提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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栽培・管理_その他栽培法

高温障害に強い稲の栽培法

(2020年5月 一部改訂)
(2014年3月 一部改訂)

はじめに

●登熟期の気温が高すぎて品質が低下する「高温登熟障害」が、近年、西日本を中心に、年によっては全国にわたって発生し、大きな問題となっています。
●その症状は、米が白く濁る「白未熟粒」、偏平となり縦溝が深くなる「充実度の低下」、亀裂が入って割れやすくなる「胴割粒」が発生、などです。
●これらの症状は、いずれも検査等級の低下をもたらすほか、砕米などによる精米ロスや症状が著しい場合には食味の低下をもたらします。
●地球温暖化の進行に伴い、今後さらに被害が広がる恐れがあり、その対応は一層重要になってくると考えられます。

対策の考え方

●高温登熟障害の対策技術は、まず、登熟期に高温に当てないようにする「高温回避型」と、高温に耐える力を強化する「高温耐性型」に分類できます。

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図 高温登熟障害を克服する技術の考え方 (提供 :農研機構 森田敏)

●また、技術のタイミングによる分類として、作付け時期など登熟期が高温になるかどうかわからない段階で施す「予防型」と、登熟期が高温になってから、あるいは高温のリスクが高まってから施す「治療型」に分類することができます。

品種で対応する

「高温に強い品種を選ぶ」 
●近年、高温登熟耐性品種が多数育成されていますので、これらを活用します。
●代表的な高温登熟耐性品種として、農研機構で育成した「にこまる」、「笑みの絆」、「恋の予感」、「にじのきらめき」、「秋はるか」、山形県の「つや姫」、新潟県の「こしいぶき」、「新之助」、富山県の「てんたかく」、「富富富」、石川県の「ゆめみづほ」、福井県の「ハナエチゼン」、千葉県の「ふさおとめ」、香川県の「おいでまい」、福岡県の「元気つくし」、佐賀県の「さがびより」、熊本県の「くまさんの力」、「くまさんの輝き」、宮崎県の「おてんとそだち」、鹿児島県の「なつほのか」など、いずれも高温年での高品質が実証されています。なお、これらの中でも最近育成された「にじのきらめき」は、高温登熟耐性に加えて縞葉枯病抵抗性を持つため、北関東等での普及が期待され、また「秋はるか」は、高温登熟耐性に加えてトビイロウンカ抵抗性を持つため、九州等での普及が期待されています。
●これらの品種の多くは「ヒノヒカリ」や「コシヒカリ」に優るとも劣らない食味となっており、普及が進んでいます。

「晩生品種を使う」 
●晩生品種を使い、秋涼しくなってから実らせる作り方も、効果があります。鹿児島県の「あきほなみ」、福井県の「あきさかり」は、その典型品種です。

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写真
左 :高温登熟耐性品種「にこまる」の草姿 (提供 :農研機構 坂井真)
右 :高温登熟耐性とトビイロウンカ抵抗性を併せ持つ「秋はるか」(提供 :農研機構 竹内善信)

栽培のポイント

「栽植密度」 
●白未熟粒の発生程度は、栽植密度によっても変わります。
●疎植にしすぎると穂が大きくなり、弱勢籾が増えて乳白粒が発生します。
●極端な密植にすると、登熟後半に窒素が不足して、背白・基部未熟粒が発生します。
●白未熟粒の発生が少ない栽植密度は、坪当たり50~60株(㎡当たり16~18株)程度であることが明らかになってきています。

「水管理」 
●分げつ期に深水にすると、無効分げつの発生が抑えられ、ひいては籾数過多が回避されて白未熟粒の発生が抑制されます。
●土壌のタイプに応じて中干しを適切に行うことは、収量や品質の維持に効果的です。
●例えば重粘土壌では、やや強めの中干しを行うことで根腐れしにくくなり収量や品質にプラス効果が出ますが、砂質土壌で中干しを強くすると葉色がうすくなり背白・基部未熟粒が発生します。
●登熟期はできるだけ収穫間際まで通水を続けることで、稲を冷やしたり登熟後半まで光合成を維持することによる効果が期待されます。
●胴割粒の発生は、登熟前半の特に昼の高温で助長されるので、登熟初期のかけ流しかんがいが効果的です。
●用水量が増えるような水管理法(かけ流しかんがいなど)は、水利慣行の制約に注意します。どの程度の面積が可能か、どこを優先して実施するかなど、地域で事前に検討しましょう。

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写真 基盤整備田での入水バルブ (提供 :農研機構 森田敏)

「土づくり」 
●堆肥を適度に入れて、作土深を20cm以上にすると、高温障害が発生しにくくなります。
●堆肥を長年入れ続けている田んぼでは、高温年でも収量が安定して高くなります。
●登熟後半に安定して窒素が稲に供給されると、収量が増えるだけでなく、特に背白・基部未熟粒が発生しにくくなります。
●堆肥投入量が多すぎると籾数過多で乳白粒が発生する恐れがありますので、地力に応じて堆肥投入量と施肥量を加減します。
●作付け直前に稲わらなど未熟な有機物を施用すると、生育初期に窒素不足になりますので注意します。


図 稲づくりに必要な窒素の約半分は地力から供給される (提供 :元(株)クボタ 高木清継)

「施肥法」
●背白粒・基部未熟粒、胴割粒の発生を減らすためには、生育後半に窒素不足にならないように施肥管理を行う必要があります。
●乳白粒の発生を減らすためには、籾数が増えすぎないように、穂肥(特に1回目)を控える必要があります。
●白未熟粒のタイプを判定できる穀粒判別器がJA等での品質検査に利用されているので、このような機械を活用して自分の圃場で発生した白未熟粒のタイプを調べると、翌年の施肥法など栽培法の参考になります。
●穂肥を緩効性肥料(30日タイプなど)や分施で行うと、品質が向上しやすくなることが明らかになってきています。
●出穂期以降に日照不足になる場合の穂肥(特に出穂後)は、食味低下につながる可能性が高いので、注意が必要です。

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写真 整粒と高温や日照不足で発生する白未熟粒玄米の外観(上)と横断面(下)(提供 :農研機構 中野洋)

「刈り取り適期」
●刈り遅れによって、白未熟粒のほか茶米や胴割粒が増えやすくなります。
●登熟期が高温になると、成熟までの日数が短くなり、刈り遅れになりやすいので、注意します。
●収穫後の籾の過乾燥は、胴割粒だけでなく白未熟粒も増やすので、注意が必要です。

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写真 収穫期の稲 (提供 :農研機構 北川 寿)

執筆者 
森田 敏
農研機構 九州沖縄農業研究センター 水田作・園芸研究領域 上席研究員
水稲高温障害対策プロジェクトリーダー

中野 洋
農研機構 九州沖縄農業研究センター水田作研究領域水田栽培グループ グループ長

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