米の貯蔵
米の品質保持と低温貯蔵
●米は水分含量が低く、野菜果実に比べて、比較的長く保存できますが、それでも、保管貯蔵中に古米化が進みます。
●低温で保管することで、古米化(品質劣化)を抑えることができます。
●低温倉庫では、温度15℃以下、湿度70~75%での保管が一般的です。
●わが国では、従来、生産地では籾の常温保管、消費地では玄米の低温保管がふつうにおこなわれてきましたが、最近の消費者の良食味志向を受けて、産地でも低温保管が増えています。
●低温倉庫から出庫の際、開放状態で急に高温高湿になると米の表面に霜や露がつくので注意が必要です。密封で保管するか、段階的に常温に戻すようにしましょう。
上川RT6(提供 :上川ライスターミナル)
「米の品質劣化」
●米は稲の種子です。籾や玄米は、貯蔵中にも呼吸していて、成分を消耗するとともに、各種の酵素反応や化学反応が進むと、米自体の鮮度が次第に落ちていきます。
●温度や湿度が高いと、米の劣化はより早く進んで、穀温や水分含量が増えてしまいます。その結果、米のデンプンやタンパク質のほか、甘みや旨みの成分なども消耗してしまいます。
●さらに、微生物による汚染、害虫やネズミ等による食害などもあります。
「品質劣化の要因」
●米保管中の品質劣化の詳細な要因には、生物的、化学的および物理的変化によるものがあります。
<生物的要因>
●生物的要因には、発芽率の減少、酵素の活性低下、細胞壁の硬化などがあります。
<化学的要因>
●化学的要因には、酵素作用によるデンプン、タンパク質、脂質などの成分分解があげられます。
●古米臭の原因となるのが、脂質の分解物質である遊離脂肪酸の酸化分解です。
●一方、デンプンが分解されて還元糖が増えることで、米の甘味が増すともいわれています。酵素活性の低下により、糊化最高粘度などは新米より古米の方が高くなります。
精米粉を用いたラビットビスコアナライザーによる物性の測定
(提供:農研機構食品研究部門食品加工流通研究領域)
<物理的要因>
●物理的変化には、外観の光沢や白度の減少、砕米が増えやすくなるなどの精米特性の低下、適正な炊飯に必要な精米の吸水性低下や精米粉の糊化特性の変化、米飯の光沢、粘りや弾性などの低下があります。最近、糊化特性から脂肪酸度を推定する技術も開発されています。
米粒の硬さと粘りを測定する、テンシプレッサー
(提供 :農研機構食品研究部門食品加工流通研究領域)
低温保管の利点
●米の低温保管には、常温貯蔵に比べて次のような利点があります。
●米の呼吸が抑制されるので、古米化が遅くなります。
●かびや害虫の繁殖が防止されて、くん蒸が不要になります。
●保管中の目減りが少なくなります。
新しい低温貯蔵技術
●低温か常温、籾か玄米かで、貯蔵時の米の変化を比べると、低温籾貯蔵、低温玄米貯蔵、常温籾貯蔵、常温玄米貯蔵の順に貯蔵中の変化(米飯物性等)が少ないことが知られています。
●「窒素置換包装」「脱酸素剤封入包装」「冬眠密着包装」などを低温貯蔵と組み合わせると、より効果が出ます。
●貯蔵中の変化は、品種によっても異なります。コシヒカリとその後代系統は貯蔵中の変化が少ないとされています。
●蒸気処理や湿熱処理などによって米の酵素を失活させると、貯蔵中の変化を抑制することができます。
「氷点下での籾貯蔵技術」
●氷温貯蔵では、氷点下以下、かつ対象食品素材が凍結しない温度で貯蔵します。対象食品素材の品質を保ち、あるいは改善することもあります。
●氷温貯蔵と、冬季通風冷却による籾の貯蔵を比較試験した結果、氷点下での米の冷却保管によって、米の呼吸や生理活性が抑えられ、品質を保つことができることがわかっています。
●貯蔵中に殺虫剤等もいりません。
●雪室貯蔵では、保管コストも低くなります。
雪蔵工房外観(零温玄米貯蔵施設)
左上 :雪蔵工房内の保管の様子 / 右下 :雪を貯雪庫に入れる様子(3枚ともに提供 :JAびばい)
生産農家及び家庭での貯蔵
「生産農家における貯蔵」
●農家では、籾のまま土蔵で保蔵することがあります。
●籾貯蔵と玄米貯蔵では、籾貯蔵の方がやや品質を保持しやすいといわれています。
●コクゾウムシのような害虫やカビのような微生物による品質低下は、籾貯蔵の方が、防ぎやすいといわれます。
「家庭における貯蔵」
●家庭では、玄米で保蔵し、炊飯する直前に精米するという方法もあります。
●精米で貯蔵する場合に比べて、玄米で貯蔵する方が品質劣化は進みません。
●精米後はなるべく早く炊飯しましょう。
●家庭では、温度と湿度が低く、直射日光の当たらないところで保管しましょう。
●台所では、調理や冷蔵庫によって温度が高くなる、水を使うので湿度が高くなるなどの理由から、米の保蔵・保管場所には適しません。
●台所でも、床下収納庫のように温度や湿度が低く保たれるところは、むしろ米の貯蔵に向いています。
●温度が低く、風通しの良いところで保蔵すれば、冷蔵庫でなくても米の品質変化はあまり進みません。
●米の水分含量が13~16%と低く、もともと貯蔵性に優れているからと言えます。
「冷蔵庫での貯蔵」
●保存中の温度変化を避けるため、冷蔵庫での保蔵が勧められています。
●ただし、冷蔵庫内は湿度が低いので、開封した精米をそのまま保蔵すると、米が割れてしまう場合があります。
●割れた米を炊飯すると、外観が悪いだけでなく、弾力のない飯になるので注意します。
●厚手のタッパーなど、密封性の高い容器での冷蔵庫保管がお勧めです。
●米の水分含量が16%を超えるとかびが生える恐れがあります。野菜室のような、比較的湿度の高い場所での保管は注意が必要です。
「精米後の貯蔵期間」
●貯蔵条件によって異なりますが、一般に、夏季で約3週間、冬季で約2カ月は、さほど食味劣化しないと言われています。
●ただし、冬季でも空調の効いている部屋では古米化が進みやすいので、注意が必要です。
執筆者
大坪 研一
新潟薬科大学応用生命科学部
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