提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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麦・大豆

大豆編 排水対策

(2015年7月 一部改訂)
(2024年5月 タイトル含め一部改訂)

はじめに

●わが国の大豆の8割は水田転換畑で作付けされており、排水対策は重要です。圃場の排水性が向上し、多少の降雨後でもすぐに圃場作業が可能となることで、適期の播種がしやすくなり、大豆の発芽や苗立ちの安定が期待できます。また、生育期間中の湿害を抑制することができます。
●栽培する作目の種類(大豆、麦、野菜など)によらず、排水対策の基本的な考え方は同じです。ただし、このページでは、大豆を作付けする水田転換畑を想定して内容をまとめています。

水田転換畑の排水対策に関する基本的な考え方

●排水対策は、土地改良事業等で実施する<基盤整備>と、生産者が営農の一環として行える<営農排水対策>の大きく二つに分けられます。排水対策を「人の健康」で例えると、基盤整備が大きな手術であれば、営農排水対策は日々の体調管理です。
●水田転換畑の排水対策では、数年以内に復田するのか、または、半永久的に畑地化するのかによって講じる対策の内容が変わってきます。特に耕盤層の扱い方が変わります。今後どのような営農を行っていくのか検討した上で、適した排水対策技術を選択することが重要です。

「基盤整備による排水性の確保」
●営農排水対策だけでは十分な改善が期待できない場合(例えば、大規模な湧水がある、水路が用排兼用である、地下水位や排水路の水位が高い、暗渠管の出口が水没しているなど)においては、土地改良事業等で実施する基盤整備によって抜本的な解決を目指します。
●暗渠管の敷設や田面よりも深い位置への新たな落水口の設置など、生産者自らが、トレンチャやバックホウなどを用いて自前で施工することも可能です。トラクタや農耕用ブルドーザなどで牽引できる暗渠敷設機も開発されています。

「営農排水対策による排水性の確保」
●基盤整備実施の有無にかかわらず、排水性を持続させるために、定期的な営農排水対策の実施は不可欠です。
●営農排水対策には、地表排水対策(明渠、溝切り、圃場面の傾斜化など)、地下排水対策(弾丸暗渠、心土破砕、暗渠管の疎水材充填など)、湿害を回避する栽培方法(畝立て栽培、転作地の集団化など)、排水施設の維持管理(排水路の泥上げ、落水口などの清掃、暗渠管の機能回復など)があります。
●大豆の排水対策は、前作などの水稲や麦の栽培時から始まっています(図1)。例えば、圃場面が乾きやすくなるよう、水稲の中干しの際に溝切りを行う地域もあります。また、麦の収穫後すぐに大豆の播種を行う場合、作業期間が短い上に梅雨時期とも重なるため、麦の播種前に施工した明渠や心土破砕などを手直しして引き続き利用します。地域によっては、大豆播種前に改めて心土破砕などを行う場合もあります。

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図1 ()輪作体系の中の一連の排水対策例、()水稲中干し時の溝切りの様子

排水対策の方針決定

●排水対策技術は様々あります。新しい技術の導入を検討する前に、現在取り入れている技術の施工方法を見直したり、水稲栽培がおこなわれている一体でポツンと転作を行うバラ転の場合は地区内の転作地の集団化を図ることも重要です。
●以下の流れを参考に排水対策状況を振り返り、対策の方針を検討しましょう。農研機構の診断に基づく栽培改善技術導入支援マニュアル1.湿害・排水不良対策や島根県の排水対策早見表などのフローチャートもご参考ください。

1.地表排水対策だけで対応困難な湧水がありますか?
<ある場合>
上方側への深い明渠の配置やその他の湧水処理を行います。大規模な湧水の場合はその圃場で畑作物の作付けを行わないことも選択肢の一つです。

2.落水口の位置は田面より20cm以上深いですか?
<20cm未満の場合>
田面より深い落水口を確保します。困難な場合はその圃場で畑作物の作付けを行わないことも選択肢の一つです。
<20cm以上の場合>
深い額縁明渠や圃場内明渠を施工し、深い落水口と明渠を接続します。

3.排水路の水面と田面の距離は50cm以上ありますか?
<50cm未満の場合>
排水路の泥上げを行った上で排水路の水面と田面の距離が50cm未満の場合は、圃場内の地下水位も高いと考えられ、地下排水の効果を期待しにくいです。このため、圃場内明渠を充実させ、高畝栽培などの導入を検討します。

4.暗渠管が整備されていますか?機能していますか?
<未整備の場合>
暗渠管を(自前で)施工したり、無材暗渠の施工を検討します。施工が困難な場合は、圃場内明渠を充実させ、高畝栽培などの導入を検討します。
<整備済みだが機能していない場合>
暗渠管の機能回復を図ります。暗渠管の歪みなどで機能回復が期待できない場合、暗渠管の(自己)施工や無材暗渠の施工を検討するのも選択肢の一つです。
<整備済み、かつ、機能している場合>
補助暗渠などの施工によって、組み合わせ暗渠を行い、地下排水能力を維持させます。数年以内に復田しない場合は、全層心土破砕などで耕盤層を破壊し、有効土層の拡大を検討します。

営農排水対策技術<地表排水>

●地表の水の流れは、地中に浸み込んだ水と比べて、移動速度が速いです。余分な水は、地中に浸み込ませる前に、地表排水によって圃場外にどんどん排水させることが重要です(図2)

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図2 全体の排水に占める地表排水の割合

「額縁明渠・中明渠」
●額縁明渠は、畦畔に沿って圃場の周囲を掘削する排水溝です(図3)。区画が大きい場合や、粘土質土壌で排水条件が悪い圃場では、額縁明渠だけでなく、圃場内に中明渠を掘ります。

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図3 畦畔に沿った排水溝(額縁明渠)の施工の様子

●明渠の深さは耕盤層が露出するような深さまで掘削するのが効果的です。落水口の位置は、明渠深さよりも深くなるよう設置します。
●明渠と落水口は確実に接続させます。せっかく明渠があっても、落水口と接続されていないと、明渠に水が溜まるだけで余剰水が圃場外に排水されません(図4)

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図4 明渠と落水口が接続されていない例(オレンジ色の線で囲まれた範囲を掘削する必要があります)

●降雨後にきちんと排水されていることを確認し、十分排水できていない場合は明渠の補修・手直しを行います。
●隣接圃場や水路からの漏水が激しい場合は、二重明渠の施工も効果的です。
●掘削した明渠を潅漑に活用することもできます(図5)

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図5 明渠を利用した灌水の様子

「圃場面の傾斜化」
●圃場面の凹凸を減らして均平化を図りつつ、排水路や明渠に向かって圃場面を傾斜化させることで、地表排水を促進させます(図6)
●不耕起栽培や畝立てなどと組み合わせた場合、1000分の1程度の傾斜でも排水効果の促進が期待されます。
●しかし、平畝播種などと組み合わせた場合、地中への浸透量が増えてしまうため、圃場面の傾斜による地表排水効果はあまり期待できません。
●畝立ての畝間や不耕起栽培の地表面のように地中への浸透がしにくい土壌面が露出することで、圃場面の傾斜化による地表排水効果が高まります。

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図6 レーザーレベラーで圃場面を傾斜化している様子

営農排水対策技術<地下排水>

●ある程度の排水が明渠などの地表排水によって進んだとしても、地中に浸透した水や地表面の凹凸に残った水は地下から排水する必要があります。
●さまざまな技術が提案されていますが、それぞれの技術の効果が長持ちする相性の良い土性などがあるので、ご自身の圃場の特徴を踏まえ、用いる技術を選択することが重要です。
●土中に亀裂や孔隙を構築する作業は、土壌が乾いている時期にゆっくりとした速度で機械を動かして施工することが重要です。施工速度が速いと、本来施工したい深さに対して浅すぎてしまったり、構築した亀裂や孔隙がすぐにふさがってしまう恐れがあります。

「弾丸暗渠と心土破砕」
●弾丸暗渠は、弾丸の形をしたモールドレーナをトラクタに付け、引っ張ることによって、土中に水が流れる孔隙を作ります。施工間隔は2-5m程度が目安です。
●心土破砕は、耕盤などの緻密な層を破壊して、亀裂を作り、排水性や通気性を改善します。心土破砕には、サブソイラが用いられることが多いです。施工間隔は2-5m程度が目安です。
●サブソイラに弾丸を取り付けて、心土破砕と弾丸暗渠の施工を同時に行うアタッチメントもあります(図7)
●堅い土の圃場で牽引式を用いた場合、ゆっくりとした速度で施工してもアタッチメントが浮いてしまうことがあります。その場合は振動式を検討しても良いでしょう。

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図7 から、弾丸を取り付けたサブソイラ、弾丸暗渠の施工の様子、サブソイラによる心土破砕の様子

「既設の暗渠管がある場合の地下排水の考え方:組み合わせ暗渠」
●本暗渠と補助暗渠を一体として考える「組み合わせ暗渠」を意識することが重要です(図8)

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図8 暗渠がある場合の地下排水の断面の模式図 (株式会社クボタ「水田輪作技術ガイド 麦大豆800A」より)

●弾丸暗渠やサブソイラを補助暗渠として、本暗渠の疎水材と連結させ、表層から暗渠管までの水みちをつなげることを意識しましょう。
●補助暗渠は浅く施工すると、疎水材部分と連結できず、水みちはつながりません。暗渠管を引っ掛けないように、深さ30-40cm程度に施工するのが理想です(図9)

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図9 組み合わせ暗渠を実行するための弾丸暗渠やサブソイラの施工位置

「既設の暗渠管がない場合の地下排水の考え方」
●明渠を深さ30-40cmを目安に深めに掘削し、弾丸暗渠やサブソイラの出口を明渠に接続します。落水口の位置は明渠深さよりも深くなるよう設置します(図10の上段左および下段)。これにより、地中に浸み込んだ水が弾丸暗渠やサブソイラの孔隙や亀裂を通って、明渠に集水し、落水口から排水します。
●落水口をさらに深くできる場合、落水口近くに集水穴を深く掘削し、そこから放射状に弾丸暗渠やカットドレーンを施工する方法もあります(図10の上段右)
●排水路側の畦畔を越えて排水路内にカットドレーンの切断刃を下ろし、そこから圃場内に向かって穿孔することで、簡易的な無材暗渠を構築する方法もあります。

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図10 (上段)既設の暗渠管がない場合の効果的な弾丸暗渠やサブソイラの施工方法の平面イメージ図と(下段)断面イメージ図

「幅広心土破砕や全層心土破砕、有資材の補助暗渠など」
●水分の多い粘土質の圃場では、大きな亀裂を作る幅広タイプの心土破砕(ハーフソイラなど)、亀裂を作りながらもみ殻などを充填する有資材の補助暗渠(モミサブローやモミタス)、空洞を切り出す穿孔暗渠(カットドレーンなど)などが効果的です(図11、12、13)
●締め固まりやすく、崩れやすいシルト質や砂質の圃場では、幅広タイプの心土破砕(パラソイラなど)や全層タイプの心土破砕(カットブレーカーなど)で、土壌を膨軟にさせることで排水効果を高めます。また、有資材の補助暗渠も効果的です。

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図11 地下排水対策の施工跡と施工機械。左から、弾丸暗渠、ハーフソイラ、モミタス

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図12 モミサブローによる施工の様子と()、深さ20-40cmにもみ殻を充填した施工後の土壌断面の様子()(写真提供:千葉県長生農林振興センター振興普及部改良普及課)

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図13 上段の()から、カットドレーンの近影、カットドレーン施工の様子、カットドレーン施工後の土壌断面。
下段は弾丸暗渠、心土破砕、カットドレーンの土壌断面の模式図


「排水改良機カットシリーズ」
●カットシリーズは、穿孔暗渠機「カットドレーン」、全層心土破砕機「カットブレーカー」、有材補助暗渠機「カットソイラー」、暗渠敷設機「カットドレーナー」などの総称です。
●カットドレーンは深さ40-70cmに崩れにくい10cm角の通水空洞を構築します(図13)。補助暗渠としても、また、排水路から穿孔して無材の本暗渠としても活用できます。
●カットブレーカーは深さ40-70cmの土塊をV字状に破砕することで土壌を膨軟にし、有効土層を広げます。破砕強度が強いため、施工後1-2年以内に復田する場合はおすすめしません。
●カットソイラーは、深さ35-50cmの土塊を切り出し、地表面に散在させた疎水材(細断した稲わらや麦わら、刈り株、堆肥、木材チップ、もみ殻、貝殻粉砕物など)を掻き寄せて、持ち上げた土塊の溝に疎水材を充填する一連の流れを走りながら作業できる機械です。土層改良や有材の補助暗渠として活用できます。
●カットドレーナーは最大深さ80cm程度の土塊を切り出し、50mm内径の暗渠管を敷設し、さらに幅7cmの縦溝に疎水材を投入する一連の流れを走りながら作業できる機械です。トラクタなどで牽引できるため、生産者自らが暗渠管の敷設を行えます。

営農排水対策技術<湿害を回避する栽培方法>

●湿害を回避する栽培方法として、特に暗渠管が未整備の圃場において、畝立て栽培は有効です。
●不耕起栽培そのものは湿害を回避する栽培方法ではありませんが、圃場内明渠を充実させるなど排水対策を徹底的に行った上で、不耕起栽培の良さ(作業スピードが速いなど)を取り入れることができます。
●トラクタなどを使った機械作業は、練り返しなどで土壌を傷めないよう、乾いた土壌で行うことが基本です。
●バラ転は、排水対策を徹底したとしても浸水してきます。転作地の集団化を行うことで管理がしやすくなります。

「畝立て栽培」
●地表面の湛水が発生しやすい圃場では、畝立て栽培が効果的です。作物を高い位置に播種・生育させることで、地下水面から遠ざけ、発芽時の湿害を回避するとともに根群域の湛水を削減します。また、畝立てで作土の孔隙を増やし、通気性を改善させます。
●耕うん同時畝立て播種は、高水分環境下でも播種が可能なことが特徴です。基本的に事前の耕起が不要で、耕耘から播種までの一連の作業を1回の走行で行います(図15)
●畝間から明渠、そして落水口までを確実に接続させることで、畝間の湛水を迅速に排除します。
●播種方法に関しての詳細は、大豆編 耕うん・播種技術をご覧ください。

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図15 アップカットロータリーによる耕うん畝立て播種作業

営農排水対策技術<排水施設の維持管理>

●定期的に排水路の泥上げと落水口の清掃を行いましょう。排水路に土砂が堆積したままだと、排水路の水位が上昇したり、暗渠管や落水口の出口がふさがれ、圃場からのスムーズな排水が阻害されます。
●定期的に落水口や暗渠管出口から正常に排水されていることを確認し、排水されていない場合は早めに洗浄等を行います。
●暗渠管を設置してから時間が経つにつれて暗渠管の排水効果が実感しにくくなる原因は、多くの場合、圃場の表層から暗渠管までの水の流れが途絶えていることです。この解決策としては、暗渠管の疎水材部分と連結するように亀裂や孔隙を構築したり、分解されて消失した暗渠管の疎水材を充填させるなど、暗渠管の機能回復を図ることが有効です(図16)
●暗渠管内に堆積物が蓄積し、通水が制限されている場合は、洗浄によって機能回復を目指します。

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図16 疎水材の中でももみ殻は腐植しやすい素材である。
から、もみ殻が十分に充填されている断面、もみ殻の腐植が進行中の断面、もみ殻がほぼ分解されて空洞となり陥没の危険のある断面。いずれも粘土質の圃場


「暗渠管の洗浄方法」
●暗渠管の敷設レイアウトによって、洗浄方法は異なります。
●複数の暗渠管を1本の集水渠にまとめて排水させるレイアウトの場合、水閘を閉じて管内を水で満たし、一気に開けることで管内の堆積物を排出させます。
●暗渠管ごとに排水させるレイアウトの場合、動力噴霧器を活用できます。暗渠管の出口から逆噴射型ノズルをつけた動力噴霧器を挿入し、水を噴射して堆積物を排出します(図17)

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図17 から、逆噴射型ノズル、動力噴霧器、暗渠管出口から動力噴霧器を挿入している様子


▼参考
診断に基づく栽培改善技術導入支援マニュアル

執筆者
瑞慶村 知佳
農研機構農村工学研究部門農地基盤情報研究領域 空間情報グループ


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