提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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農作業便利帖


稲の病害防除

(2014年5月 一部改訂) 

育苗時に発生する病害と対策

「育苗時の病害」
●稲の箱育苗では、育苗時に種子伝染性のいもち病、ばか苗病、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病などと、土壌伝染性の苗立枯病※1、ムレ苗などが発生することがあります。
●育苗期に感染・発病した苗をそのまま本田に植え込むと、伝染源となり、本田での病害の発生を助長してしまいます。
●育苗時に発生する病害への一番の対策は、「発生させない」ことです。 

※1ピシウム属菌、リゾプス属菌、ムコール属菌、トリコデルマ属菌、リゾクトニア属菌、白絹病菌およびホーマ属菌などによっておこります。

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苗いもちの病斑。不完全葉()と葉身(

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ばか苗病

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 :もみ枯細菌病 /  :ピシウム属菌による苗立枯病

「発生させないための対策」
●育苗箱等を十分に消毒、洗浄します。塩水選した健全な種子を使い、きちんと種子消毒をします。傷もみは除きます。厚播しないようにして、十分に覆土をします。
●土壌の酸度は、pH5程度が適当です。
●土壌が過湿、過乾燥にならないようにします。
●温度は、極端な高温や低温にならないよう気をつけます。
●被害わら、モミなどもいもち病などの伝染源となるので、育苗ハウスに放置しないで撤去します。
●浸種、催芽、出芽時の高温が、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病を発生しやすくするので、温度に注意します。
●プール育苗は、もみ枯細菌病、苗立枯細菌病が発生しにくくなる効果があります。 
●苗立枯病などの予防には、育苗箱に薬剤を施用(土壌混和、かん注など)します。
●種子伝染性病害で薬剤耐性菌の発生している地域では、発生分布に注意して防除薬剤を選びます。
●いもち病は急激に広まります。発生したら、直ちに薬剤を散布しましょう。

いもち病

「症状」
●いもち病はカビの一種によって起こる病気で、多湿な我が国では、稲作期間中、最も恐ろしい病気です。 
●発生する時期、部分により「苗いもち」、「葉いもち」、「穂いもち」、「節いもち」などとよばれています。
●葉いもちが多発すると、イネが「ズリコミ」とよばれる萎縮症状を示し、ひどい場合は枯死します。

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 :葉いもち /  :穂いもち

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ズリコミ症状

「対策」
●いもち病の対策には、種子伝染と伝染源の除去が重要です。
●いもち病は種子伝染し、被害わら、もみも第一伝染源となります。
●前項の「発生させないための対策」で述べたように、種子伝染や伝染源除去をしっかり行いましょう。
●補植用苗は密稙状態のため、種子伝染や外部からの胞子がつきやすく、いもち病が発生すると地域での大きな伝染源になってしまうので、早めに除去します。

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補植用苗でのいもち病の発生

「薬剤による防除」
●薬剤による防除には、育苗箱施用、水面施用、茎葉散布などがあります。

●育苗箱施用では、水面施用より薬効が低下する時期が早くなります。
●葉いもちの発生状況をみながら、葉いもちの発生後期や穂いもちの追加防除をします。
●育苗箱施用剤を主に一部の薬剤では、病原菌の薬剤耐性菌が広く分布しています。
●耐性菌の分布状況に注意して、効果のある薬剤を選びましょう。
●成分が同一系統の薬剤を連用しないようにします。

●水面施用は普通、葉いもちでは初発7日~10日前、穂いもちでは出穂10~20日前に行います。
●遅れて施用したり、施用後、湛水が不十分だと、十分な防除効果がえられません。

●茎葉散布剤は散布時期(葉いもち:発生初期から;穂いもち:穂ばらみ、穂揃い期)に注意し、多発時には追加散布をします。

「耕種的防除」
●イネ品種のいもち病に対する抵抗性には、一般に、いもち病菌のレース(一種の系統)で抵抗性が変わる質的な真性抵抗性と、そうでない量的な圃場抵抗性があります。
●品種抵抗性をうまく使えば、農薬の散布回数を減らすことができます。
●ケイ酸質資材を施用すると、一般にイネの抵抗性が高まり、いもち病の発生が抑制されます。
●窒素質肥料や堆肥の過剰な施用、冷水の掛け流しは、イネのいもち病への感受性を高め、発生をふやしてしまいます。
●転換畑後の復元田では多肥状態になっていることが多いので、過剰な施肥は避けましょう。

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いもち病が多発生した圃場

薬剤等による病害防除

「環境への負荷低減と防除」
●薬剤によるイネの病害防除では、省力的で、環境への負荷が少なく、廉価で、対象以外の作物への農薬の飛散(ドリフト)の少ない方法が求められています。
●稲作農家の高齢化、ポジティブリスト制度(※)の施行、米価の下落などがその理由です。

ポジティブリスト制度 残留基準が設定されていない農薬等が一定量以上含まれる食品の流通を原則禁止する制度のこと

●これらの要望に対応して、近年、育苗箱施用、水面施用、無人ヘリによる散布、側条施用等の薬剤の施用、温湯処理や生物農薬による種子消毒などによる病害の防除が増えています。
●農薬は登録内容を守り、周囲に飛散しないように施用しましょう。
●農薬は剤型により、大きく粉剤、粒剤、乳・液剤、水和剤に分けられます。

「種子消毒」
●種子消毒には、化学合成農薬による方法と、よらない方法があります。
●化学合成農薬よる消毒には、浸漬(低濃度長時間、高濃度短時間)処理、粉衣処理および大量の消毒などには吹き付け、塗布処理などがあります。
●化学合成農薬によらない消毒には、温湯浸漬(乾燥種子の60℃10分間浸漬など)、生物農薬(湿粉衣、浸漬)などがあります。
●化学合成農薬によらない種子消毒では、きちんと処理がされていないと、防除効果が劣ることもあり、注意が必要です。

「育苗箱施用」
●覆土・床土混和、液剤かん注、粒剤散布などの施用法があります。
●長期持続型剤では、本田での薬効が水面施用より早く低下するので、注意します。

「側条施用」
●側条肥料に混ぜ込み、側条施肥田植機を使って施用します。

「水面施用(粒剤、パック剤)」
●手まき、人力散粒機、背負式動力散布機、管理機搭載散粒機、無人へリ等で施用します。
●農薬が圃場外に流出しないように、施用後の湛水に注意します。

「茎葉散布」
●粉剤は、背負式動力散布機、畦畔散布機等で施用します。
●液剤は、背負式動力散布機、可搬形動力散布機、ブームスプレーヤー、無人ヘリ、有人ヘリ等で施用します。

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育苗箱施用

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パック剤(提供:愛知県農業総合試験場 加藤順久)

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無人へリによる薬剤散布

その他の病害の防除

「紋枯病」
●第一次伝染源は、前年の病斑上などに形成された病原菌の菌核です。
●前年に多発した圃場では、次年も本病が多発する可能性があります。
●葉鞘に淡褐色、周囲褐色の病斑を形成し、発生がひどい時には、葉にも病斑をつくります。
●発生したイネは、倒伏しやすくなります。
●分げつ期から穂ばらみ期までは水平方向に、幼穂形成期から登熟後期までは垂直方向に、病気がすすみます。
●高温・多湿だと、より早く広がります。
●早生品種、畦はん際・水尻、多肥条件下で多く発生します。
●育苗箱施用、水面施用、茎葉散布で防除しましょう。
●水面施用は、通常、出穂20~30日前に施用します。
●茎葉散布は、穂ばらみ期から出穂期に一回散布し、多発時には追加散布します。
●茎葉散布剤の要防除水準は、穂ばらみ期の発病株率が10~20%です。

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 :紋枯病 /  :紋枯病菌の菌核

「稲こうじ病」
●穂ばらみ期から出穂期にかけて、冷涼で多雨の時に多発生します。
●前年、本病が多発した圃場では、今年も本病の発生が多い傾向があります。
●穂に"こうじ粒"といわれる病原菌の胞子と菌糸の塊をつくります。
●飛散胞子による感染、土壌・種子伝染が報告されています。
●玄米に本病の病粒が混入すると規格外になるので、注意してください。
●出穂10~20日前に薬剤を茎葉散布、あるいは出穂2~3週間前に水面施用剤を湛水散布して防除します。
●多肥栽培だと本病が発生しやすくなります。多肥は避けましょう。

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 :稲こうじ病 /  :もみ枯細菌病 (提供:野菜茶業研究所 畔上耕児)

「もみ枯細菌病」
●暖地で、出穂期前後に高温・多雨な時に、発生が多くなります。
●育苗時以外に、穂でも発生します。
●籾が灰白色になり、後に淡褐色に変わります。穂軸、枝梗は緑色が残り、重症穂は直立します。
●発病している玄米では、健全部と病変部の境に褐色の帯が現れることがあります。
●出穂3~4週間前に水面施用剤を施用するか、穂ばらみ期~乳熟期に茎葉散布剤を1~2回散布して防除します。
●一部の農薬には耐性のある病原細菌が発生していますので、この耐性菌の分布に気を付けます。

「縞葉枯病」
●縞葉枯病は主にヒメトビウンカによって媒介されるウイルス病です。
●葉に黄緑色または黄白色の縞状の病斑を生じ、生育が悪くなって、後に枯れます。
●生育初期に発病すると葉が巻いたまま垂れ下がり、枯れあがります。
●穂は出ても完全でなく、実がはいらないこともあります。
●九州、関東地方、西日本などで発生が増大しています。
●第一次伝染源は病原ウイルスを保毒しているヒメトビウンカの越冬幼虫です。
●ヒメトビウンカのウイルス保毒率が高いと発生が多くなります。
●窒素質肥料を多用すると本発の発生が多くなります。

「縞葉枯病の防除」
●抵抗性品種を栽培します。
●薬剤の育苗箱施用や本田での茎葉散布でヒメトビウンカを駆除します。
●一部の薬剤に耐性をしめすヒメトビウンカが発生しています。駆除効果のある薬剤を注意して、えらんで使用します。
●窒素質肥料を多用しないようにします。
●イネの収穫後に発病刈り株を土にすき込む、畦はんや休耕田の雑草を刈り取るなどして、ウイルスを保毒しているヒメトビウンカのすみかを減らします。

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縞葉枯病

執筆者 
小泉 信三
(独)国際協力機構 筑波国際センター 研修指導者

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