機械移植栽培
田植機の歴史
「根洗い苗からマット苗へ」
●田植機が開発される以前は、水稲の苗は苗代で25~30cmの大きさまで育苗され、田植えの前に苗代から抜き取られ、根を水で洗われ、数百本程度の大きさに束ねられていました。これを「根洗い苗」と呼びます。
●この苗を手で植える、いわゆる「田植え」が、平安時代の昔から繰り返されて来ました。
●田植機開発の歴史を振り返ると、根洗い苗を機械で植えるのは難しいため、紐苗や帯苗を経てマット苗が開発されました。
●現在は、マット苗が主流になっていますが、田植機の開発と歩みを揃えて開発されたマット苗の歴史は、まだ40年ほどです。
「歩行型人力田植機から乗用型動力田植機へ」
●日本における田植機の開発の始まりは明治時代です。最初に普及した田植機は、帯苗を用いた歩行型人力田植機(1条植え)でした。
●その後、改良が加え続けられ、現在は乗用型の動力田植機(3~10条植え)が主流になっています。
●機械移植栽培では一般にマット苗を用いますが、マット苗の大きさは、縦58cm、横28cmで、これを植付け爪で小さくブロック状に切って植付けます。
●1ブロック当たりの苗の数を「1株植付け本数」、単位面積当たりの株の数を「栽植密度」と呼びます。
左上 :日本で最初に実用機として普及した人力田植機「カンリウ農研号」(和田一雄著「田植えの技術史」より引用)
右下 :現在普及している8条乗用型動力田植機
栽植密度の重要性
「苗は少な目を心がける」
●田植機の条間は北海道では33cm、北海道以外では30cmと決まっているので、株間を変えることで栽植密度を変えることができます。
●水稲は、気候、土壌条件、品種、栽培方法などにより分げつの増え方が違うので、栽植密度は、基本的には、それらを考慮して変える必要があります。
●水稲には、株間が広ければ分げつが多くなる、株間が狭ければ分げつが少なくなるといった補償作用があるので、あまり神経質になる必要はありません。
●平均的な株間は15~18cmで、この場合の栽植密度は、1㎡当たり18~22株となります。
●一般に栽植密度は、寒冷地では多く、温暖地では少なくします。
●最近、省力・低コスト栽培に対応する技術として、株間を大きく開ける「疎植栽培」が普及し始めており、これに対応した田植機も販売されています。
●温暖地での試験では、株間が18cmと30cmの場合の収量には、大差がないという報告もあります。
●苗箱の数を半減できる疎植栽培の技術は、簡単に実行できる省力・低コスト技術として期待されます。
疎植の田植え直後
「1株植付け本数は3~4本にする」
●1株植付け本数は水稲の生育、収量、品質に影響を与えます。
●1株植付け本数は、寒冷地では多く、温暖地では少なくすることが原則です。
●欠株が出ないように、1株7~8本植えつけると、過剰分げつになります。最大分げつ数に対する穂数の割合、いわゆる有効茎歩合が低下する「過繁茂状態」となり、病虫害発生の誘因となるなど、健康な稲作りとは言えなくなります。
●欠株は見た目として気になりますが、2~3%の欠株は、収量には影響を与えないので、1株3~4程度の植付け本数を目標にします。
●麦ワラなどの前作残渣が大量にすき込まれた水田では、水温の上昇に伴って分解が進んで窒素飢餓状態となり、田の中を歩くとガスが発生するようになります。軟弱な苗では活着不良を起こし、枯死することあるので、植付け本数を多くします。
点播水稲の生育の様子。旺盛な分げつが発生する暖地の直播栽培ではこのように条間、株間の両方を30cmにしても収量が下がることはない(九州沖縄農業研究センター提供)
田坂 幸平
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 九州沖縄農業研究センター
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