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水稲作におけるリン酸減肥

背景

●2008年に肥料原料の輸入価格が急騰し、農業生産における肥料費の抑制が喫緊の課題になりました。
●一方、長年にわたる土壌改良の結果、多くの水田土壌では、一般的な改善目標値(※1)を超えて、リン酸が蓄積しており、リン酸施肥量を見直すことが可能です。

※1 リン酸に関しては、土壌診断センターでトルオーグ法により有効態リン酸量が分析されます。多くの場合、乾燥土壌100gあたり有効態リン酸10mg(10mg/100gと表記する)が改善目標値とされています。

リン酸減肥の基本的な指針と減肥によるコスト低減

●本州以南8県の農業試験場で減肥試験を実施した結果、「リン酸肥料の施用量は、有効態リン酸が土壌に10~15mg/100g含まれる場合には、各地の土壌条件に応じて標準施肥量からその半量とし、15mgより多く含まれる場合には、標準の半量とする(表1)」ことを基本指針としました。
●リン酸施肥量を標準の半量にすると、肥料費は10~20%削減されます。

表1 土壌の有効態リン酸含有量別のリン酸施肥推奨量
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「留意点」
●ここでは、稲わらの全量を圃場に還元することを前提としています。
●稲わらを圃場から持ち出す場合、リン酸の持ち出し量も多くなるので、圃場に投入するリン酸施肥量を少し多くする必要があります。

具体的な施肥量の決め方

「土壌リン酸の改善目標を達成している場合リン酸を減肥しても水稲収量が確保できる」
●本州以南では、有効態リン酸10mg/100g前後より大きい圃場において、標準とされているリン酸施肥量を半分に減らしたり、また、無施肥にしても、玄米収量がほとんど低下しない結果が得られています(図1)

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図1 有効態リン酸が改善目標値前後の土壌におけるリン酸肥料削減試験の玄米収量

●ただし、寒冷地では、リン酸無施肥については、初期茎数の低下がみられるため、無制限にすすめることはできません。

「リン酸無施肥栽培すると土壌の有効態リン酸が減少する」
●水稲の収量が低下しなくても、リン酸無施肥あるいは少量施肥栽培は、土壌中の有効態リン酸を減少させるので、持続的な栽培方法とは言えません(表2)
●有効態リン酸量は、水稲による吸収で減少するだけでなく、土壌粒子とリン酸の化学反応によっても変化すると考えられます。地域性より土壌の性質の影響を強く受け、粗粒質な土壌では有効態リン酸の減少が早いようです。

表2 リン酸無施肥栽培をした場合の有効態リン酸の減少推移
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「有効態リン酸が10mg/100mg程度の場合の減肥方法」
●有効態リン酸が10mg/100g程度の場合には、土壌タイプに応じて標準施肥量からその半量程度の施肥により土壌のリン酸量を維持します。
●施肥により増加する有効態リン酸量は、土壌の種類に応じて異なります(図2)

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図2 各地の土壌におけるリン酸施肥により増加する有効態リン酸量

●黒ボク土で小さく、中粗粒質な土壌で大きくなります。
●この増加量を基に、先述した水稲作期間中に減少する有効態リン酸(表2)を施肥として補給しましょう。
●とくに、10mg/100g状態から減少する有効態リン酸の補給は、改善目標の維持に必要なため、これを表3にまとめました。このリン酸施肥量は、概ね、各地で公表されている標準施肥量からその半量程度であり、水田に広い面積を占める灰色低地土では、リン酸吸収係数が大きいほど多くなります。

表3 有効態リン酸10mg/100gを維持するために必要なリン酸施肥量
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「有効態リン酸が15mg/100gより多い場合の減肥方法」
●有効態リン酸が15mg/100gより多ければ、すべての土壌で半量施肥を実施できます。
●有効態リン酸の減少推移(表2)を見ると、無施肥を継続しても改善目標値まで減少するのに、15mg/100gの時点からは、中粗粒灰色低地土で2年、その他土壌では5~7年の猶予があると推定されます。
●さらに半量施肥では、無施肥の場合より減少が緩やかになるので、猶予期間は長くなります。
●以上の猶予期間を持って安全と考え、標準の半量施肥をほとんどすべての土壌で実施して良い診断基準として、有効態リン酸15mg/100gを推奨できます。

「半量施肥実証時の注意点」
●半量施肥を実施している場合には、時々土壌診断を実施して、施肥量の見直しを行います。
表2を参考に、有効態リン酸が15mg/100gに達するまでの期間(※2)を目安に、土壌診断を再度実施することをすすめます。
●有効態リン酸が15mg/100gより少ない場合、半量施肥を継続すると10mg/100gより低下する危険性が高いので、細粒グライ土やリン酸吸収係数の大きい細粒灰色低地土では、標準施肥量に戻すなど、施肥量の見直しが必要です。

※2 例えば20mg/100gの時点からは、中粗粒灰色低地土で2年、その他土壌では4~5年

今後の展開

●ここで説明したのは、基本的な指針についてであり、品種や土壌条件が異なる実際の圃場では、微妙な修正を加えると、より適用しやすくなります。
●今後、この基本指針を基に、各地域に適用したリン酸減肥指針が作られるものと考えられます。

執筆者
新良力也
農研機構 中央農業総合研究センター 土壌肥料研究領域

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