地域に適応した飼料用米の多収性品種
(2016年3月 一部改訂)
飼料用米の多収性品種とは
●国内の飼料自給率を高めるために、輸入濃厚飼料に代えて飼料用米の利用が進められています。
●飼料用米品種は、子実の多収性や栽培のしやすさによって、低コストで生産することができます。
●飼料として用いるイネには、ここで紹介する飼料用米品種に加えて、粗飼料としてのみ用いる、長稈で茎葉が多収な稲発酵粗飼料用(稲WCS用)品種もあります。
飼料用米品種
「飼料用米品種の特徴」
●多肥栽培条件で多収を達成するために、耐倒伏性や耐肥性が強い品種が育成されています。
●食用の炊飯米として利用しないので、炊飯したときの食味や玄米の粒大、玄米の外観品質は良食味米品種と異なります。
「飼料用米品種の栽培適地」
●飼料用米の多収品種として各地域に適する20品種以上が農研機構や青森県産業技術センターで育成されており、ほぼ全国で利用可能です。
●この他にも各県で育成した品種があり、育成した県では利用が可能です。
◆北海道向き品種「きたげんき」 (農研機構北海道農業研究センター育成)
●北海道での栽培に適する、多収の品種です。
●短稈で耐倒伏性に優れ、障害型耐冷性が強いです。
左上 :「ななつぼし」(左)と「きたげんき」(右)の草姿
右下 :「きたげんき」(左)と「ななつぼし」(右)の籾と玄米
(提供 :農研機構北海道農業研究センター)
◆北海道向き品種「北瑞穂」(農研機構北海道農業研究センター育成)
●北海道での栽培に適する、障害型耐冷性が強い多収品種です。
●耐倒伏性は強くないので、極多肥栽培や直播栽培には注意が必要です。
◆北海道向き品種「きたあおば」 (農研機構北海道農業研究センター育成)
●北海道での栽培に適する、多収の品種です。
●耐倒伏性は強くないので、極多肥栽培や直播栽培には注意が必要です。
左上 :「きたあおば」の草姿 / 右下 :「きたあおば」(左)と「きらら397」(右)の玄米と籾
(提供 :農研機構北海道農業研究センター)
◆北海道向き品種「たちじょうぶ」 (農研機構北海道農業研究センター育成)
●北海道での栽培に適する、多収の品種です。
●倒れにくく、いもち病に強いので栽培しやすく、飼料用米と稲WCS用の兼用品種として利用できます。
左上 :「たちじょうぶ」の草姿 / 右下 :「たちじょうぶ」(左)と「きらら397」(右)の籾と玄米
(提供 :農研機構北海道農業研究センター)
◆北東北及び中山間地向き品種「えみゆたか」 (青森県産業技術センター育成)
●障害型耐冷性が強く、いもち病にも強い品種です。
●玄米収量が多く、飼料用米に適します。
●耐倒伏性はやや強いですが、倒伏を避けるため極多肥栽培は避けてください。
左上 :「えみゆたか」の草姿 / 右 :「えみゆたか」(左)と「みなゆたか」(右)の籾と玄米
(提供 :(地独)青森県産業技術センター 農林総合研究所)
◆北東北及び中山間地向き品種「みなゆたか」 (青森県産業技術センター育成)
●障害型耐冷性が強く、低温年でも安定した玄米収量が期待できます。
●強稈で生育量が多い「ふゆげしき」に、障害型耐冷性が強く、多収の「ふ系186号」を交配して育成しました。
●玄米収量が多く、飼料用米に適します。
左上 :「みなゆたか」の草姿 / 右下 :「みなゆたか」(左)と「むつほまれ」(右)の籾と玄米
(提供 :(地独)青森県産業技術センター 農林総合研究所)
◆東北中部以南向き品種「べこごのみ」 (農研機構東北農業研究センター育成)
●安定して多収の「ふくひびき」と、穂が大きく多収の「97UK-46」の交配組合せから育成された、飼料用米と稲WCS用の兼用品種です。
●全国的にも東北地域でも早生で、基幹品種の「あきたこまち」よりも、早く収穫できます。
●耐倒伏性に優れ、直播栽培にも適しています。
左上 :「べこごのみ」の草姿 / 右下 :「べこごのみ」の玄米と籾
(提供 :農研機構東北農業研究センター)
◆東北中部以南向け品種「いわいだわら」(農研機構東北農業研究センター育成)
●大粒で多収の「奥羽飼394号」と多収の「奥羽飼395号(べこごのみ)」の交配組合せから育成された、大粒の多収品種です。
●多肥栽培で稈長が長くなりますが、茎が太いので倒れにくいです。
左上 :「いわいだわら」の草姿 / 右下 :「いわいだわら」(左)と「ふくひびき」(右)の籾と玄米
(提供 :農研機構東北農業研究センター)
◆東北中部以南向き品種「ふくひびき」 (農研機構東北農業研究センター育成)
●登熟の良い「コチヒビキ」と、籾数が多く草姿が良い「奥羽316号」の交配組合せから育成された、多収の日本型品種です。
●全国的には早生、東北地域では中生熟期で、倒れにくく直播栽培にも適します。
左上 :「ふくひびき」の草姿 / 右下 :「ふくひびき」の玄米と籾
(提供 :農研機構東北農業研究センター)
◆東北中部以南向き品種「べこあおば」 (農研機構東北農業研究センター育成)
●大粒の「オオチカラ」と多収の「西海203号」の交配組合せから育成された、大粒の多収品種です。
●飼料用米と稲WCS用の両方に適しています。
左上 :「べこあおば」の草姿 / 右下 :「べこあおば」(上)と「ひとめぼれ」(下)の穂
(提供 :農研機構東北農業研究センター)
◆東北南部以南向き品種「夢あおば」 (農研機構中央農業研究センター育成)
●北陸地域の主力品種である「コシヒカリ」より早く収穫でき、湛水直播栽培に適して倒れにくい品種です。
●縞葉枯病に対して抵抗性です。
左 :「夢あおば」(右)と「ふくひびき」(左)の草姿 (提供 :農研機構中央農業研究センター) / 右 :「夢あおば」(左)と「ふくひびき」(右)の玄米と籾 (提供 :農研機構中央農業研究センター)
◆東北南部以西向き品種「ゆめさかり」 (農研機構中央農業研究センター育成)
●大粒で玄米収量が多い品種です。
●いもち病抵抗性は、葉いもち、穂いもちとも"やや強"です。
「ゆめさかり」の草姿 (提供 :農研機構中央農業研究センター)
「ゆめさかり」(左)、「ひとめぼれ」(中)、「夢あおば」(右)の玄米
(提供 :農研機構中央農業研究センター)
◆関東以西向き品種「タカナリ」 (農研機構次世代作物開発研究センター育成)
●韓国の日印交雑品種同士の交配から育成された、極多収品種です。
●天候によって、脱粒しやすいこともあります。種子の休眠性が強いため、苗立ちが悪い時があります。
●縞葉枯病に対して抵抗性です。一部の除草剤に対して薬害を起こします。
左上 :「タカナリ」の草姿 / 右下 :「タカナリ」(左)と「日本晴」(右)の玄米と籾
(提供 :農研機構次世代作物開発研究センター)
◆関東以西向き品種「オオナリ」 (農研機構次世代作物開発研究センター育成)
●「タカナリ」の脱粒性を改善した品種で、脱粒性は中程度です。「タカナリ」よりも7%程度多収です。
●種子の休眠性が強いため、苗立ちが悪い時があります。
左上 :「オオナリ」の草姿 / 右下 :「オオナリ」(左)と「日本晴」(右)の籾と玄米
(提供 :農研機構次世代作物開発研究センター)
◆東北南部以西向き品種「ホシアオバ」 (農研機構西日本農業研究センター育成)
●多収系統「多収系174」を母、大粒の「オオチカラ」を父とした交配組合せから育成された品種です。
●米と茎葉の両方が多収で、地上部全体の収量は、一般食用米品種よりも15%程度多収です。
●縞葉枯病に対して抵抗性です。
左上 :「ホシアオバ」の草姿 / 右下 :「ホシアオバ」の籾と玄米
(提供 :農研機構西日本農業研究センター)
◆関東以西向き品種「みなちから」 (農研機構西日本農業研究センター育成)
●温暖地西部での栽培に適し、「ホシアオバ」より9%程度多収です。
●稈長が短く、耐倒伏性に優れます。
左上 :「ホシアオバ」(左)と「みなちから」(右)の草姿 / 右下 :「みなちから」(左)、「ホシアオバ」(中)、「ヒノヒカリ」(右)の籾と玄米
(提供 :農研機構西日本農業研究センター)
◆関東以西向き品種「もちだわら」 (農研機構次世代作物開発研究センター育成)
●玄米収量が高い糯(もち)品種です。
●天候によって脱粒しやすいこともあります。種子の休眠性が強いため、苗立ちが悪い時があります。
●縞葉枯病に対して抵抗性です。
左上 :「もちだわら」の草姿 / 右下 :「もちだわら」(右)、「おどろきもち」(中)、「日本晴」(左)の籾と玄米
(提供 :農研機構次世代作物開発研究センター)
◆北陸、関東以西向き品種「北陸193号」 (農研機構中央農業研究センター育成)
●優れた耐倒伏性と収量性を備えた品種です。
●韓国品種「水原258号」や中国品種「桂朝2号」など、海外の多収品種を素材にして開発されました。
●種子の休眠性が強いため、苗立ちが悪い時があります。縞葉枯病に対して抵抗性です。
左上 :「北陸193号」の草姿 / 右下 :「北陸193号」の穂と日本晴
(提供 :農研機構中央農業研究センター)
◆関東以西向き品種「モミロマン」 (農研機構次世代作物開発研究センター育成)
●国際稲研究所のNew plant type系統「IR65598-112-2」に、多収の「西海203号」を戻し交雑して育成された飼料用品種です。
●粗玄米収量と地上部全重収量に優れ、飼料用米と稲WCS用の兼用品種として利用できます。
●一部の除草剤に対して薬害を起こします。
左上 :「モミロマン」の草姿 / 右下 :「モミロマン」の籾と玄米とタカナリ、日本晴
(提供 :農研機構次世代作物開発研究センター)
◆関東以西向き品種「クサホナミ」 (農研機構次世代作物開発研究センター育成)
●茎葉と子実の両方が多収で、飼料用米と稲WCS用の両方に適する兼用品種です。
●長稈ですが稈質が強く、耐倒伏性に優れます。
●縞葉枯病に対して抵抗性です。
左上 :「クサホナミ」の草姿 / 右下 :「クサホナミ」の穂
(提供 :農研機構次世代作物開発研究センター)
◆関東以西向き品種「クサノホシ」 (農研機構西日本農業研究センター育成)
●多収の「多収系175」を母、「アケノホシ」を父とした交配組合せから育成された水稲品種です。
●地上部全重収量と玄米収量の両方が高く、飼料用米と稲WCS用の両方に利用可能です。
●縞葉枯病に対して抵抗性です。
左上 :「クサノホシ」の草姿 / 右下 :「クサノホシ」の籾と玄米
(提供 :農研機構西日本農業研究センター)
◆九州向き品種「まきみずほ」 (農研機構九州沖縄農業研究センター)
●出穂期は暖地の普通期栽培では「日本晴」や「ホシアオバ」に近い早稲種です。
●大粒で、玄米収量が多収です。
●縞葉枯病に対して抵抗性です。
左上 :「まきみずほ」の草姿 /右下 :「まきみずほ」(上)と「ヒノヒカリ」(下)の穂
(提供 :農研機構九州沖縄農業研究センター)
◆九州での普通栽培向き「ミズホチカラ」 (農研機構九州沖縄農業研究センター育成)
●暖地向きの子実多収型品種です。
●背丈が低いため倒伏には非常に強く、収量性は一般食用品種より約20%多収です。
●一部の除草剤に対して薬害を起こします。
左上 :「ミズホチカラ」の草姿 / 右下 :「ミズホチカラ」(左)と「ニシホマレ」(右)の玄米
(提供 :農研機構九州沖縄農業研究センター)
◆九州向き品種「モグモグあおば」 (農研機構九州沖縄農業研究センター)
●大粒で、玄米収量が多収です。
●耐倒伏性が強く、直播栽培にも適しています。
●縞葉枯病に対して抵抗性です。
左上 :「モグモグあおば」の草姿 /右下 :「日本晴」(左)、「モグモグあおば」(中)、「ホシアオバ」(右)の籾と玄米
(提供 :農研機構九州沖縄農業研究センター)
「栽培上の注意点」
●紹介した品種のうち、「タカナリ」、「オオナリ」、「みなちから」、「モミロマン」、「ミズホチカラ」の5品種は、一般食用品種に使用できる除草剤のうち、ベンゾビシクロン、メソトリオン、テフリルトリオンのどれか一つでも含む除草剤により、甚大な薬害を生じる恐れがあります。これらの品種を作付けする場合は、使用できる除草剤について、もよりの農業改良普及センターに確認してください。
●紹介した品種のうち、「きたあおば」(+)、「たちじょうぶ」(Pia,Pii)、「みなゆたか」(Pii)、「ゆめさかり」(Pia)を除く品種は、外国品種からいもち病抵抗性遺伝子を導入しています。これらの品種は栽培面積が広がると、その品種を特異的に加害するいもち病菌が増え、急に抵抗性を失うことがありますので、いもち病への反応の変化には注意が必要です。
●詳しくは、以下の資料を参考にしてください。
▼「多収品種に取り組むに当たって-多収品種の栽培マニュアル-」 (農林水産省)
▼「米とワラの多収を目指して2017」 (農研機構次世代作物開発研究センター)
加藤 浩
農研機構 作物研究所 低コスト稲育種研究チーム
一部加筆修正(2016年3月、2021年2月)
山口 誠之
農研機構 九州沖縄農業研究センター 水田作研究領域
(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)
◆米づくり関連の、その他の情報はこちらから