ナガイモ栽培の作業体系
圃場準備
「圃場の選定」
●排水良好・肥沃でできるだけ耕土の深い圃場を選定します。
●連作年数が進むと根腐病等の土壌病害の被害が多くなります。この対策には緑肥作物やねぎ類等との輪作体系を基本とします。
輪作体系と発病度 (平成元~7年畑作園芸試験場) (上段:発病株率、下段:発病度)
注1)体系2、4、7、8区は堆肥200kg/a施用
2)◎は、植付前に土壌消毒を実施(80%クロルピクリン30L/10a)
3)試験開始以前にナガイモが作付されたことがない
出典:青森県やさい栽培の手引(平成29年3月)
●やむを得ず連作せざるを得ない場合は、土壌消毒します。
土壌消毒機(RP-1WM アグリテクノ矢崎(株))
【簡易土壌消毒】
○トレンチャーで植溝耕起後、クロルピクリンくん蒸剤で消毒し10日間以上被覆。
○除覆後、特にガス抜きは必要なし。10日以上経過してから薬剤の残臭がないことを確認して植付をおこなう。
「排水対策」
●圃場の排水性を考慮し、明きょや耕盤破砕(サブソイラ、プラソイラ等)を施工します。
プラソイラ(スガノ農機(株))(左)(上)と断面図(右)(下)
「土壌改良」
●pH6.0~6.5
●有効態リン酸30mg/100g目標
●完熟堆肥2t/10a
左上 :パワーマニアスプレッダ((株)デリカ、(株)ササキコーポレーション、(株)IHIアグリテック、(株)タカキタ)
右下 :ロータリー耕
耕起(トレンチャー耕)
「耕起目安」
●うね幅110~120cm、深さ100~110cm、溝幅15~20cmを目安にします。
●トレンチャーにはチェーン式とホイール式(ロータリー式)があります。チェーン式は、爪の交換が頻繁で維持コストがかかりますが、均一な耕土になるといわれています。ホイール式は、土質によっては溝の深層部がやや硬くなりやすいです。
●ホイール式は、走行速度:時速600m以下、エンジン回転:2,000~2,500rpm、PTO:500~540rpmを遵守します。
「耕起時期」
●植溝に空洞ができないように、植付予定の15日前までに作業を終え、土を落ち着かせます。
左から
トラクタ用トレンチャー(TT-622 (株)川辺農研産業)
ホイールトレンチャー(HT7120 (株)ササキコーポレーション)
ロータリトレンチャー(TDT823-11080 (株)川辺農研産業)
●自動操舵補助システムの活用で、トレンチャー作業や収穫作業をより効率的に行うことができ、経験の浅い方でも熟練者並みの作業ができます。
自動操舵補助システム(オートステアリング) (X25AUTOSTEER-SET-A (株)トプコン)
自動操舵システム(XD/AGS-2-SET (株)トプコン)※シンプル&低価格モデル
「種いも準備と植付」
●種いもの種類は、「むかご」から1~2年養成した「子いも」(1年子、2年子)、「切いも」があります。
●種いもの形状選抜のポイントは、子いも増殖体系においては、いも長・くび長が長く、いも径が細い形状不良な子いもは、その後代も形状不良となるため、これを廃棄します。また、切いも増殖体系においては、子いも増殖ほど母本(長年形状選抜してきた母本が前提)の形状は単年だけでは後代へ影響しないので、その年に切いもにする母本に対し強度の選抜を行う必要はありません。ただし、極端に細長い形状の成いもが生じた場合は、その後代も細長くなるため、これを廃棄します。
●子いもは80~150g、切いもは100~150gを目安とします。10a当たり400~600kgになります。 (子いもで3,700個、切いもは約1,000gの親芋を7分割し、1個150gとすると3,700個必要なため、もとの親芋本数で約530本必要となります)
●青森県では、子いも(植付の1カ月前位に、がんくを切除しておく)、切いも(切ってから長期の保管は避ける)は5月下旬~6月上旬に植付け、100g以下の小さい子いもは頂芽付きで4月下旬~5月中旬に植え付けます。一般に5月下旬頃の植付けが多いのですが、小さい子いもを4月末頃に植付ける例も少なくありません。
●切いもは催芽すると腐敗しにくく萌芽も早くなります。
●土壌病害対策として、種子消毒を必ず行います。
左上 :植付け用の子いも(提供:(地独)青森県産業技術センター野菜研究所)
中 :むかご (提供 :まるごと青森HP)
右下 :むかごからの子いも養成
切いも
●植付手順は以下の通りです
トレンチャー耕
→植溝切り(トレンチャー耕同時、またはトラクタアタッチV溝切り)
(トレンチャー耕後は15日間程度おいて溝を落ち着かせる)
→植付け(株間は種いもの先端を24cm間隔とするのが基本)
→覆土(トラクタアタッチ覆土機)6cm程度
トレンチャー耕(同時植え溝切り)
左上 :子いもの植付け作業 / 右下 :切いもの植付け作業
●株間は24cmとし、覆土の厚さは植付け時6cm、2~3週間後にさらに6cm培土します。
左上 :植付け後の覆土作業 / 右下 :ナガイモ ネット張り
植付け後の管理
●植付け、覆土後に、支柱(1.8~2m)を2m間隔で立て、ネットを展張します。
●萌芽前に1うね1条ネット支柱とし、種いもの北側または西側か、長い支柱で植溝に支柱を立てネットを張ります。
●支柱立て後は、うね間を膨軟にして生育を促進します。
●基肥は、植付け約1カ月後の萌芽時にうねの肩部に行います。
●新いも長が10~15cmになったら、追肥の1回目を行い、以降10~14日おきに3回位追肥します。
●除草剤散布に当たっては、農薬登録状況を確認し、使用基準は必ず守ります。
基肥施肥の位置(萌芽時施用)
●100g以下の頂芽付き子いもを早め(4月末)に植付けした場合の追肥は、植付け後55日頃で、新いも長が5cm程度の時、1回目の追肥を開始します。
●萌芽後、つるが伸びたらなるべく早くネットにからませ、生育の促進を図ります。
「超幅狭仕様トラクタの活用による施肥、中耕・培土、除草、防除の省力化」
●うね幅を130cmにすれば、ブルースターエクストラ(JB13XN(M))が活用できます。狭いうね間管理作業をトラクタに乗ってラクにできます。
超幅狭トラクタ(JB13XN(M)(株)クボタ)
防除
●葉渋病、炭疽病、アブラムシ、ナガイモコガ等の発生に注意し、予防を主体に計画的に防除します。
左上 :ラジコン動噴(MSA415R4C-RV) / 右下 :ブームスプレーヤ(BSM-1070SLT)
●ナガイモへのドローン防除が可能な登録農薬が増えてきています。
●ドローンで使用可能な登録農薬については、農林水産省HPをご覧ください。
ドローン(T30K (株)クボタ)
収穫
●青森県の収穫期は秋掘りと春掘りに分けられ、概ね半々です。秋掘りは11月中旬~12月にかけて、春掘りは翌年4月になります。
●秋掘りのいもは調理の際、褐変しやすいので早掘りは避けます。
●病気の防除、雑草化の防止のため、茎葉・むかごは集めて圃場外へ搬出します。
●支柱を片付け、ネットは回収し適正に処理します。これらは収穫前に労力がかかるので、計画的に行います。
収穫作業
左上 :長いも収穫機 (YAH-60PM-A (株)川辺農研産業)
右下 :自走式ながいも掘取機 (HS1502-12-II(株)川辺農研産業)
コンベアトレンチャー (TC317 (株)ササキコーポレーション)
●収穫機で収穫し、直射日光を当てないように黒ビニールで覆いコンテナ詰めまたはスチールコンテナに詰めます。その後、JA等の貯蔵施設に搬入します。
【ホイル型トラクタとパワクロ(セミクローラ型トラクタ)の能力差】
●圃場条件が不良(降雨や降雪、みぞれ等により湿潤状態)の場合、パワクロの能力は抜群です。
○ホイル型は、スリップして収穫機をけん引できず、作業中止になりますが、パワクロは苦もなくけん引でき、安定走行で堀取り速度も速いのが特徴です。
○収穫の際、収穫機がうねからずれると、いもに傷がつき、等級が下がります。ホイル型トラクタの場合、スリップしたときに収穫機がずれないよう、細心の注意を払って操作する必要があります。このため、機械の操作は男性がおこなう場合がほとんどで、肉体的につらい作業となる収穫機後方の作業(掘り上げ)は、女性がおこなうことになります。一方パワクロは悪条件下でも安定した走行ができ、女性でも操作が容易なため、後方作業は男性に任せられるというメリットがあります。
○圃場まで移動が長い場合、走行音(振動)が大きく、ホイルトラクタに比べて走行スピードも劣りますが、高速のパワクロが発売されていますので、目的に合わせて選ぶことができます。
左上 :慣行の収穫作業(みぞれ天候でスリップ) / 右下 :パワクロによる収穫作業(順調に作業)
▼半履帯式(パワクロ)と車輪式(ホイール)の比較動画
▼セミクローラタイプトラクタによるナガイモ圃場の土壌物理性改善効果(青森県 平成19~20年度)