提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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機械

スマート農業編 ドローン(散布作業)

技術の概要

「ドローンとは」
広義では無人で自動または自律動作ができる、もしくは遠隔操作可能な機体全般を指します。したがって、空中とは限らず、地上や水中であってもドローンと呼びます。ここでは、狭義のドローンとして無人マルチコプタをドローンと呼ぶこととします。

「水稲作におけるドローンの利用形態」
○資材散布作業
散布作業(農薬(病害虫防除)、肥料(追肥)、種子(湛水直播)など)は、資材を運搬散布することから、大型(1m超)の機体が用いられるのが普通です。

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○センシング作業
センシング作業(生育ムラ、葉色、倒伏状態、草高等を空中写真から把握)では、小型(数10cm)の機体から中型(1m弱)の機体を用いることが多いです。

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技術導入のメリットとデメリット

「メリット」
●ドローンは、バッテリー駆動のブラシレスモーターを動力としていることから、産業用ヘリと比較して騒音が小さいです。
●機体が軽量で運搬が簡単です。
●燃料やオイルによる汚染がありません。
●産業用ヘリによる防除は、一斉防除が多いため日程調整が必要ですが、ドローンは小回りが効くため、日程が合わない場合や小区画圃場でも対応が可能です。
●空中からの防除は、圃場に侵入しないことから、産業用ヘリと同様に病虫害の拡散を防止できます。
●産業用ヘリは1000万円以上と導入コストが高いのに対し、散布用ドローンは、小型で数十万円から数百万円であり、コストが大幅に抑えられます。

「デメリット」
●産業用ヘリの燃料と比べると、バッテリーが高価で、連続運用するためのコストがかかります。
●プロペラが起こす下降気流(ダウンウォッシュ)が弱いため、薬剤が根元や葉の裏まで届きにくいです。これには、飛行高度を下げることや、プロペラの数を増やすなどの対策が取られています。

「導入効果」
●ドローン導入の効果は、スマート農業実証プロジェクト実証試験報告(※1)によると、作業時間が平均81%短縮され、スマート農業実証の結果(※2)では、農薬散布ドローンによる労働時間削減効果は、平均91%となっています。
●ブームスプレーヤーに比べると、給水時間が短縮されます。
●セット動噴のホースを引っ張って歩く必要がなくなり、疲労度が下がります。
●機械・施設費は増加しており、そのコストを増収や人件費削減などでカバーできるかどうかが、損益の分岐となります。

※1令和元年度スマート農業実証プロジェクト 水田作の実証成果(中間報告)
※2労働力不足の解消に向けたスマート農業実証の結果

使用する装置と機能

「散布装置」
●散布装置は、病害虫防除のための液剤散布装置(加圧ノズル)と除草剤散布、湛水直播、追肥のための粒剤散布装置(インペラ回転)の2種類が主となっています。

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液剤散布()と粒剤散布(

●さまざまなメーカーが散布用のドローンを発売しています。液剤散布装置が主流ですが、粒剤に対応したものも増えてきています。
●ドローンは積載容量が小さく、高濃度の薬剤を少量散布するのが特徴で、8倍希釈の農薬を8L/ha散布するのが一般的です。
●タンク容量は10Lタンクに8Lの薬剤を搭載し、10分程度で1haの散布を行います。現在、16Lや30L積載可能な機種も登場していますが、1回の飛行時間は10分から20分程度なので、目的に応じて機体や飛行方法を選択する必要があります。

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ナガイモ防除のため液剤をドローンに充填

「バッテリー」
●バッテリーは高価なリチウムポリマーで、効率作業のためには、散布面積に応じた交換用バッテリーの本数が必要です。
●バッテリーの本数を減らすため、現地で発電機を用いて充電を行う方法もありますが、発電機を使用する場合は、排気などに十分に気をつける必要があります。
●バッテリーは保管温度や充放電管理によって寿命や性能発揮に差が出るので、管理に気をつける必要があります。

「飛行アシスト機能」
●飛行に関しては、一部自動飛行モード付きの機体もありますが、基本的には半自動で作業をするための飛行アシスト機能(高度維持機能やオートターン機能、オートクルーズコントロール(速度維持)、自動吐出機能、速度連動散布量調整機能等)を有しています。
●メーカーによっては、衝突防止用のセンサー(ミリ波レーダーやPPVカメラなど)のあるものもあります。

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球面型全方位レーダー

飛行前の確認事項

「法律など」
●ドローンの飛行には、航空法(※3)が適用されます。
●令和2年6月にドローンの機体登録制度(※4)が公布され、令和4年6月20日から施行されたことにより、100g以上のドローンに機体登録義務が発生しました。機体登録の義務を怠ると、50万円以下の罰金または1年以下の懲役が課されます。なお、登録記号は機体重量に応じた大きさ以上で本体に表示しておく必要があります。バッテリーやアームなど本体から分離する部分(しやすいパーツも含む)では認められません。
●さらにリモートID装置の取り付けが義務となりました。ただし、令和4年6月19日までに事前登録を行っていれば、3年間の取り付け猶予があります。

※3 航空法では、100g以上の無人飛行機に下記の飛行ルールがあります。

●飛行禁止区域(空港周辺、150m以上の上空、DID(人口集中地区)、緊急用務空域)では、国土交通大臣による許可が必要です。
●国の重要な施設等の周辺、外国公館の周辺、防衛関係施設の周辺、原子力事業所の周辺も、小型無人機等飛行禁止法により飛行禁止区域に追加されました
●規制緩和などにより、点検等を行う施設から30m以内を飛行する場合は、150m以上の上空での許可申請が不要になるなどの変更が行われました。
●飛行空域を問わず順守する必要があるルールとして、以下のものが決められており、⑤~⑩の方法によらずに飛行させたい場合は、国土交通大臣による承認が必要です。

①アルコール又は薬物等の影響下で飛行させないこと
②飛行前確認を行うこと
③航空機又は他の無人航空機との衝突を予防するよう飛行させること
④他人に迷惑を及ぼすような方法で飛行させないこと
⑤日中(日出から日没まで)に飛行させること
⑥目視(直接肉眼による)範囲内で無人航空機とその周囲を常時監視して飛行させること
⑦人(第三者)又は物件(第三者の建物、自動車など)との間に30m以上の距離を保って飛行させること
⑧祭礼、縁日など多数の人が集まる催しの上空で飛行させないこと
⑨爆発物など危険物を輸送しないこと
⑩無人航空機から物を投下しないこと
 ただし、十分な強度を有する紐等(30m以下)で係留し、第三者の立ち入り管理等の措置を講じた場合、⑤⑥⑦⑩およびDIDでの飛行に許可・承認を得る必要がなくなりました。

(以下、筆者註)
●民有地の上空を飛行する場合には民法が関係し、河川の場合は河川法、離発着に公道を使用する場合は道路交通法なども関係します。
●たとえば、土地の所有権は、民法の規定上は土地の上空にも及ぶとされているため、ドローンが無断で第三者の所有地上空を飛行すると、権利を侵害したと判断される可能性があります(所有権を侵害された人が具体的にどのような損害が発生したか明示するのは難しいため裁判になる可能性は低いですが、トラブルを回避するためには事前の承諾を得ておくことが好ましいといえます)。
●その他にも、電波法、プライバシー関連法、廃棄物処理法、海岸法、港湾法など多くの関連する法律があります。地方ごとに条例などが制定されている場合もあるので、注意が必要です。
●また、義務ではありませんが、万が一のことを考え、事故発生時の連絡先なども、事前に調べておくことが大切です。

※4
機体登録制度の内容は、以下の通りです。
●所有者は、氏名・住所等や機体の情報を国土交通大臣に申請
●国土交通大臣は安全が損なわれるおそれがある無人航空機の登録を拒否可能

  登録した機体については登録番号を通知
●無人航空機は登録を受け、かつ、登録番号を表示等しなければ飛行禁止
●安全上の問題が生じた無人航空機に対し、国土交通大臣が是正命令
●登録事項変更時の変更届出、登録の更新、不正時の取消等の制度を整備

登録される内容は、現時点(2022年10月)では以下の通りです。
●無人航空機の種類、型式、製造者、製造番号
●所有者/使用者の氏名又は名称及び住所
●登録年月日
●その他

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「必要な資格」
●ドローンによる各種散布作業に必須となる特定団体の資格(免許・ライセンス)はありません(2022年7月現在)。
●ただし、2022年12月頃以降(未確定)、一等資格、二等資格の2区分の国家資格ができ、カテゴリⅡ以上(現時点でDIPSで許可が必要なもの)の飛行には必要となる予定です。
●国土交通省の「無人航空機飛行マニュアル(空中散布)」に則った安全飛行を行わなければなりません。

●具体的な制度や方法は、現在検討が進められています。
●資格の概要はこちら

(参考)「レベル4飛行実現に向けた新たな制度整備(国土交通省)」
・操縦ライセンス制度に関する登録講習機関
・操縦ライセンス制度の概要

「申請などの手続き」
●散布作業は、物件投下にあたることから、国土交通大臣による事前の許可を得るため、所定の手続きが必要です。
●飛行の許可・承認は、飛行開始予定日の10開庁日前までに、管轄の空港事務所または地方航空局に申請が必要です。
●農薬の散布は、危険物の輸送にも該当するため、事前の許可・承認が必要です。
●農薬取締法も関係法令となり、農薬使用者としての責務を果たす必要があります。「マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」を確認し、散布計画を立てて、危被害防止対策に努め実施しなければなりません。
●散布を行う前には、「飛行情報共有システム(FISS)」への事前登録が義務づけられています。
●これら手続き関係の準備を進めつつ、散布計画・飛行計画を立てることになります。

飛行

「散布飛行の方法」
●現在は、機体等メーカーが取扱説明書に記載した散布方法を参考に、散布を行うこととなっています。設定されていない場合には、ガイドラインにある、飛行高度は作物上2m以下、風速3m/s以下という条件で散布を行います。
●現時点では、補助者を配置する、もしくは、立入管理区画(※5)を設けて、目視範囲でアシスト機能を活用しながらの手動散布が基本となります。
●一部自動飛行モードを有する機体もありますが、基本的には、半自動の飛行アシスト機能(高度維持機能やオートターン機能、オートクルーズコントロール(速度維持)等)を利用しながらの散布飛行となります。機種によって搭載されている機能や操作方法が異なります。
●一部の機体にある、自動航行機能を利用した目視外や夜間の作業のためには、さらに飛行範囲の制限やトラブル時の危険回避機能、目視内の農地と接続する農地に限るなどの、さまざまな条件をクリアする必要があります。
●現在、いわゆるレベル4(有人地帯での補助者なし目視外飛行)の実現に向けた法整備が進められているので、今後、それに対応したルールが決められると思われます。

※5 立入管理区画とは、飛行する農地の周辺に人や車両への衝突を避けるための区画のことで、ドローン落下の可能性がある範囲として飛行区域の外側に設定する必要があります。

飛行後の整備点検

●「無人航空機飛行マニュアル(空中散布)」には、20時間ごとの点検・整備と「無人航空機の点検・整備記録」を作成保管するよう書かれています。同様に、散布飛行実績の作成と記録・保管も行うように書かれています。

ドローンの使用例

散布用ドローンを導入するメリットについて
千葉県のお客様インタビュー(「クボタ農業用ドローン」ページより)

留意すべき点

●ドローンに関係する法令は非常に多岐にわたり、さらに、ほんの数年の間に大きく変化しています。常に最新の情報をチェックするよう心掛ける必要があります。
●ドローンは便利なものではあるものの、空中を飛ぶ以上、何かあれば落下事故につながり、さらには落下地点への被害が発生します。どんなに注意をしていても人為的なミスは発生し、突発的な故障やアクシデントの発生はいつ起こるかわかりません。
●緊急時には被害を最小限にするための判断を、そして発生してしまった場合に適切な対処をとれるよう準備しておくことと、また、条件が悪い場合には無理をせず、飛ばさない勇気を持つことが大切です。

石塚 直樹
農研機構農業環境研究部門 土壌環境管理研究領域 農業環境情報グループ