大豆編 栽培のポイント
(2024年 8月一部改訂)
はじめに
「単収の停滞」
●我が国の大豆の作付け状況や収量は、北海道と都府県で大きな違いがあります。北海道では、畑での作付け比率が高くて収量も高い状況ですが、都府県では転換畑(図中の田作が該当)での作付けが主体で、収量は低い状況です。都府県の収量が低い要因の一つとして、転換畑での作付けが主体であるために湿害を生じやすいことが考えられますので、転換畑では、圃場条件に応じた「排水対策」の徹底が重要です。
農林水産省統計データより
「急速な規模拡大」
●近年の大豆作では急激な規模拡大が進んでおり、規模拡大の程度は、水稲作よりも大きい状況で、都府県の平均の経営体当りの豆類の栽培面積は水稲作を超えています。こうした、規模拡大のなかでは、多数の圃場を管理する必要があり、雑草防除等の適期管理が行い難い状況となっています。
●本州以南の大豆作では、播種時期が梅雨の多雨期にあたること、大規模化により播種期間が長期化すること、等により、播種時期が遅れることでの収量低下のリスクが高まっています。
●こうしたなかでは、高能率の播種技術を導入して播種の遅れを回避することが重要となります。播種作業能率は、耕うん条件や播種法により変動するため、播種面積や所有農機、畝立ての必要性などを考慮して技術体系を確立する必要があります。具体的な技術メニューは「耕うん・播種技術」を参照して下さい。
輪作体系
●我が国の主要な大豆作では、転換畑での稲麦大豆を組み合わせた輪作体系で生産されています。輪作の型は、次の3つに大別されます。
1)1年1作(北陸以北が主体):大豆栽培と前後作との作業競合は小さいものの、晩秋からの天候不順と春先の消雪時期の影響を受け、積雪地帯では作業可能期間が限定されます。
2)2年3作(関東以西が主体):水稲作付け直後に麦、麦収穫後に大豆を作付け、大豆作後は水稲作に戻る体系です。麦の収穫と大豆の作付けの間での作業競合が顕著になります。
3)1年2作(九州等):水稲、大豆作後に麦を作付ける体系です。麦収穫後の大豆播種、大豆収穫後の麦播種ともに、作業競合が顕著になります。
●麦と大豆の輪作体系について、一部地域では、小麦よりも早く収穫できる大麦を作付けることで、大豆播種との作業競合を軽減させています。
●近年、稲麦大豆に子実用トウモロコシを加えた輪作体系も拡大しつつあります。子実用トウモロコシの導入体系では、収穫時に多量の有機物(茎葉)がほ場に還元されるため、「土づくり」の点で有効です。また、大豆の連作で増加する病害虫、雑草発生の抑制にもつながります。
播種前~播種時の留意点
「ほ場の選定」
●大豆を連作すると茎疫病などの土壌伝染性病害、シストセンチュウなどの虫害、畑雑草などが著しくなります。適切な輪作を行いましょう。
●水田転換畑では、排水性が良いほ場を選びます。また、ブロックローテーションによって、排水の良好化やほ場の集約による作業能率の向上、一斉防除よる虫害駆除の効率化を図ることができます。
●排水性の悪い圃場では排水対策を徹底するほか、畝立て播種などを行います
「土づくりによる地力の向上」 ▼参考
●大豆作では、作付けのたびに土壌中の有機物が減耗して地力を消耗させます。
●この土壌中の有機物の減耗により、土壌が硬く締まるようになり、排水性も低下します。また、土壌中の地力窒素も減少します。これらにより大豆は徐々に収量が低下していきます。
●そのため、大豆作の安定多収化には、前作の稲や麦の残渣をすき込むとともに、堆厩肥、緑肥などの有機物の補給による土作りが欠かせません。また、特に寒冷地では、基肥の施用により地力窒素や根粒の窒素固定を補うことも有効です。
●大豆の生育・収量は土壌pHに大きく影響されるので、好適なpH5.5~6になるように酸度矯正を行います。
「出芽・苗立ちの確保」
●出芽苗立ちの確保が、安定多収、雑草対策の基本です。
●出芽時に子葉が土壌表面を突き破って地表に出てくるので、砕土率80%を目途に耕うんを行い、土塊やクラスト(※1)がない状態で出芽できるように配慮します。
●種子の急速な吸水により出芽・苗立ちが低下しますので、播種直後に豪雨の予報が出ているときは、播種を控えることが重要です。
●土壌中では、いろいろな病原菌やタネバエなどが種子にダメージを与えるので、殺菌剤、殺虫剤の粉衣が効果的です。
●殺菌剤は、出芽時の湿害軽減の効果もあります。特に茎疫病、苗立枯病などに効く種子処理殺菌剤(クルーザーMAXX等)が有効です。
※1 クラスト:土膜。降雨で地表の土壌粒子が分散し細かい粒子となって地表面に膜状に広がったもの。土膜のうち、乾燥して固くなったものを指す場合が多い。
良好な出芽苗立ちが安定生産の第一歩(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
土壌がクラスト化すると発芽率が低下(左がクラスト化した土壌表面、右はクラスト化により発芽できない大豆)(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
干ばつ害の回避
「水分管理の必要性」
●大豆は要水量(※2)が多いので、大豆で多収を得るには、水稲並みに水が必要です。
●干ばつがひどいと、落花、落莢が発生し、青立ちが起こります。
●外観からは分からないような「軽い干ばつ」がしばしば起きて、それが減収につながっていると考えられます。
※2 要水量:作物が植物体1gを生産するのに要する水の量(g)。
軽微な干ばつ時の大豆の外観
浅い水田転換畑大豆の根系
「根を発達させる」
●ほ場に耕盤(鋤床)が形成されて、大豆の主根の伸長が抑制されると大豆の生育が減少し、減収します。
●日本での大豆の干ばつは、梅雨の多湿や耕盤形成によって、根が深く張れないことが主な原因です。
●額縁明渠や作溝、耕盤・心土破砕、補助暗渠の施工などの排水対策を行うとともに、十分な作土層を確保して根を深く発達させると、干ばつを軽減することができます。
●本暗渠が施工されたほ場では、大豆が発芽した後は暗渠管の出口を閉じて、降雨が多いときのみ開放することで、干ばつの軽減に有効となります。
「灌水」
●葉が裏返ってきたり、しおれ始めたら、大豆はすでに干ばつストレスにさらされています。高温乾燥が続いたら早めに畝間灌水を行います。
大豆の畝間潅水(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
●粘質なほ場では、急激な畝間灌水を行うと、水口では湿害が発生することがあるので、注意が必要です。
●大豆が乾燥ストレスを受ける時期を推定してアラートを発出するWebシステム、「大豆灌水支援システム」が開発され、Webサービスで民間企業から提供されています。このサービスの利用により大豆の乾燥ストレスが容易に把握でき、アラートにしたがって適期灌水を行うことで、収量向上が期待できます。
●長時間の潅水は根系や根粒へのダメージのほか、茎疫病などの病害蔓延の原因にもなりますので、水が行き渡ったら速やかに排水します。このための排水対策も重要です。
▼詳細はこちら
大豆への灌水適期を伝える「大豆灌水支援システム」の一般利用がスタート
生育期の留意点
「根粒による窒素固定」
●大豆の生育に必要な窒素は、根による土壌窒素の吸収と根粒の窒素固定により供給されますが、根粒由来の窒素の確保が安定多収のポイントとなります。
●大豆の根粒窒素固定能力は本来高く、好適環境下では、30kg/10a程度の窒素(約400kg/10a子実収量相当)を大豆に供給できます。
●根粒による窒素固定は、地温や土壌水分等の影響を強く受けるので、生育初期の低温や湿害により根粒の働きが抑制される場合には、窒素施肥で窒素吸収を補うことや堆肥施用等で地力向上を図ることがより重要となります
●土壌水分、土壌孔隙、土壌pH の影響を受けやすいため、根粒窒素固定を高めるためには、湿害および乾燥害を回避する土壌管理や有機物施用による土壌孔隙の確保、土壌pHの確認と矯正が大切です。
●温度の低い条件では根粒の活性も低いため、根粒資材の種子粉衣や基肥の窒素施用が有効です。
●フタスジヒメハムシは、その幼虫が根粒を食害して減収させるので、発生ほ場では、有効薬剤の種子塗抹や散布により防除します。
大豆の根粒(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
「倒伏を防ぐ」
●倒伏は、減収を引き起こすだけでなく、コンバイン収穫ロスも増やします。
●特に、狭畦による無中耕無培土栽培では耐倒伏性品種を選びます。
●生育量が著しく大きくならないような播種時期や、栽植密度を選びます。
●播種後1カ月頃に、株元(初生葉節位)までしっかりと土を寄せて培土します。
●生育が旺盛で、倒伏、蔓化が予想されるときは、主茎先端を切除する(摘心)方法もあります。
大豆の摘心作業(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
「中耕培土」
●中耕培土には、除草効果、排水対策、倒伏防止などの効果があります。
●株元までしっかりと土を盛ります。
●干ばつ条件下では、増収効果が見られないこともあります。
●雑草が大きくなりすぎたり、土壌が湿っていると、中耕培土だけでは雑草が完全に枯死せずに、再生することがあります。
●開花期以降の中耕培土作業は、根を切ったり植物体を傷つけて減収の原因となることがあるので、遅くとも開花期前に作業をすませます。
●中耕培土作業の高速化には、ディスク式中耕培土機の利用が有効です。
中耕ディスクによる培土作業(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
「青立ち対策」
●青立ち(成熟不整合、莢先熟ともいう)は、莢は熟して収穫適期となっても、茎の水分が高くて青々している状態です。葉や葉柄が落ちないで残ることもあります。青立ちした大豆はコンバイン収穫時に汚粒発生の原因となります。
●青立ちの発生には品種間差がありますので、青立ち被害が著しい場合は、青立ちしにくいとされる品種への変更や開花・着莢期の高温回避のための晩生品種の利用が有効です。
●青立ちは、虫害や開花・着莢期の高温、干ばつ等、多様な要因により発生します。虫害防除の徹底、灌漑などによる干ばつ被害の軽減が有効です。また、一般に、早播きは青立ちを助長するので、適期播種に留意します。
青立ちした大豆(莢が成熟したが、落葉せずに茎に水分が残り青みがかっている)(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
「しわ粒、裂皮対策等」
<しわ粒>
●しわ粒は、等級格下げの大きな原因となっています。
●へその反対側の種皮と子葉がぎざぎざになる「ちりめんじわ」と、種皮が亀甲状に隆起する「亀甲じわ」に大別されます。
<ちりめんじわを防ぐ>
●ちりめんじわ粒は、生育後期に子実がうまく肥大しないときに起こります。
●登熟後半に栄養状態をよくし、排水対策で土壌環境をよくすることで防ぎます。
<亀甲じわを防ぐ>
●亀甲じわ粒は、成熟期後に子実が吸湿と乾燥を繰り返す時に、主に発生します。
●早刈りすることで、発生を減らすことができます。
<裂皮>
●裂皮粒は、品種特性によるところが大きいといわれます。
●干ばつによる落莢や虫害による莢数減少で、個々の粒の肥大が大きくなったときに発生しやすいので、これら被害を防ぎます。
<割れ粒>
●コンバイン収穫時の衝撃や過乾燥により子実が割れることがあります。
●割れ粒は水浸漬時に種子内容物が漏れ出したり、雑菌混入のリスクが高まるなど加工適性に影響を及ぼします。特に外観品質が重視される煮豆や納豆では大きな問題となります。
●割れ粒を防ぐために、コンバイン収穫時に適切なこぎ速度として過度の衝撃を与えないことや、刈り遅れや乾燥~貯蔵の際の過乾燥を避けることなどに留意します。また、丹波黒などの極大粒品種は手刈り、自然乾燥により割れ粒を防いでいます。
左から上から ちりめんじわ、亀甲じわ
裂皮粒
割れ粒(過乾燥や脱穀の際の衝撃で種子が破損)(提供 :(株)クボタ 羽鹿 牧太)
島田信二
元 農研機構 中央農業総合研究センター
吉永悟志
農研機構 中日本農業研究センター
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