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苗作りの実際―箱育苗について

(2020年9月 一部改訂)
(2014年6月 一部改訂)
 生産現場における育苗様式は、その地域の作期、育苗の時期の気象条件と関係があります。
 同じような育苗様式においても、細部の育苗法は、地域的に様々です。 
 以下、箱育苗について、共通する部分について記します。

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折衷水田に置床しての育苗 (提供 :佐賀県佐城農業改良普及センター)

苗作りの基本手順

「種子の用意」
●採種圃で栽培された良質な種子を毎年購入します。

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「育苗土の用意」
●市販の育苗用培土が便利ですが、購入費がかかります。  
●水田や山の土を使う場合は、殺菌とpH調整が必要です。
●土の条件でも苗の生育が違うので慣れた土がよいでしょう。 

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「施肥」
●使用する土、苗の種類、播種量に応じて、適切な施肥を行います。(稲編 「育苗法のいろいろ」 表1を参照)
●暖かい時期・地域では苗が徒長しないよう、少なめにします。市販の育苗用培土、培地はすでに肥料が入ってる場合が多いです。

「塩水選」
●うるちは比重1.13、もちは1.08で処理します。
●食塩を使う場合と硫安を使う場合があり、比重計または生卵(比重1.13は浮いて横になる程度、1.08は沈んで底で立つ程度)を利用して実施します。
●処理後は水洗いします。 
●農薬による消毒済み種子は、塩水選をすると農薬が流されてしまい、消毒効果が低下します。

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「種子消毒」
●水温10~15℃で、イネシンガレセンチュウ、ばか苗病やもみ枯れ細菌病、いもち病などの病害に対して行います。
●薬剤消毒後の籾は水洗いせず、ラベルに記載がある場合は、軽く乾かして浸漬に移ります。
●前もって粉状の水和剤を湿分衣処理する方法や、高濃度薬液を吹きつけ処理、塗抹処理する方法もあります。

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薬剤を使わない温湯消毒法
 :提供 九州沖縄農業研究センター) 
 :提供 岩手県農業研究センター)


「種子の浸漬」
●水温は10~15℃で10~7日実施します。積算温度で100℃が目安です。
●病原菌に汚染されたほこりが入らないように、作業場を清掃するとともに、浸種容器にフタをします。
●消毒後2~3日程度は水を換えません。
●その後は1~3日に1回水を換えます。

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「催芽」
●水温は約30℃、12~20時間程度で実施します。
●催芽の程度は、幼芽が1mm出たところです。

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「播種」
●脱水したあと、播種機などを使って均一に播種します。
●播種前後に、土に十分な水を潅水します。
●必要があれば同時に病害の予防剤等を入れます。(次項参照)
●覆土のあとは潅水しません。

「殺菌剤処理」
●主に苗立ち枯れ病、ムレ苗等に対しての予防剤を施用します。
●育苗中に発生した場合は、防除剤を潅注します。
●播種前に前もって育苗土に粉剤を混和する方法もあります。

「出芽」
●出芽の温度は30℃を目標に行います。
●出芽長は1cm以内とし、出し過ぎに注意します。
●育苗器を使わない積み重ね法では10~20箱重ねとし、極力温度ムラをなくすように工夫します。
●平置き式の出芽法では、ハウスやトンネル内に入れたり、各種の保温・遮光シートで覆い、適温を保ちます。 

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 :ハウス内積み重ね法による出芽処理。被覆はビニールシート
 :ハウス内平置き法による育苗。被覆シートはシルバーポリトウ#80
(2枚ともに 提供 :九州沖縄農業研究センター)


「緑化」
●暖かい中でおこない、低温の中には出さないようにします。温度ストレスのため苗の生育不調を来たし、ムレ苗が発生しやすくなります。半遮光シート被覆の平置きで、出芽と同時に行う方法もあります。
●温度は20℃~25℃を目標とし、夜は15℃以下にならないようにします。

「硬化」
●温度は、前半は20℃~25℃を目標に、夜は10℃以下にはならないようにします。
●移植が近くなる後半は、徐々に外気に慣らしていきます。
●潅水は朝方に十分におこないます。後半でも1~2回とし、過湿を避け節水管理で根を伸ばし、苗丈を伸ばし過ぎないようにします。

※「緑化、硬化における夜の目標温度を達成しにくい場合では、それぞれ10度以下、5度以下にはならないようにします」とする県もあります。

「追肥」
●葉令の進行、肥料むらなどをみて、適宜追肥をおこないます。

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「苗箱施薬」
●本田の病虫害に対して、必要な殺虫・殺菌剤を施用することが多くなりました。
●ラベルに書いてある時期に施用しましょう。
●高密度播種苗のように面積当たりの苗箱数が少ない場合は、防除効果が不十分な場合があります。登録のある薬剤は限られますが、移植同時側条施薬機で面積当たり所定量を土中施薬する方が、防除効果が安定します。

「移植」
●葉色が落ちてくるようであれば、移植の数日前に本田での活着促進を目的とした弁当肥えを施します。

育苗管理上のポイントと留意点

「温度管理・水管理」
●育苗中は、なんといっても適切な温度管理、水管理が大切です。
●温度管理では、昼の高温はもとより、夜の低温にも気をつけます。
●水管理は、過湿を避け節水管理を心がけます。

「病害予防」
●ムレ苗は、低温や高低温度の繰り返し、pHが高いなどで、出やすくなります。
●苗立ち枯れ病などの病害は湿潤過ぎ、低温や高低温度の繰り返しなどで出やすくなります。
●徒長苗は高温、芽出し過ぎ、水分過多、多肥過ぎ、播き過ぎなどで出やすくなります。

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苗立ち枯れ病の被害を受けた苗 (提供 :東北農業研究センター)

●これらムレ苗、病害苗、徒長苗をなくして、健苗を育成するために、次の事項に注意しましょう。

1)出芽処理の終了時点に気をつけます。育苗器に入れる時間、積み重ねの時間、保温シートをはずす時期などに注意します。
2)温度管理では適温を確保するようにします。ハウス・トンネルの開閉、保温シートなどの掛け・はずしに気を配ります。
3)水管理では、播種・芽出し時の湿潤管理から、緑化、硬化期には節水管理へともっていきます。潅水は朝方に十分に行います。少しずつの潅水はなるべくしないようにします。

※各県で普及している育苗様式については、県で詳細な指導指針を作っています。
前もって資料をよく読んでおくとともに、困った時には普及指導センター等に相談してください。

執筆者
堀末 登
農研機構 フェロー
白土宏之
農研機構 東北農業研究センター 水田作研究領域 水田作グループ長

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