提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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米の自家販売 ~黒澤ファームの場合~

(2014年4月 一部改訂) 

はじめに

「生産者にとって自家販売とは」 
●農家による米の直接販売は、多様な可能性を持つ半面、誰もが成功するというわけでもない。
●「どのように販売していくか」を決めるのは、まず「自分の作っている米は、消費者・ユーザーにとってどのような価値を持つ米なのか」を知るところから始めなくてはならない。
●ここでは、それを把握することによって「直接販売」「ネット販売」「店委託」「口コミ」などで順調な販売につなげている生産者を紹介する。

美味しい米を追求し、高級米を求める顧客に販売している黒澤信彦さん 「黒澤ファームの概況」 
●山形県南陽市の黒澤ファーム・黒澤信彦さん。
●水田経営面積は15ha。
●品種は夢ごこち10ha、つや姫2.5ha、ミルキークイーン2ha、ヒメノモチ0.5ha。 
●香港への輸出販売も1割行っているが、これは減反にカウントされている。
●米以外では、さくらんぼ観光農園を50aほど手がけている。
 :美味しい米を追求し、高級米を求める顧客に販売している黒澤信彦さん

直売開始、やがて全量自家販売へ

「大凶作がもたらした全量自家販売」 
●直接販売を成功させるきっかけとなった「アピールポイント」は何であったか。
●平成3年に米の直売を開始、平成5年から特別栽培米の申請を行い、本格的な米販売をスタートさせた。
●その年は全国的な大凶作となったが、黒澤さんの山形県南地区(置賜地区)は、他地域よりは被害が少なく、黒澤さんの顧客は急増した。
●平成6年には、精米プラント・冷蔵庫設備を導入し、7年には米全量を自家販売するようになった。
●食糧法が施行される中、黒澤さんは今後の米販売を模索しながら、あちこちに足を運び情報収集に努めた。
●そこで出会ったのが、ミルキークイーン(左)と、夢ごこち(右)だった。

ミルキークイーン夢ごこち
 :ミルキークイーン...現在の独立行政法人「農研機構作物研究所」が育成した低アミロース米。商品パッケージには米食味分析鑑定コンクール優秀賞と記載 /
 :夢ごこち...当時は「あみろ17」として知られた三菱系の植物工学研究所が育成したアミロース値17%水準の品種。現在育成者権は(株)中島美雄商店が承継。商品パッケージには「第二回おいしい米づくり日本一大会減農薬部門最優秀賞」と記載 詳細はこちら


「山形県南の南陽市の米と言っても知名度はほとんどない。まずは、自分の作る米が全国水準で美味しいと判ってもらうために、品種・農法両面から美味しさを追求し、そこで出会ったのがミルキークイーンと夢ごこちでした。平成8年から栽培をスタートさせ、コシヒカリを超える相場だったこともあって、高価格ながら喜んでいただきました」

「アピールポイントは"受賞"」 
●その後、大きな転機となったのが平成12年。
●大潟村で開催された「第2回おいしい米づくり日本一大会」の減農薬部門で、黒澤さんの「夢ごこち」が最優秀賞を受賞。
●最終審査を行った料理評論家たちからも絶賛された。
●その結果(=受賞)を、自分の米のアピールポイントの一つとして、米袋でもチラシでも前面に掲げた。
●高級料理店への直接営業の際にも大きな力となり、帝国ホテルへの直接納入がスタート、次いでパークハイアット東京への直接納入も開始した。
●パークハイアット東京は高級ホテルだが、メインダイニングが『梢』という和食店で、しかも、そのメインディッシュは「釜炊きご飯」である。
●メインディッシュの米に採用されたことは、その後も黒澤さんの米販売に大きなプラスとなった。

美味しさを消費者に伝える

「どのように伝えるか」 
●米の自家販売を行う場合、当然誰もが「美味しい米」とアピールするわけだが、それをどのように表現するかが大きなポイントとなる。
●近年活用されているのが、黒澤さんのように「全国的な米食味コンクールで最優秀賞・金賞を受賞した米」というアピール方法だ。
●近年は、全国的な米食味コンクールも開かれており、「全国米食味分析鑑定コンクール」などが知られているが、そのような場所での実績をアピールすることは、個人農家だからこそできるアピールポイントといえる。
●このようなアピールで高級米ユーザーへの直接供給が始まると、それは口コミで広がっていくことにつながる。

「『梢』の料理長は、高級和食店出身の高名な料理人です。その料理長さん自身に黒澤の『夢ごこち』としてご評価いただいたため、その後、和食高級店の料理長さんたちに口コミで広がり、直接納入先が次々と広がりました。そして、その実績が別口の直接営業の際にも効いて、顧客拡大につながりました。自分は日本一美味しい米づくりを目標にしてきたので、販売ターゲットも『日本一美味しい米を使いたい店』を狙っていました。その意味で、コンクールでの最優秀賞は、いいきっかけになりました。その後も、ずっと購入していただいているので、こちらも、さらに美味しい米づくりを追求しています」

「ネット販売の成功も口コミと提携先から」 
2014_09ine14_image6.jpg●黒澤さんは、自身の「黒澤ファーム」のHPでネット販売を受け付けているほか、地域の有力稲作農家と組織する「南陽アスク」「山形おきたま七福会」のルートでも高級米の販路へ販売している。
●「テレビに出た時などは一挙に注文が集まるものの、基本的には反響は少ない」
●しかし、黒澤さんの米の実力を知る、地元のネットビジネス企業が企画した「楽天」でのネット販売は、順調な販売が継続できている。
●高級和食店からの口コミでスタートさせた「ぐるなび」での販売も、やはり順調に推移している。

「ホームページを作ってアピールしても、それだけでは無理ですよね。やはり、『価格は高くとも日本一美味しい米が欲しい』と考えている消費者が集まる場所に、推薦されて出すようでないと、なかなか継続的な販売はむつかしいと思います。自分の場合はそういう米を作りたいと考えて品種を選び、農法を考え、コンクールでの結果をアピールすることで、そのような米を求める顧客と出会い、喜んでいただいてきました。自分が売りたいターゲットを間違わないことが重要だと思います」

●香港への輸出も、料理人仲間の口コミによって「香港なだ萬」で使用したいと注文が入ったのがきっかけだった。
●香港の高級和食店に食材を卸している会社と出会ったことで、まとまった販売量を輸出することになった。
●高価格のまま販売は継続できており、その分が減反にカウントされているのだから、有効な販売ルートといえる。
●2014年からはシンガポールにも供給を開始。これは「なだ萬」の進出に合わせたものだったが、大手農機メーカーでもある(株)クボタがシンガポールの富裕層に向けて和食の食材を輸出するプロジェクトの中で「ぜひ黒澤さんの米を」とオファーしたことを受け、今後はシンガポールへの供給量が増える見通しだという。

「販売委託先を選ぶ」
東京の小売店スズノブ店頭に並ぶ黒澤さんの米は「ハチミツ農法米」としてアピールされている ●黒澤さんが米販売を委託している主な小売店は、2014年4月現在、東京・中目黒のスズノブと東京・銀座の高級店「AKOMEYA TOKYO」の2店のみ。
●どちらも高級米を扱うことで知られる小売店であり、ここでも黒澤さんは「売りたいターゲットを間違わない」ことに成功しているといえる。
●スズノブはマスコミでも広く知られた米屋さんで、多彩な米の食味・食感を正確に判断する職人肌の「米のソムリエ」として消費者から絶大な信頼を得ている。
●スズノブ本店に並ぶ黒澤さんの夢ごこちは、「ハチミツ農法米」として販売されている。
 :東京の小売店スズノブ店頭に並ぶ黒澤さんの米

●この農法について、黒澤ファームでは次のように表現している。

「稲の生長を助けるために、はちみつと海藻エキスを混ぜ合わせた栄養ドリンクを、稲の穂が出てから散布します。はちみつの糖は雑菌の繁殖を抑制し、海藻エキスは光合成を活発にして米の登熟を促進します。旨い米を生産するというより、健康な稲を育てれば美味しい旨い米になってくれると考えています。山形の気候と風土に育てられたお米を、真心込めてお届けします」

「宣伝チラシに工夫を」 
●黒澤ファームの宣伝チラシには、大きくわかりやすく「食味と農法」がアピールされている。
●食味については「品種のアピール」「コンクール最優秀賞受賞米」などが説明されており、わかりやすい美味しさの表現になっている。
●農法についても、上記のように「簡潔で判りやすい言葉で説明」している。
●発芽玄米の販売も行っており、チラシでこの発芽玄米の特徴がわかりやすく説明されている。
●「自分がターゲットと考えている客層にアピールすべきポイントを的確に伝えている宣伝チラシ」になっているといえる。
●米の由来をアピールしているのも特徴。 

黒澤ファームの商品宣伝チラシ
 :黒澤ファームの商品宣伝チラシ
 :黒澤さんたちは独自の加工システムにより『ミルキークイーンの発芽玄米』も商品化している


執筆者 
鶴田 裕
食糧ジャーナル編集部長((株)食糧問題研究所)

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