地域に適応した良食味品種
(2014年 6月 一部改訂)
はじめに
●現在、炊飯米の粘りが強いコシヒカリ系品種に作付けが集中しています。
●日本人が中食・外食産業で消費する米は、2020年には全体の3割まで増えており、このような食品産業においても、さまざまな良食味品種が求められています。
●品種の食味を決める粘りや硬さなどの炊飯物性は、アミロースやタンパク質などの成分含有率が大きく影響しますが、カレー、寿司、おにぎり、冷凍食品といった用途により、求められる食味は異なります。
●ここでは、現在栽培されている良食味品種の紹介を中心に、多収や高温耐性等の特性を持つ次世代型良食味品種について紹介します。
コシヒカリ系品種
●令和元年の水稲作付上位10品種は表のとおりです。
●日本で作付けされる品種の多くは、「コシヒカリ」の良食味を受け継ぐコシヒカリ系品種がほとんどです。
注)公益社団法人米穀安定供給確保支援機構のデータを基に作成。
赤字品種は「コシヒカリ」もしくは「コシヒカリ」から育成された品種・系統を示す。
●ほかにも、山形県の「つや姫」、新潟県の「こしいぶき」、福岡県の「夢つくし」など、各県で育成されたブランド品種のほとんどはコシヒカリ系品種となっています。
作付上位のコシヒカリ系品種
「東北以西向き」
◆あきたこまち
●東北における代表的な良食味品種で、秋田県で特に多く栽培されています。
●秋田県における熟期は早生の晩です。
●稈長は中程度で、耐倒伏性はやや劣ります。
●耐冷性、いもち病抵抗性ともに中程度の品種です。
◆ひとめぼれ
●東北における代表的な良食味品種で、宮城県と岩手県で特に多く栽培されています。
●東北中部における熟期は中生の晩です。
●稈長はやや長く、倒伏しやすい品種です。
●耐冷性は極めて強く、いもち病抵抗性はやや弱く、穂発芽しにくいです。
◆はえぬき
●主産地である山形県のほか、香川県で栽培されています。
●山形県における熟期は中生の晩です。
●稈長は短く、耐倒伏性に優れます。
●耐冷性は極めて強く、いもち病抵抗性は中程度の品種です。
「東北南部、北陸以西向き」
◆コシヒカリ
●日本の代表的良食味品種で、全国作付面積の3分の1を占めます。
●関東・北陸での熟期は中生、西南暖地では極早生~早生です。
●稈長は長く、倒伏しやすい品種です。
●耐冷性は極めて強く、いもち病抵抗性は弱く、穂発芽しにくい品種です。
●適地を越えた過剰作付と登熟期の高温により、北陸、関東以西の平坦地などにおいて、品質の低下が近年問題となっています。
◆コシヒカリの同質遺伝子系統
●「コシヒカリ」は知名度が最も高い良食味品種ですが、(1)いもち病に弱い、(2)稈長が長く倒伏しやすいという2つの短所があります。
●このため、これらの形質のみを改良した「コシヒカリ」の同質遺伝子系統が育成され、普及しています。
●「コシヒカリ新潟BL」は、いもち病真性抵抗性以外の諸特性は「コシヒカリ」と同一であり、マルチライン(抵抗性の多系品種)として新潟県で栽培されています。
●「コシヒカリつくばSD1号、(商品名:恋しぐれ)」、「ヒカリ新世紀」などは、稈長が短く、倒伏しにくい「コシヒカリ」の同質遺伝子系統です。
●この他に、「コシヒカリ関東HD1号」、「関東HD2号」は、「コシヒカリ」をそれぞれ早生化、晩生化した同質遺伝子系統として育成されています。
「近畿以西向き」
◆ヒノヒカリ
●西日本における中晩生の代表的な良食味品種で、九州のほか、近畿、中国、四国の多くの府県で栽培されています。九州における熟期は中生です。
●稈長はやや長く、耐倒伏性は九州においてはやや劣ります。いもち病抵抗性はやや弱く、穂発芽しにくい品種です。
●近年の登熟期の高温により、九州および四国地域では品質の低下が問題となっています。
注目の良食味多収品種
「東北以南地域向け」
◆ちほみのり(あきたこまち熟期)
●「あきたこまち」よりも10%多収です。稈長は短くて直播にも適しており、直播では「あきたこまち」よりも20%以上多収となります。
●食味は「あきたこまち」並の良食味品種で、保温しても冷めても美味しさが持続します。
●玄米は粒が大きく、千粒重は「あきたこまち」よりも1g程度、重くなります。
●いもち病には強いですが、耐冷性は「あきたこまち」と同程度です。
左上 :まっしぐら(左)、ちほみのり(中)、あきたこまち(右)
(提供 農研機構 次世代作物開発研究センター)
右下 :ちほみのり(左)とあきたこまち(右)
(提供 農研機構 次世代作物開発研究センター)
◆つきあかり(あきたこまち熟期)
●「あきあたこまち」よりも10%多収です。短稈ですがなびきやすいため、湛水直播には適していません。
●食味は「コシヒカリ」並の極良食味で、保温しても美味しさが長く持続します。
●玄米は粒が大きく、千粒重は「あきたこまち」よりも2g程度、重くなります。
●いもち病、耐冷性ともに「あきたこまち」よりやや優れます。玄米には腹白が出やすいため、品質が低下しやすいことが弱点です。
左上 :あきたこまち(左)、つきあかり(中)、ひとめぼれ(右)
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
右下 :つきあかり(左)、あきたこまち(中)、ひとめぼれ(右)
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
◆しふくのみのり(ひとめぼれ熟期)
●標準施肥では「ひとめぼれ」と同等ですが、多肥では約20%多収です。直播にも適性を持ち、標肥直播栽培で10%、多肥直播栽培では30%程度「ひとめぼれ」よりも多収になります。
●食味は「ひとめぼれ」と同等の極良食味です。
●高温耐性は「ひとめぼれ」よりも優れており、玄米は品質良好で粒が大きく、千粒重は「ひとめぼれ」よりも1g程度、重くなります。
●いもち病は「ひとめぼれ」よりも強いですが、耐冷性はやや劣ります。縞葉枯病に抵抗性を持つため、北関東などの麦作地域でも作付が可能です。
左上 :ひとめぼれ(左)、しふくのみのり(中)、萌えみのり(右)
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
右下 :ひとめぼれ(左)としふくのみのり(右)
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
「関東以西向け」
◆にじのきらめき(コシヒカリ熟期)
●標準施肥では「コシヒカリ」よりも15%程度、多肥では約30%多収です。短稈で倒伏に強く、直播栽培も可能です。「コシヒカリ」を普及地域であればどこでも栽培できます。
●食味は「コシヒカリ」並の極良食味です。
●高温耐性に優れており、玄米品質は良好で粒が大きく、千粒重は「コシヒカリ」よりも2g程度重くなります。
●いもち病は中程度の抵抗性で、縞葉枯病に抵抗性を持つため、北関東などの麦作地域でも作付が可能です。
にじのきらめき(左)とコシヒカリ(右)の株、にじのきらめき(上)とコシヒカリ(下)
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
◆恋初めし(ヒノヒカリ熟期)
●「きぬむすめ」よりも20%程度多収で、「あきだわら」とほぼ同じ収量性を示します。耐倒伏性の問題から湛水直播には適していません。
●食味は「きぬむすめ」に近い良食味で、「あきだわら」よりも優れます。
●いもち病に強く、縞葉枯病に抵抗性を持ちます。
●玄米は粒が大きく、千粒重は「あきだわら」よりも3g程度、大きくなります。高温耐性にやや弱く、登熟期の高温で品質が低下しやすいのが弱点です。
左上 :きぬむすめ(左)と恋初めし(右)
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
右下 :きぬむすめ(左)と恋初めし(右)
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
粘りが少なく寿司に適した品種
「関東以西向け寿司用品種」
◆笑みの絆(コシヒカリ熟期)
●標準施肥では「コシヒカリ」とほぼ同等の収量性で、多肥栽培では「コシヒカリ」よりも10%程度多収です。
●食味は「コシヒカリ」は異なり、粘りが少なくあっさりしています。寿司飯としての評価は「ササニシキ」に優ります。
●いもち病には弱く、縞葉枯病にも感受性です。
●高温耐性に優れ、玄米の品質は良好です。玄米の粒は小さく、千粒重は「コシヒカリ」よりも1g程度、軽くなります。
左上 :笑みの絆(左)とコシヒカリ
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
右下 :笑みの絆(左)とコシヒカリ
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
低アミロース品種
●米のデンプンにはアミロースとアミロペクチンの2種類があり、アミロースが多くなるほど米は粘らなくなります。アミロースが少なくなるほど米は白濁し、アミロースが0%になるともち米になります。
●「コシヒカリ」などの良食味品種のアミロース含有率は18%程度です。アミロース含有率が15%以下で、糯(もち)と粳(うるち)の中間的な特性を持つ品種を低アミロース品種と呼んでいます。
●低アミロース品種はコシヒカリ系品種よりも粘りが強く、冷えても硬くなりにくいため、おにぎりなどに適しているとされています。
「関東以西向け」
◆ミルキークイーン(コシヒカリ熟期)
●「コシヒカリ」の突然変異から作り出された品種です。
●アミロース含有率は10%程度で、玄米は白く濁ることから「ミルキー」の名がつきました。
●特性は「コシヒカリ」と同じで、「コシヒカリ」を普及地域であればどこでも栽培できます。
●炊飯米は「コシヒカリ」よりも粘りが強く、柔らかくなります。
●「ミルキークイーン」とおなじ低アミロース遺伝子を持つ品種として、早生化した「ミルキーサマー」、晩生化した「ミルキーオータム」、縞葉枯病抵抗性で多収の「ミルキースター」なども育成されています。
左上 :ミルキークイーン(左)とミルキースター(右)
中 :ミルキークイーン
(提供 農研機構 次世代作物開発研究センター)
右下 :コシヒカリ
(提供 農研機構 次世代作物開発研究センター)
「西日本向け」
◆さとのつき(ヒノヒカリ熟期)
●「ミルキークイーン」と同じ低アミロース遺伝子を持ち、アミロース含有率は10%程度です。
●「ヒノヒカリ」よりも20%以上多収となる晩生品種です。
●炊飯米は「コシヒカリ」よりも粘りが強く、柔らかくなります。
●縞葉枯病には抵抗性を持ちます。いもち病の真性抵抗性を持つため、強さは不明です。「ヒノヒカリ」並の晩生ですので、西日本から九州低域に適しています。
左上 :さとのつき(左)とヒノヒカリ(右)
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
右下 :さとのつき(左)とヒノヒカリ(右)
(提供 :農研機構 次世代作物開発研究センター)
春原 嘉弘
農研機構 作物研究所 低コスト稲育種研究チーム
石井卓朗
農研機構 作物研究所 稲研究領域
前田英郎
農研機構 次世代作物開発研究センター 稲育種ユニット長
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