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多収・良食味品種、加工用品種

多収・良食味品種、加工用品種とは

●主食用米の消費量が減少傾向にある中で、最近は外食(家庭外で食事をする形態)と中食(家庭外で調理されたものを購入して家庭等で食事をする形態)を合わせた消費量の割合が、消費量全体の30%を超えるようになっています。
●外食、中食に適する米には、「コシヒカリ」、「ひとめぼれ」等に代表される良食味ブランド米とは異なり、良食味でありながら比較的低価格で取引されること、すなわち収量性が高いことが求められます。最近、良食味で多収の品種が開発され、利用される場面が増えています。様々な用途に向く加工用の品種も開発されています。
●ここでは、近年農研機構で開発した、実需者からの強い要望がある多収・良食味品種、加工用品種を紹介します。なお、食味評価、収量、玄米千粒重、アミロース含有率、タンパク質含有率等の数値はすべて育成地での試験結果を示しています。

多収・良食味の品種


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◆北海道に適する品種「ゆきさやか」 (農研機構北海道農業研究センター育成)
●「ゆめぴりか」よりやや多収(551kg/10a)で、「ゆめぴりか」と同等の良食味品種です。
●白米のアミロース含有率は16%程度で、温度による変動が比較的少ないです。玄米の白濁は見られません。白米のタンパク質含有率は「ゆめぴりか」、「ななつぼし」より低い(5.6%)です。
●耐冷性は強く、比較的倒れにくいです。葉鞘褐変・褐変穂が他の品種より多く発生するので、栽培地の選定には注意する必要があります。

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「ゆきさやか」の食味評価 (提供 :北海道農業研究センター)


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「ゆきさやか」(左)、「ほしのゆめ」(中)、「ななつぼし」(右)の玄米
(提供 :北海道農業研究センター)



◆北海道に適する品種「雪ごぜん」 (農研機構北海道農業研究センター育成)
●「きらら397」よりも15%以上多収(619kg/10a)です。耐冷性にも優れるため、安価で安定的な多収・良食味米の生産が期待できます。食味総合評価、玄米品質は「きらら397」と同等です。
●白米のアミロース含有率は「きらら397」よりも約2ポイント高い(22.1%)です。白米のタンパク質含有率は「きらら397」よりも約1ポイント低い(5.6%)です。
●倒伏にはあまり強くないので、過度な多肥栽培は避ける必要があります。

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「雪ごぜん」の食味評価 (提供 :北海道農業研究センター)


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「雪ごぜん」(左)、「きらら397」(右)の玄米
(提供 :北海道農業研究センター)



◆東北北部以南に適する品種「ちほみのり」 (農研機構東北農業研究センター育成)
●熟期は「あきたこまち」よりやや早く、耐倒伏性が強く、直播栽培でも倒伏が少ないです。
●移植栽培の標肥栽培では「あきたこまち」より11%程度多収(693kg/10a)、多肥栽培では28%程度多収(808kg/10a)で、直播栽培でも「あきたこまち」より多収です。
●玄米の外観品質、炊飯米の光沢、粘りとも「あきたこまち」並の良質、良食味です。

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「ちほみのり」の食味評価 (提供 :東北農業研究センター)


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「ちほみのり」(左)、「あきたこまち」(右)の玄米 (提供 :東北農業研究センター)


◆東北北部以南に適する品種「ゆみあずさ」 (農研機構東北農業研究センター育成)
●熟期は「ひとめぼれ」より早く、「あきたこまち」の栽培地域に適します。いもち病に強いため、いもち病が発生しやすい地域に向いています。
●収量は移植栽培では「あきたこまち」、「ひとめぼれ」より約1割多収(743kg/10a)で、直播栽培でも多収(701kg/10a)です。
●炊飯米の食味は「あきたこまち」、「ひとめぼれ」と同等です。玄米の千粒重は「ひとめぼれ」と同程度で、高温による白未熟粒がやや発生しやすいです。


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「ゆみあずさ」の食味評価 (提供 :東北農業研究センター)


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「ゆみあずさ」(左)、「あきたこまち」(中)、「ひとめぼれ」(右)の籾と玄米
(提供 :東北農業研究センター)



◆東北北部以南に適する品種「つきあかり」 (農研機構中日本農業研究センター育成)
●「コシヒカリ」より2週間早く収穫でき、「あきたこまち」と収穫時期がほぼ同じです。短稈で倒伏に強いです。
●収量は「あきたこまち」よりも10%程度多収(646kg/10a)です。
●炊飯米はつやがあり、うま味も優れます。4時間保温しても、「コシヒカリ」よりおいしさが持続します。米は大粒で、外食での店内炊飯や中食での弁当用に適しています。

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「つきあかり」の食味評価 (提供 :中日本農業研究センター)


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「つきあかり」(左)、「あきたこまち」(中)、「ひとめぼれ」(右)の籾と玄米
(提供 :中日本農業研究センター)



◆東北中南部以南に適する品種「しふくのみのり」 (農研機構東北農業研究センター育成)
●「ひとめぼれ」の栽培地域に適します。稈長は「ひとめぼれ」より20cm程度短く、倒伏に強いです。高温登熟性が「ひとめぼれ」より強く、いもち病に強く、縞葉枯病にも抵抗性です。栽培コストの削減、省力化が期待できます。
●収量は、多肥の移植栽培では「ひとめぼれ」より17%多収(775kg/10a)で、多肥の直播栽培では50%多収(754kg/10a)です。
●玄米千粒重は「ひとめぼれ」より重く、外観品質は「ひとめぼれ」と同程度かやや優れます。炊飯米の食味は「ひとめぼれ」と同等で、店内炊飯、おにぎり等に適しています。

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「しふくのみのり」の食味評価 (提供 :東北農業研究センター)


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「しふくのみのり」(左)、「ひとめぼれ」(中)、「萌えみのり」(右)の籾と玄米
(提供 :東北農業研究センター)



◆北陸以南に適する品種「にじのきらめき」 (農研機構中日本農業研究センター育成)
●「コシヒカリ」の栽培地域に適します。草丈が短くて倒伏に強く、「コシヒカリ」よりいもち病に強く、縞葉枯病にも抵抗性です。
●収量は「コシヒカリ」より15%多収(719kg/10a)です。
●玄米千粒重は24.6gで「コシヒカリ」より重く、外観品質は「コシヒカリ」よりも良好で、高温条件で栽培しても品質が優れます。炊飯米の食味は「コシヒカリ」と同等です。

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「にじのきらめき」の食味評価 (提供 :中日本農業研究センター)


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「にじのきらめき」(左)、「コシヒカリ」(右)の籾と玄米
(提供 :中日本農業研究センター)



◆北陸以南に適する品種「ほしじるし」 (農研機構作物研究部門育成)
●倒れにくく、縞葉枯病に抵抗性のため、麦あとでも栽培できる二毛作向きの品種です。
●早植栽培で「月の光」より25%程度(625kg/10a)、晩植栽培でも15%以上(630kg/10a)多収です。
●玄米千粒重がやや大きく、炊飯米の食味は「コシヒカリ」に近い良食味です。安価で良食味の外食、中食用の米に適しています。

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「ほしじるし」の食味評価 (提供 :作物研究部門)


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「ほしじるし」(左)、「月の光」(右)の玄米
(提供 :作物研究部門)



◆北陸以南に適する品種「あきだわら」 (農研機構作物研究部門育成)
●「コシヒカリ」より遅く、「コシヒカリ」との作期分散が可能です。倒れにくく、栽培しやすい品種です。いもち病、縞葉枯病には強くないので注意が必要です。
●一穂籾数が多いため、多肥栽培で標準栽培の「コシヒカリ」より30%程度多収(739kg/10a)が期待できます。
●玄米外観品質、炊飯米の食味とも「コシヒカリ」に近く、安価で良食味の外食、中食用の米に適しています。

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「あきだわら」の食味評価 (提供 :作物研究部門)


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「あきだわら」(左)、「コシヒカリ」(右)の玄米
(提供 :作物研究部門)



◆北陸以南に適する品種「あきあかね」 (農研機構中日本農業研究センター育成)
●「コシヒカリ」より2週間遅く収穫でき、「コシヒカリ」との作期分散が可能です。「日本晴」と収穫時期がほぼ同じで、倒伏に強いです。
●「日本晴」よりも16%多収(735kg/10a)です。
●玄米千粒重は23.4gと重く、外観品質は良好です。炊飯米の食味は「コシヒカリ」並の良食味です。

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「あきあかね」の食味評価 (提供 :中日本農業研究センター)


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「あきあかね」(左)、「日本晴」(右)の籾と玄米
(提供 :中日本農業研究センター)



◆関東東海以西に適する品種「恋初めし(こいそめし)」 (農研機構西日本農業研究センター育成)
●「きぬむすめ」より収穫期がやや遅く、稈長は「きぬむすめ」と同等で、倒伏にはやや強いです。いもち病(穂いもち)に強く、縞葉枯病に抵抗性です。
●収量は「きぬむすめ」より2割程度多収(691kg/10a)です。
●やや大粒で、玄米千粒重は「きぬむすめ」より重く24g程度あります。玄米品質は「きぬむすめ」並で、炊飯米の食味は「きぬむすめ」に近い良食味です。中食や外食向けの利用が見込まれます。

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「恋初めし」の食味評価(提供 :西日本農業研究センター)


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「きぬむすめ」(左)、「恋初めし」(右)の籾と玄米
(提供 :西日本農業研究センター)



◆関東東海以西に適する品種「恋の予感」 (農研機構西日本農業研究センター育成)
●登熟期が高温になる年でも白未熟粒が少なく、玄米の外観品質が優れた品種です。縞葉枯病に抵抗性で、いもち病は、「ヒノヒカリ」より穂いもちに強いですが、葉いもちには適宜防除が必要です。
●収量は「ヒノヒカリ」より1割程度多収(587kg/10a)です。
●炊飯米の食味は「ヒノヒカリ」と同等で、炊飯米の表面が硬めで中が柔らかい特徴があります。

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「恋の予感」の食味評価 (提供 :西日本農業研究センター)


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「恋の予感」(左)、「ヒノヒカリ」(右)の玄米 (提供 :西日本農業研究センター)


◆関東東海以西に適する品種「さとのつき」 (農研機構西日本農業研究センター育成)
●「ヒノヒカリ」より成熟期が4日ほど遅い低アミロース米品種です。稈長は「ヒノヒカリ」より5cm程度短くて倒伏に強く、縞葉枯病に抵抗性です。多肥条件下では紋枯病が発生しやすいため、注意してください。
●収量は「ヒノヒカリ」より2割程度多収(659kg/10a)です。
●外観品質は「ヒノヒカリ」並で、精米のアミロース含有率は「ヒノヒカリ」より低く11%程度で、やや白濁します。炊飯米は外観が優れ、粘りが強く、柔らかい特徴があります。チルド米飯やブレンド用などへの利用が期待されます。

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「さとのつき」の食味評価 (提供 :西日本農業研究センター)


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「さとのつき」(左)、「ヒノヒカリ」(中)、「姫ごのみ」(右)の籾と玄米
(提供 :西日本農業研究センター)



◆中国四国以西に適する品種「秋はるか」 (農研機構九州沖縄農業研究センター育成)
●「ヒノヒカリ」と同様の熟期で、「ヒノヒカリ」より倒れにくく、いもち病、縞葉枯病に強く、トビイロウンカには中程度の抵抗性を示します。
●収量は「ヒノヒカリ」より15%程度多収(567kg/10a)です。
●高温登熟性が強く、玄米の外観品質は「ヒノヒカリ」より優れ「にこまる」並に良好です。炊飯米の食味は「ヒノヒカリ」ほど粘りが強くありません。

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「秋はるか」の食味評価 (提供 :九州沖縄農業研究センター)


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「ヒノヒカリ」(左)、「秋はるか」(中)、「にこまる」(右)の籾と玄米
(提供 :九州沖縄農業研究センター)



◆中国四国以西に適する品種「たちはるか」 (農研機構九州沖縄農業研究センター育成)
●熟期は「ヒノヒカリ」より遅く、倒れにくく直播栽培にも向きます。その特性は、アメリカ品種「Lemont」から導入されました。いもち病、縞葉枯病にも強いです。
●収量は移植栽培で「ヒノヒカリ」より16%程度多収(630kg/10a)で、直播栽培でも「ヒノヒカリ」より多収です。
●玄米千粒重は25g程度のやや大粒で、玄米タンパク質含有率は「ヒノヒカリ」より低く(6.2%)、炊飯米の食味は「ヒノヒカリ」に近い良食味です。

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「たちはるか」の食味評価 (提供 :九州沖縄農業研究センター)


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「あきまさり」(左)、「たちはるか」(右)の草姿
(提供 :九州沖縄農業研究センター)

加工用の品種

◆北陸以南に適する品種「やまだわら」 (農研機構作物研究部門育成)
●「朝の光」よりやや遅い熟期で、倒れにくく栽培しやすい品種です。いもち病、縞葉枯病には強くないので注意が必要です。
●収量は、多肥栽培で「朝の光」より30%程度多収(838kg/10a)です。
●玄米の外観品質は中程度で、炊飯米は「コシヒカリ」より粘りが弱く、その特性を活かして冷凍米飯等の加工用米として利用できます。
●除草剤成分ベンゾビシクロン、メソトリオンおよびテフリルトリオンに感受性のため、使用する除草剤には注意が必要です。

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「やまだわら」の食味評価 (提供 :作物研究部門)


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「朝の光」(左)、「やまだわら」(右)の玄米
(提供 :作物研究部門)



◆東北中南部以南に適する品種「とよめき」 (農研機構作物研究部門育成)
●「コシヒカリ」に近い熟期で、倒れにくく栽培しやすい品種です。いもち病、縞葉枯病には強くないので注意が必要です。
●収量は、多肥栽培で標準栽培の「コシヒカリ」より35%程度多収(814kg/10a)です。
●玄米の外観品質は中程度で、炊飯米は「コシヒカリ」より粘らないため、冷凍米飯等の加工用米として利用できます。
●除草剤成分ベンゾビシクロン、メソトリオンおよびテフリルトリオンに感受性のため、使用する除草剤には注意が必要です。

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「とよめき」の食味評価 (提供 :作物研究部門)


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「とよめき」(左)、「コシヒカリ」(右)の玄米
(提供 :作物研究部門)


執筆者
山口 誠之
農研機構 九州沖縄農業研究センター 暖地水田輪作研究領域

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