提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ

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直播による水稲栽培

(2020年10月 改訂)

直播栽培の意義

「直播栽培とは」 
●直播栽培とは、水田に育てた苗を植える従来の方法(移植栽培)に対し、水田に直接種をまいていく栽培方法です。 

「直播栽培の意義」 
●現在、日本の農業では、担い手の減少、高齢化に対応する新しい技術の開発が大きな課題となっています。
●稲作の労働時間は10a当たり30時間以内にまで減っていますが、育苗、田植作業がその4分の1を占めています。
●苗箱による移植栽培が大部分を占める中、直播栽培は、育苗、田植えの省略により稲作の大規模化・低コスト化・省力化のためのキーテクノロジーとして、特に有望視される技術です。

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湛水直播作業(多目的田植機を利用)

「水稲直播栽培の経営上のメリット」 
(1)省力・低コスト化

●育苗、移植作業が省略され、作業時間が短縮されます。
●これらの作業にかかる資材費・人件費が不要になります。
(2)作業の平準化 
●移植栽培では、春は育苗に関わる時間が多く、水稲以外の作物と作業が重なりがちですが、直播により、育苗作業が省略されて、労働ピーク時の作業が平準化されます。
●苗箱の取り扱いがないため、補助労力が削減され、作業の軽労化ができます。
(3)規模の拡大 
●移植栽培に対して作期幅を分散することができ、省力化と作期分散効果によって、さらに経営規模を拡大できます。
(4)経営の複合化 
●直播栽培導入によって水稲以外の作目の面積を拡大しやすくなり、この時期の複合部門(ムギ、ダイズなど畑作物や野菜、果樹、畜産など)の作業をより強化しやすくなります。

播種様式

「湛水直播と乾田直播」 
●直播は、播種前の入水の有無によって、湛水直播と乾田直播に大別することができます(表1)

表1 水稲直播栽培の基本類型(農研機構センター1997)
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●湛水直播は主に播種前の代かきを行う栽培様式です。
●乾田直播は、乾田状態で播種し、3~4葉期頃まで畑状態でおき、その後湛水する栽培様式です。

「使用する播種機」
●湛水直播は、その播種様式によって「散播」、「条播」、「点播」に分類することができます。
●「散播」は、種子のばら播きを行う様式で、動力散布機やラジコンヘリ利用による直播です。
●「条播」は、条間を一定にして播種を行う様式で、湛水直播による条播機。あるいは乾田直播によるグレーンドリル(東北農研センター方式)、および不耕起V溝直播機(愛知方式)利用による直播です。
●「点播」は、条間・株間を一定として一箇所に数粒をまとめて播種する様式で、一部メーカーの多目的田植え機を利用した播種機では、点播状に播種することが可能です。

「倒伏と播種様式」 
●直播栽培での減収の主要因は登熟期間中の倒伏で、散播で最も生じやすく、条播や点播では比較的発生しにくいです。
●そのため、近年の湛水直播の栽培面積は、点播、条播によって増加しています。

出芽・苗立ちの向上

「出芽の確保」 
●水稲種子は、他の作物に比べて嫌気条件(酸素が少ないか、無い状態)でも発芽できますが、湛水した土壌中に播かれると、著しく出芽(鞘葉が地上表面に出現すること)が阻害されます。
●そのため、従来は土壌表面近くに播種を行い、発芽後に一時落水して幼芽・幼根の伸長を促し、浮き苗・転び苗の割合を減らす「芽干し」という作業が行われていました。
●現在では、播種方法にあわせて複数の種子コーティング技術が開発されています。土壌表面近くに播種する鉄コーティング(※1)、土中播種するカルパーコーティング(※2)およびべんモリコーティング(※3)などです。
●これらの技術と播種後の落水管理を併用することにより、出芽・苗立ちがより向上します。

※1 鉄コーティング法
鉄コーティング法は、鉄の重みを利用した技術です。
表面播き出芽での有利性、鉄の重みによる定着しやすさを利用し、鳥害も軽減することができます。

※2 カルパーコーティング法
過酸化カルシウム剤(カルパー粉粒剤16)の種子コーティングが有効です。
カルパーは、湛水条件で酸素を発生して、出芽・苗立ちを向上させます。

※3 べんモリコーティング法
べんモリ資材はべんがら、モリブデン化合物、ポリビニルアルコールの混合物です。
べんモリ資材は土壌還元にともなう硫化物イオンの生成を抑制して、土中播種した種子の出芽向上を図ります。

※1※2の詳しい内容は、「水稲直播栽培の実際」を参照ください。

「播種後落水管理法」 
●播種後落水管理(目安として播種後7~10日間の落水)を基本とします(図1)。 

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図1 カルパーコーティング種子播種後の湛水管理と落水管理の違い
 

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図2 鉄コーティング種子播種後の落水管理 (クボタ農業機械ホームページ 快適農作業の提案 鉄コーティング水稲直播栽培 より抜粋)

●長期の落水は鳥害に遭いやすく、除草のタイミングを逸しやすいので、出芽揃い期に入水すると良いでしょう。
●現在、播種同時のタイミングで除草剤散布が可能となっています。
●播種同時または播種直後の初期剤散布を行う場合は、播種後7日程度の湛水、その後7日程度の落水を行って出芽を促進しつつ、転び苗の発生を防ぎます。
●播種後落水によって、土壌の通気性が向上して土壌の還元程度が緩和され、出芽から苗立ちの期間が短縮されて最終的な苗立ち率が向上します。

執筆者
古畑昌巳
農研機構 東北農業研究センター 水田作研究領域

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