利です。「フクユタカ」「エンレイ」「里のほほえみ」など主要な品種は豆腐に適していますが、地域特産などの特別な事情がなければ、播種用種子の入手のしやすさやロットの確保の点から奨励品種等から選びます。
●煮豆用に比べて販売価格が低いので、極端に外観品質が悪くなければ、収量性や病虫害に強い栽培しやすい品種を選びます。またコンバイン収穫しますので、最下着莢位置が高く耐倒伏性・難裂莢性を備えた品種が有利です。
●豆腐では、煮豆などに比べて子実の外観品質の製品への影響は少ないですが、検査等級に影響しますので、褐斑や紫斑の出にくい品種を選びます。
「中・高タンパク質品種を選ぶ」
●近年技術の向上により、従来よりも低タンパク質の大豆から良質な豆腐を加工することが可能となっていますが、タンパク質含量が高いほど豆腐が固まりやすいので、低タンパク質より、高タンパク質のほうが豆腐の加工に適しています。
●技術の向上により豆腐の固まりだけではなく、風味も重視される傾向にあり、甘味に関わる糖含量も着目されています。
●一般に高タンパク質大豆からは蛋白な味の豆腐になり、中タンパク質大豆からは甘味などの風味が感じられる豆腐になります。
豆腐用にはタンパク質含量が重要です
納豆用~裂皮の少ない外観品質の良い品種を選ぶ
「外観品質が良い品種を選ぶ」
●裂皮が少なく、へそ色が黄色の外観品質が良い品種が向いています。また紫斑や褐斑が出にくい品種を選びます。
●「スズマル」や「納豆小粒」など極小粒~小粒の大豆を用いた納豆が多く出回っていますが、大豆本来の味を楽しみたいときはやや大きめの品種を選びます。最近では中粒品種を使った納豆や「タマフクラ」のような極大粒品種を使った納豆も増えています。
●以前に比べて納豆の生産規模が大きくなっていますので、工場生産する品種は一定以上のロットがまとまる品種を選びます。
「納豆に適した成分は」
●納豆に適した成分については、まだ十分明らかになっていませんが、納豆菌の栄養分となる全糖含量が高く、脂肪含量が低い品種が向いていると言われています。
「石豆の発生を抑える」
●石豆(吸水しにくい豆)が生じやすい品種や蒸煮した豆が硬い品種は、食感が悪くなるので納豆に向いていません。
●石豆は、過乾燥でも生じるので、適切な乾燥調製を行うことも重要です。また過乾燥は裂皮や割れを生じることもあります。
「収量を確保する」
●極小粒~小粒の品種は、普通品種に比べて収量が低いので、適切な栽培管理をして収量確保に努めます。
小粒の「スズマル」(左)と極小粒の「納豆小粒」(右)で作った納豆。最近は中大粒の納豆も増加している
煮豆用~大粒で外観品質の良い品種を選ぶ
「外観品質が良い品種を選ぶ」
●種皮のくすみがなく、へそ色は種皮色と同色で、裂皮しにくい、外観品質が良い品種を選びます。
●煮豆は煮くずれが少なく、煮上がりの外観が良いことが求められます。
●黒豆では「丹波黒」「いわいくろ」、黄豆では「ユキホマレ」「ゆめのつる」などが用いられます。
「粒が大きい品種を選ぶ」
●煮豆用品種の粒大は、黒大豆では百粒重が50~70g以上、黄大豆では35~40g以上が一つの目安になります。必要に応じて、収穫後に選粒して粒大をそろえます。
●大粒品種は裂皮や割れが生じやすいので、適期に収穫するとともに乾燥調製を適切に行います。
「食味」
●蒸煮した豆が硬い品種は、食感が悪いので煮豆には向いていません。
●「もちっとした」あるいは「なめらかな」食感の品種が向いています。
「成分」
●煮豆に適した成分は、納豆と同じく十分解明されていません。
●一般的には、蛋白含量が中程度で、全糖含量が高いものが適していると言われています。
●「ペクチンメチルエステラーゼ」という酵素が種子で機能すると、煮豆が硬くなること、またこの現象が煮豆の硬さの品種間差に関与することが明らかになっています。
●上記の「ペクチンメチルエステラーゼ」の要因のほか、種子のカルシウム(Ca)含量も煮豆の硬さに影響し、低カルシウムの方が煮豆は柔らかくなります。
黒大豆の煮豆(左)と黄大豆の煮豆(右)。煮たときに皮切れが少ない大粒の品種を選ぶ
味噌用~蒸煮大豆の色が良い品種を選ぶ
「さまざまな品種が使われている」
●「あきまろ」のような味噌用品種も育成されていますが、味噌用を主目的とした品種は少ないため、「ユキホマレ」「エンレイ」など煮豆・豆腐用などの中から、条件にあったものを選びます。
●「エンレイ」のように淡色系味噌、赤色系味噌両方に使われる品種もありますが、色調などで品種が使い分けられることも多いです。
●地域振興などで地場産味噌に使われる場合は在来品種が用いられることもあります。
●比較的低価格の大豆が使われることが多いので、多収の品種を選びます。
「蒸煮大豆の色調」
●見ばえの良い味噌を作るためには、蒸煮した豆の色調が重要です。
●蒸煮大豆の色合いが明るく、黄色みが強い品種が向いています。
●煮上がりの色が悪い緑大豆は、味噌には向いていません。
「蒸煮大豆の硬さ」
●軟らかく煮える品種が味噌に向いています。
●石豆が生じやすい品種や蒸煮した大豆が硬い品種は、味噌の食感が悪くなるので向いていません。
「成分」
●味噌には、全糖含量が高く、脂質が少ない品種が向いているとされています。
●また色調と関連する、カロチノイド含量が高い品種が良いと言われています。
淡色系味噌(左)と赤色系味噌(右)
在来品種・有色品種~付加価値を付けて販売
中山間地域を中心に地域村おこしのために在来大豆や緑大豆などの特色ある大豆品種を栽培する動きが強まっています。在来品種などは一般大豆の流通ルートでは販売できないことも多いので、本格的な栽培前に契約栽培等で販売先を確保する、加工・製品販売まで一貫した体制を作るなどの独自ルートを作っておく必要があります。
「白光(埼玉在来品種)」の栽培風景
「在来品種(地大豆)」
●「美里在来(三重)」「白光(埼玉)」「小糸在来(千葉)」など各地で古くから栽培されてきた品種で、育成品種と異なり花色や莢色などが異なるいくつかの系統が含まれる場合も少なくありません。
●「夢さよう(兵庫)」「津久井在来(神奈川)」のように、在来品種から選抜して純系にした在来品種もあります。
●在来品種は病虫害抵抗性や耐倒伏性が不十分な場合も多いので、栽培の際には防除、中耕培土など十分な対策をとる必要があります。
「緑大豆」
●「信濃青豆」「岩手みどり」等各地の在来緑大豆のほか、「キヨミドリ」「あやみどり」などの育成品種があります。
●きな粉や浸し豆などに用いられる緑大豆は、色合いが重要なので、子葉色が緑で、かつ緑色が濃く鮮やかな品種を選びます。
●一般に黄大豆より単収が低いので、より丁寧な栽培を行って収量を確保します。
●緑色の退色を防ぐために、適期に収穫するとともに、冷暗所で保管します。
「小粒黒大豆」
●黒大豆納豆や豆ごはんなどに用いられる小粒の黒大豆で、「黒千石」や「ういろう豆」などの品種のほか、「くろこじろう」が育成されています。
小粒黒大豆「ういろうまめ」を用いた豆ごはん
新規用途品種~販売先の確保や普通大豆の混入防止が重要
近年の健康への関心の高まりや機能性表示制度の変更に伴い、新たなビジネスチャンスを求めて、健康機能性が期待される成分を多く含む大豆に関心が高まっています。
また、海外では牛肉等家畜由来のたんぱく質に代えて、大豆たんぱく等の植物タンパクに注目が集まっており、伝統的食品だけでなく様々な大豆食品が作られるようになっています。
こうした新規用途に向けた品種はまだ一般化していないので、種子の入手が困難であったり、一般品種と異なる栽培管理が必要な場合があります。特にリポキシゲナーゼ欠失大豆など、普通品種が混ざることで商品価値が失われる品種などは種子や収穫物の管理に細心の注意が必要です。
またこうした新規用途品種は通常の流通ルートでは販売先を探すことが難しいので、あらかじめ販売先を確保するなど、普及センターや育成地と相談しながら栽培します。
大豆たんぱくを加工したジャーキー様食品
「成分を改変した品種」
●大豆の青臭みの原因酵素であるリポキシゲナーゼを欠失した「エルスター」や「すずさやか」などは、美味しい豆乳や豆乳デザートに向いています。小麦粉などと混ぜて、大豆クッキーなど、新たな食品の開発にも利用できます。
●リポキシゲナーゼに加えて、サポニンの1種(グループAアセチルサポニン)が欠失している「きぬさやか」、「すみさやか」は、えぐみが少なくなるので、よりすっきりした味わいの豆乳を作ることができます。
●アレルゲンタンパク質の一部を欠失した「なごみまる」は、適切な低アレルゲン化加工技術と組み合わせることによって、アレルゲンリスクの軽減が期待できます。
大豆貯蔵タンパク質の電気泳動図
1,6:普通大豆、2~5:7S欠失品種
「新規用途品種の栽培」
●新規用途品種は、用途が限られることが多いので、契約栽培などで販売先を確保してから作付けるようにします。
●普通品種の混入を避けるため、コンバインや乾燥施設を別にする、などの工夫が必要です。
「健康機能性」
●大豆にはイソフラボン、β-コングリシニン、グリシニン、サポニン、葉酸、オリゴ糖などの健康維持や増進効果が報告されている成分が多く含まれています。
●しかし「特定保健用食品」や「機能性表示食品」制度に基づいて機能性表示を行う場合は、ガイドラインに基づく表現や科学的根拠の提示などさまざまな制約があります。
●生産から販売までしっかりした商品開発戦略を立てておく必要があります。
●通常の食品として大豆を摂取する場合は問題ありませんが、機能性成分のサプリメントでの利用は過剰摂取を引き起こしやすいので注意します。
<β-コングリシニン>
●大豆のグリシニンとともに主要な貯蔵タンパク質の一つで、7Sグロブリンとも呼ばれ、中性脂肪低減効果が報告されている成分です。
●高β-コングリシニン品種として「ななほまれ」が育成されています。
<グリシニン>
●大豆の主要な貯蔵タンパク質の一つで、11Sグロブリンとも呼ばれ、筋委縮低減効果が報告されている成分です。
●高11Sグロブリン品種として「ゆめみのり」「なごみまる」が育成されています。
<イソフラボン>
●女性ホルモン(エストロゲン)に似た構造で、骨粗鬆症予防や更年期障害軽減などの健康増進機能性が報告されている成分です。
●北海道など登熟期の気温が低い地域ではイソフラボン含量が高くなる傾向があり、「ふくいぶき」「ゆきぴりか」など高含量品種も育成されています。
<葉酸>
●ビタミンB群の一種で必須な栄養素です。近年さまざまな機能性が明らかになってきています。
●乾燥大豆の葉酸の品種間差は十分解明されていませんが、「ダダチャマメ」系品種のエダマメのビタミン葉酸含量が高いことが知られています。
<オリゴ糖>
●グルコースなどの単糖が2から10程度結合したもの。大豆の主要なオリゴ糖はショ糖(2糖)、ラフィノース(3糖)、スタキオース(4糖)です。ラフィノース、スタキオースはプレバイオティクス(健康に有益な微生物に選択的に利用され、例えばビフィズス菌に対する選択的な増殖促進活性を示すもの)として最近着目されています。
さまざまな大豆
上段左から「黄粉豆」「丹波黒」「虎豆」
中段左から「浸し豆」「フクユタカ」「キヨミドリ」
下段左から「茶豆」「鳩殺し」「櫻豆」
(ケースの大きさは同じため、粒の大小がわかる)
戸田恭子
農研機構 基盤技術研究本部 遺伝資源研究センター
南條洋平
農研機構東北農業研究センター
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