提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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高密度播種苗移植栽培

はじめに

●高密度播種苗移植栽培(本稿では以下「高密播苗」と略称)は、苗1箱あたり播種量を220~300g(乾籾重相当)の厚まきとし、田植機の苗取り量・かき取り幅を小さくすることで使用箱数を低減する技術です。
●使用箱数の低減により、育苗作業や苗運搬の省力化、培土や育苗箱などの資材にかかるコストの低減、育苗ハウスの有効活用などの効果が期待されます。

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図1 播種量の比較
左 :稚苗(150g/箱)/ 右 :高密播(250g/箱)


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図2 苗の比較
左 :稚苗(播種量150g/箱、28日育苗)
右 :高密播苗(播種量280g/箱、21日育苗)


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図3 高密度播種苗移植栽培に係る作業時間とコストの比較

管理のポイント

(1)育苗計画の策定
●高密播苗は従来の中苗・稚苗に比べ、箱当たりの苗立ち個体が多いため肥切れしやすく、いわゆる苗の老化が早い傾向にあるため、移植適期幅はやや短くなります。1回で播種する苗箱数は、4~5日程度で移植できる分にとどめましょう。
●機械移植に耐える苗丈・マット強度を確保しつつ、極力健苗に近い状態で移植できるよう、播種日は移植日から逆算して概ね2~3週間前(加温出芽の場合)の範囲とし、気温が高い場合はこの範囲で短めの育苗期間とします。

表1 育苗方法(岩手県の例)
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1)表1、2とも品種「ひとめぼれ」の事例
2)育苗日数は播種から移植までの日数(加温出芽後ハウス展開)


(2)種子準備
●採種ほ産の健全種子を使用し、細菌病類対策として、種子消毒を確実に行います。

(3)育苗
●播種は、高密播苗に対応した播種機や、既存の播種機に増設可能な厚まき用種子ホッパを利用します。育苗箱は、稚苗用やダイヤカット育苗箱などが適しています。
●育苗用培土は市販の肥料入り稚苗用培土や中苗用培土が使用可能です。なお、厚まきにより籾が露出しやすくなるので、覆土は確実に実施します。

(4)育苗
●加温出芽を基本としますが、気温が十分に高い時期や地域では無加温も可能です。
●出芽とともに覆土が持ち上がった際は、置き床に展開後、土が乾いた状態でホウキなどで軽く撫でて土を落とし、適宜かん水で土を落ち着かせます。
●苗が徒長しやすいので、過湿・高温に注意します。
●育苗日数が予定より長引くことが見込まれる場合は、苗追肥(移植3~7日前、窒素成分1g/箱)を行うか、側条施肥により、移植後の初期生育の安定を図ります。

(5)整地(均平・代かき)
●移植精度を確保し、浮き苗や転び苗を防止するため、植付けの障害となる残渣等のすきこみを十分に行うとともに、均平化に努めます。
●大区画ほ場や移動する土量が多い場合の均平は、レーザレベラが有効です。

(6)移植
●田植機は、各メーカーが販売している高密播苗対応の機種や純正アタッチメントを使用し、苗取り量や横送り回数を調整して1株当たり植付け本数を3~5本に合わせます。
●浮き苗による欠株防止のため、移植作業時の田面の固さは「植穴が戻る程度」を目安とし、植付深は3cm前後を確保します。なお、作業中に田面が乾きはじめた場合は、適宜通水しながら作業します。
●移植後の再入水はゆっくり行います。なお、水系環境への配慮から、代かき後の濁水のむやみな排出は避けましょう。

表2 栽植様式(岩手県の例)
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(7)雑草防除
●除草剤は通常の移植栽培に準じて使用できますが、移植同時施用では、老化苗や浅植が薬害の発生原因になりやすいので注意が必要です(図4)

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 図4 浅植による薬害症状

(8)病害虫防除
●厚播きによって育苗期病害の発生リスクが高まる場合があるので、種子消毒(細菌病やばか苗病防除)、 苗立枯病防除などの対策は確実に実施します。
●葉いもち・初期害虫用の箱性薬剤については、10a当たり使用苗箱数が減ることにより、従来の一般的な箱施薬剤の使用量(箱当たり50g)では十分な効果を得られない場合がありますので、高密度に播種する場合の使用量等の登録がある薬剤を選択します。なお、高密播苗に対応した側条箱施薬機(図5)も選択可能ですが、事前の投下薬量の調整は確実に行ってください。

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 図5 高密度播種に対応した側条箱施薬機

執筆者
寺田 道一
岩手県農業研究センター生産基盤研究部