提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


機械

スマート農業編 スマート農業での田植機の利用

スマート農業での田植機の位置づけ

●昭和40年代に動力田植機が登場してからおよそ半世紀が経過し、育苗技術の発達とともに田植機自体も進化してきました。
●田植機については歩行型から乗用型へ、また植付機構も開発当初のクランク式から振動が少ない回転式へと進化し、作業速度は1.0m/s以上に高速化しています。
●現在の労働力不足、熟練者不足への対応のための自動化、また同時に水稲の収量や品質の向上のためのICT化が進められています。
●育苗技術についても、省力化に対応するため、移植時に苗箱数を減らす高密度播種技術(密播苗等)が取り入れられています。

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慣行播種(上:100g播)と高密度播種(下:250g播)の播種密度
(写真提供:秋田県農業試験場)


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移植時の慣行播種(右:100g播)苗と高密度播種(左:250g播)苗の生育状況
(写真提供:秋田県農業試験場)

GNSSによる位置情報の利用

●GNSS(Global Navigation Satellite System、全地球衛星測位システム)は高精度に位置情報を得る手段として、田植機でも利用されています。
●田植機では、計測精度(※)1m程度のDGNSS(ディファレンシャルGNSS、相対測位方式GNSS)と、計測精度(※)2cm程度のRTKGNSS(リアルタイムキネマティックGNSS、搬送波位相測位方式GNSS)が利用されています。
●GNSSによる位置情報と車輪のスリップをリアルタイムに検出して植付部を制御することで、スリップしやすい水田でも株間を正確に保つことができる機能、側条施肥機の繰出ロールの回転を制御して設定どおりに施肥する機能を持った田植機が市販化されています。また位置情報を利用し、営農支援システムの施肥マップの情報に従って肥料の繰出を制御して可変施肥を行い、水稲の生育ムラを抑える技術を利用することが可能になっています。

計測精度 :GNSS受信機から出力される位置データの計測時の精度で、田植機としての直進精度とは異なる。

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DGNSSを搭載した田植機

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RTKGNSSを搭載した田植機

自動直進田植機

●GNSSによる位置情報と方位センサ等による進行方向の情報をもとに、ステアリングを制御して直進走行させる自動操舵技術が開発されています。
●TOPCON社、Trimble社等のGNSS受信機、アンテナ、傾斜や進行方向を検出するセンサ、コントローラ等を後付けタイプと、田植機製造時に自動直進に必要な機能を組み込んだメーカー製のタイプがあります。
●後付けタイプは、自動操舵のためのGNSS受信機、アンテナ、ステアリング制御用モータ等の機器を田植機に取り付ける必要があり、取付後にステアリング制御のための各種パラメータを設定します。パラメータは機械ごとに設定する必要があり、また土壌条件によっても異なるため、実際に移植作業しながら、パラメータの設定や調整をします。
●後付けタイプは田植機以外のトラクタや乗用型除草機等に移設して汎用利用することもできます。ただし、前述したように、搭載する機械ごとにパラメータの設定や調聖が必要です。
●メーカー製のタイプはパラメータ調整が不要です。また、位置情報をもとに、圃場端が近づくとオペレータに対して警報を発する、エンジンを停止させる等の機能があります。
●直進時は自動で操舵できるため、非熟練オペレータでも高精度な直進作業を行うことが可能です。前方注視と操舵から解放されるため、苗の植付深さの確認や苗詰まりの監視等に注力できます。
●高精度作業のためのマーカー跡をつける必要がないため、代かき後の田面水を完全に排出せずに移植作業することができます。このため、移植時のヒタヒタ水までの排水や移植直後の水張りなど移植前後の細かな水管理が不要になり、田植え時期の水管理を省力化できます。また湖沼周辺では、窒素やリンなどの富栄養化の原因となる物質の水田からの流出を削減でき、下流域での環境保全効果が期待できます。

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自動直進田植機(写真提供:秋田県農業試験場)

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後付けの自動操舵装置を装着した田植機

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田面水を排出せずに移植可能

ロボット田植機

●操舵だけでなく、田植機の作業のための操作をすべて自動化したロボット田植機は、20世紀の終わりごろから農研機構等で研究が行われてきました。
●当時のロボット田植機は、圃場の形状をあらかじめRTKGNSSで測量しておき、圃場の形状から経路を自動で作成して作業を行いました。苗は30a無補給で作業可能な特別な水耕苗を利用していました。
●2020年に株式会社クボタが市販したロボット田植機では、外周を手動で運転して圃場の形状を記憶し、その後は自動で作業経路を作成して移植作業を行います。条合わせも自動で行うことができます。前述した高密度播種苗を利用することで苗補給の回数を減らすことができ、田植機が停止している時間を短縮できます。
●オペレータが搭乗することを前提とした、安全センサを省いた有人仕様と、往復作業時はオペレータが搭乗することなく作業する、無人仕様があります。これまでの田植え作業では、熟練オペレータ1名に加えて苗補給等の補助者1~2名が必要でしたが、ロボット田植機の利用により、非熟練オペレータでも高精度な作業が可能となります。また、無人仕様では、さらに少ない作業者で対応できます。

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農研機構で研究中のロボット田植機(写真は2008年)

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市販されているロボット田植機
(写真提供:岩手県農林水産部)


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市販されているロボット田植機(無人仕様)
(写真提供:秋田県農業試験場)

執筆者
長坂善禎
北里大学獣医学部生物環境科学科 准教授