水稲直播栽培の実際
(2014年2月 一部改訂)
種子の処理
「鉄コーティング」
●鉄コーティング種子の作成には、消毒後に積算温度で60℃の期間を目安として(15℃~20℃で3~4日)浸種した種子、もしくは活性化種子(浸種した種子を乾燥させた種子)を用います。
鉄コーティング種子(左側:コーティング直後、右側:酸化後)
●まず、コーティングする量を決めます。乾籾重の0.5倍量が標準です。
●コーティング量が少なければより低コストですが、鳥害にあうリスクも高まるため、鳥害程度を見ながら減量していった方が良いでしょう。
●次に、コーティングする量に対して還元鉄粉90%と焼石膏10%を混ぜた資材を準備します。
●浸種種子は、市販のコーティング機にそのまま投入して構いません。
●活性化種子は、そのままだと資材の付きが良くないため、水に数分つけて表面を水になじませた後に脱水して、投入します。
●機械を回しながら、鉄資材とスプレーによる水を交互に投入して、すべての鉄資材を投入し終わり均一な状態になるまで機械を回転させます。
●種子は、回収後、苗箱等に薄く広げて放熱・乾燥させ、種子を乾固させます。
●その後、種子は錆色となりますが、播種まで苗箱に入れておきます。
●鉄コーティングでは、コーティング後に乾固させる過程で集積すると、短時間で急速な発熱にともなって発芽率が低下するため、コーティング後の放熱の仕方に注意します。
「カルパーコーティング」
●カルパーコーティング種子の作成には、消毒後に、浸漬・催芽(鳩胸程度に止める)させた種子を用います。
カルパーコーティング種子
●脱水した後、過酸化カルシウム剤(商品名 カルパー粉粒剤16)を、以下の要領で乾籾重の等倍量、あるいは2倍量コーティングします。
●種子を機械に投入後、機械を回しながら過酸化カルシウム剤とスプレーによる水を交互に投入して、全ての過酸化カルシウム剤を投入し終わり、均一な状態になるまで、機械を回転させます。
●回収した種子を一旦陰干しした後に、袋詰めします。長期(コーティング後数日以上2週間以内)保管する場合は、密封して10℃以下の暗所に保管します。
「べんモリコーティング」
●種子の準備は、カルパーコーティングと同様です。
べんモリ種子
●コーティング量は乾籾重の0.3倍です。
●種子を機械に投入後、機械を回しながらべんモリ資材とスプレーによる水を交互に投入して、全てのべんモリ資材を投入し終わるまで、機械を回転させます。
●コーティングが終わったら、種子を広げて乾燥させます。
●表面が乾いたら、通気性のある袋に入れて、播種まで冷暗所で保管します。
播種作業
<湛水直播>
「動力散布機またはヘリによる播種」
●主に「湛水直播」の「散播」様式に含まれます。
●コストの面から、背負い敷動力散布機では小~中面積向き、ラジコンヘリでは大面積向きの技術と言えます。
●長所は播種作業が省力的であり、播種深度が浅いため苗立ちを確保しやすいことです。
●短所としては、播種ムラが出やすく、播種深度が浅いために倒伏しやすいことです。
●どちらの対応も、播種後数日間は落水状態を保って田面を固め、種子の土中への定着と発根を促します。
●苗立ち数が多くなりやすいため、過繁茂となった場合、生育後半の生育が凋落して穂数を確保しにくく、倒伏も発生しやすくなります。
●そのため、適正苗立ち数(50~100本/㎡)を確保できるのであれば、播種量は3kg/10a程度まで減量して、施肥量も控えめとした方が良いです。
「条播機による播種」
●湛水直播は、散播に比べて耐倒伏性を確保しやすいため、導入が進んでいます。
●作溝器で播種溝を切り、溝内にカルパー種子を落下させた後に覆土する方式が主流です。
●多目的田植え機を利用した、作溝、播種後に覆土を行わない方式もあります。
●どちらの方法でも、播種後数日間は落水状態を保って田面を固め、種子の土中への定着と発根を促します。
「多目的田植え機利用による表面点播」
●一部のメーカーでは、多目的田植え機に播種ユニットを装着することにより、この播種様式を選択することができます。
●表面に点播状に播種することにより、株が形成しやすくなることから、耐倒伏性が強まりイネの倒伏を抑えることができるようになります。
鉄コーティング播種機による播種作業(提供 :全国農業システム化研究会)
<乾田直播>
「不耕起V溝播種機による播種」
●この播種機を利用した栽培方式では、冬季に代かきを行う、もしくは播種前に浅耕鎮圧を行うことによって、圃場の凹凸を解消して播種機の作溝・播種精度を高めます。
●播種時には、そろばん玉状の作溝輪で播種溝を作り、そこに施肥および播種を行い、覆土チェーンによって簡易な覆土を行います。
●この方式の長所は、播種深が5cm程度と深く土壌が硬いため、耐倒伏性は強く、収穫時の地耐力確保のための中干しや出穂後の早期落水は不要であることです。
「グレーンドリルによる播種」
●大規模畑作で利用されているプラウ、播種機であるグレーンドリル、砕土、鎮圧、整地で使われるケンブリッジローラー等の大型機械を導入して、水田に汎用利用します。
グレーンドリルによるによる播種作業(提供 :全国農業システム化研究会)
●プラウ耕による深耕、鎮圧によって苗立ちを安定させ、圃場漏水を抑制すると同時に、高速作業が可能となるため、大規模営農向けの技術と言えます。
問題点と対策
「問題点」
●湛水直播では、雑草防除,鳥害、一部でスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)による食害等の問題点があります。
●乾田直播では、圃場の漏水対策、雑草防除、苗立ちの安定化技術などの問題点があります。
「雑草対策」
●直播栽培では、移植栽培に比べて雑草がイネに先行して生育するため、除草剤散布では、イネに対する安全性(薬害回避)と除草効果が移植栽培以上に必要です。
●湛水直播では、生育したノビエ防除に有効な薬剤(湛水状態で4葉期まで有効)、SU剤抵抗性雑草に有効な薬剤、播種同時散布できる薬剤などの実用化によって、除草効果は高まっています。
●一般には、播種後7~10日程度の落水管理、再入水後に一発剤を散布する体系が基本です。
●鉄コーティング直播栽培で示されている、播種同時もしくは播種直後に除草剤散布を行い、播種後7日程度の湛水、その後に7日程度落水して出芽を促進して転び苗を防ぐ体系もありますが、寒冷地では苗立ち確保がやや劣ります。
●乾田直播では、一般には、出芽前に非選択性接触型除草剤を散布し、入水前に選択性接触型除草剤(クリンチャーバスME液剤など)を散布して、入水後に初中期一発剤を散布する体系が基本です。
「スクミリンゴガイ対策」
●九州を中心に暖地では、圃場に生息するスクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)が播種後の幼植物を加害するため、移植に比べて被害が出やすく、湛水直播栽培普及の妨げとなっています。
左上 :スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ) / 右下 :スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の卵
●被害の回避には、田畑輪換や、耕耘による貝の破砕などによって、播種時の貝密度を低減させること、また播種後落水によって貝の移動を制限して被害程度を軽減することが有効です。
●殺虫剤ではメタアルデヒドを主成分とする薬剤(スクミノン等)で大きなに効果があります。
●石灰窒素にも殺貝効果はありますが、薬害が出るため、栽培期間中には使用できません。
●石灰窒素を利用する場合には、耕起後に湛水して代かきを行い、石灰窒素散布後に3~4日湛水状態としてから播種を行います。
「鳥害対策」
●鳥害の完全防除は困難です。
●基本的には、加害する鳥類を把握し、生息域から離れた圃場で直播を行うことが大切です。
●爆音機やテグスなどの設置も、鳥が慣れるまでの短期間であれば有効です。
<湛水直播>
●カルガモは、水中の餌をくちばしで探って食べます。そのため、播種後落水、浅水管理が有効です。
●スズメ対策として、種子が土壌表面に露出しやすい表面散播よりも、露出しにくい条播もしくは点播が望ましく、被害を軽減するために出芽揃い後に入水することが有効です。
<乾田直播>
●スズメ、ハト類とカラスは、視覚によって餌を探して食べるので、一般に、覆土による隠蔽が有効です。
●不耕起V溝直播では、冬季代かきによる整地作業後に乾燥して堅くなった圃場にV字型に溝が作られ、3~5cmの深さに種子が播種されます。よって、鳥害を回避することができます。
古畑昌巳
農研機構 東北農業研究センター 水田作研究領域
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