稲作における水管理
水管理と圃場の均平
「圃場の均平の必要性」
●圃場の均平精度を高めると、圃場内の水深のムラが小さくなります。
●雑草や病虫害防除、施肥等の栽培管理がしやすくなります。
●移植水稲での圃場内の高低差は、±2.5cmが一つの目安です。
●湛水直播水稲では、播種後落水を行います。(「直播による水稲栽培」の項を参照)
●圃場内で滞水した場所の苗立ちは悪くなるので、湛水直播では、移植水稲以上に高い精度の均平が必要です。
圃場内の水深のムラ
「大区画圃場の均平」
●機械作業の効率向上、一層の省力化、低コスト化のため進められている大区画圃場では、従来の小区画の圃場に比べて、均平精度を保つのは難しくなります。
「均平には代かきより耕起・耕耘」
●運土効果が大きいのは、代かきよりも耕起・耕耘です。耕起・耕耘作業の段階で均平を図る方法が、より有効です。
●代かき作業によっても圃場内の高低差を小さくすることはできますが、運土効果が小さいので、あくまで局所的な高低差を小さくすることしかできません。
「レーザーレベラ」
●レーザーレベラ(レーザー光で測量・整地する機械)の開発で、圃場の高低差を旧来の整地、代かき方式よりも、かなり小さくすることが技術的に可能となっています。 (「本田準備」「均平」の項を参照)
レーザーレベラ(牽引型)による均平作業の様子(東北農業研究センター東北水田輪作研究チーム提供)
田植え後の初期管理
「寒冷地の初期管理」
●寒冷地では田植え時期の平均気温が低いため、水の保温効果を生かした初期の水管理は極めて重要です。
●田植え後の苗の活着(新根が発生して養分や水を十分に吸収できる状態)には、気温よりも水温が大きく影響します。
●寒冷地での一般的な水管理は、低温・強風の場合には深水とし、晴天・高温の場合には浅水とします。
●移植直後から活着までの水管理は、苗の種類によっても異なります。
●稚苗では本葉の一部が水面から出ている程度、中苗では萎凋や保温の面からやや深水管理とし、活着後は浅水管理とします。
●活着期に低温が予想される場合は、日中は止水として3~4cm浅水、夕方に入水して夜間は5~6cm通常の湛水深とすることで、活着までの水温を高く維持しやすくなります。
初期の稲
「暖地の初期管理」
●暖地での田植え時期の平均気温は高いため、寒冷地のように温度要因によって活着が遅れることはありません。
●植え傷みによって活着が遅れることが多いので、活着するまで深水管理とし、その後浅水管理とします。
「密播苗」
●田植え時の水深は、落水~ひたひたの状態にしましょう。
●田植え後の急な入水は浮き苗の原因となります。
●土の戻りが悪い硬めの圃場では、根が露出しやすく、田植え後の除草剤によって薬害が出ることがあるため、注意が必要です。
田植え後の初期管理
●直播栽培での水管理では、分げつ期以降は移植栽培と特に変わりませんが、移植栽培と異なる初期管理について解説します。
「湛水直播」
●湛水直播では、播種後落水管理(目安として播種後7~10日間の落水)を基本とします。
●初期剤と初中期剤散布を組み合わせた除草体系では、出芽揃い期からの入水・浅水管理とします。
湛水直播
「乾田直播の水管理」
●乾田直播では、一般的に入水時期は水稲3~4葉期頃です。
●入水直後から圃場には大量の水を入れずに当初は走り水程度とし、その後、湛水管理として移植栽培に準じた水管理を行います。
分げつ期から中干し期
「分げつ期の管理」
●寒冷地では、有効分げつ数(穂数)を早期に確保することがポイントです。
●そのため、有効分げつ終始期まで、浅水管理などによって水温を高くすることに努めます。
●暖地では、低温寡照の際は、寒冷地と同様に浅水管理などによって水温の上昇に努めます。
●逆にこの時期の高温多照によって分げつが過剰となり、穂数および籾数過剰によって品質低下を招くことがあります。
●その場合は中干し時期を早めるによって、分げつの過剰発生を抑えます。
コシヒカリの「分げつ」のようす
「中干し期の管理」
●中干しは、土壌の還元に伴って発生する有害ガスを除き、また、土中に酸素を供給して健全な根にするために行います。
●水稲の草姿が良くなり、有効茎歩合が高まって収量が高くなり、稈が太くなって早い時期の倒伏を軽減することができます。
●土壌を乾燥・収縮させることになり、再湛水して収穫前に落水した際に排水が速やかに行われ、機械収穫を行う上で必要な地耐力も確保しやすくなります。
●開始の適期は、穂数と茎数が等しくなる時期(有効分げつ終始期)です。
●例えば、北陸地域のコシヒカリでは、6月中旬に相当します。
●程度は、圃場に浅い亀裂が生じるくらいとします。
●大きな亀裂が生じるほど長期間の落水をおこなうと、根が切断されるので注意します。
●北陸・東北地域と日本海側のような重粘土地域では、6月上旬頃から間断灌漑によって地表面を固めてから、溝切りを行って数日落水(中干し)し、その後は間断灌漑とします。
溝切り後の圃場
出穂期から登熟期
「出穂期の管理」
●出穂、開花期前後は、最も水を必要とします。
●「花水」とも言われており、この時期は圃場の水を絶やさないように気をつけます。
●寒冷地で、幼穂形成期以降、特に穂ばらみ期(出穂前14~7日)に低温が心配な時は、幼穂が水面下となるように深水とします。
●暖地では、この時期は圃場が乾燥しやすいので、特に注意が必要です。必ず湛水または浅水にしてください。
「登熟期の管理」
●一般的には、出穂以降は間断灌漑をして、根の活力を維持するようにします。
●登熟期間中に早期落水すると、コメの品質が低下しやすくなる上、高温でそれが助長されるので、注意します。
●掛け流しによって地温を下げると、品質低下の度合いを減らせます。
「刈り取りのための落水」
●排水性の良い水田では、出穂後30日頃、排水性の悪い水田でも出穂後25日頃を目安に、落水します。
●刈り取り作業のしやすさを優先して落水時期を早めすぎると、登熟歩合や品質の低下を招きやすくなります。
刈り取り前の圃場
古畑昌巳
農研機構 東北農業研究センター 水田作研究領域
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