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スマート農業編 ICT水管理システム

ICT水管理システムとは

●ICT水管理システムとは、これまで手作業に頼ってきた水田の水管理を、ICT(Information and Communication Technology)の活用により、水位を遠隔でモニタリングし、遠隔または自動により省力的かつ精緻な水管理を行う技術です。
●センサーにより得られた水位や水管理の操作履歴をデータとしてクラウド上に残すことで、水管理のデジタル化が可能になります。
●加えて、気象や水稲生育などのさまざまなデータや営農管理システムと連携することで、品質や収量向上のための最適な水管理が実現でき、経験や勘に頼らなくても安定した水稲栽培を行うことができます。

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写真1 ICT水管理システム

水田水管理に係る技術について

「従来型の自動給水栓」
●フロート(浮き)が付いた水位感知器により、一定の水位を維持することができます。
●水位のモニタリングができないため、給水の停止や水位調整は手作業となります。

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写真2 自動給水栓

「水田センサー」
●水位や水温などのセンサーに通信機能を付けた装置のことで、遠隔での水位モニタリングが可能となります。
●モニタリングした水位データに基づいて、必要に応じて水田に足を運んで水管理を行うため、これまでの研究では約3~4割程度の省力化が見込まれます。

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写真3 水田センサー

「ICT水管理システム」
●水位センサーに加えて、水田の給水バルブまたは用水路の堰板を開閉するための装置と通信機器が備わったものです。
●排水口の堰板を制御する装置を追加することで、給水と排水を制御することもできます。
●なお、フロートスイッチを用いたセンサー(水位の上限と下限のみを設定する)が備わる水管理システムでは、精緻な水管理や水管理のデジタル化はできません。

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写真4 排水口制御装置

ICT水管理システムの概要

●システムは、主に、①センサーが備わる給水側制御装置、②落水側制御装置、③基地局、④クラウド上のサーバーソフトで構成されています。
●センサーによりセンシングされた水位や水温といったデータは、基地局を介してクラウドに送られます。利用者は、モバイル端末等でいつでもどこでもデータを閲覧することができ、給水や排水といった操作を遠隔または自動で制御することができます。

「通信基地局」
●制御装置と基地局の間は、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれる特定小電力無線による無料の無線で通信を行います。
●地形などの条件にもよりますが、基地局あたり半径2kmの範囲において、最大80台の制御装置との通信が可能です。
●基地局からクラウドは携帯通信(LTE)によってインターネットにつながるため、基地局ごとに通信料が発生します。

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図1 ICT水管理システムの概要

「水位センサーの種類」
●水田の水管理を自動で行う上で不可欠となる水位センサーは、さまざまな種類があります。
●静電容量式や圧力式は、ミリ単位で数値がモニタリングできるため、精緻な水管理が可能になります。
●フロートスイッチ式は安価ですが、水位の設定は上限値と下限値だけのため、精緻な水管理や水位を数値化(デジタル化)することができません。

「センサーの設置について」
●水田の田面は平らではなく、±2cm程度の凸凹があるのが一般的です(基盤整備時の基準は±3.5cm)。そのため、水位センサーの調整は不可欠となります。
●平均的な位置を選んで水位センサーを設置し、水田に水を張った後に代表的な水深とセンサーの値を比べ、相違がある場合はセンサーの位置を上下に動かして調整します。なお、システム上でも水位データの補正をすることができます。

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図2 水位センサーの設置方法

「設置状況」
●水田の用水路はパイプライン(管水路)と開水路があります。パイプラインの場合は給水バルブが備わっているため、制御装置を既設のバルブと連結させることで容易に設置が可能です。
●開水路の場合は、取水口が地域によって異なることから、取水口に合わせたアタッチメントを設置し、制御装置を装着します。そのため、アタッチメントの工事費や部材費が余分にかかり、バルブに装着するよりも費用を要します。

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写真5 開水路における制御装置の設置状況

水管理手法

ICT水管理システムを用いることでさまざまな水管理を行うことができ、人手では難しい精緻な水管理も実現できます。以下に代表的な制御メニューを紹介します。

「一定湛水」
●稲の生育状況等にあわせて任意の水位を設定することで、水位センサーの値によって昼夜を問わず自動で給水口を開閉し、設定水位を維持することができます。
●落水口の制御を行うことで、降雨による過剰な水位上昇を防ぎ、安定的な水位管理が可能になります。

「間断灌漑」
●任意の水位と間断日数を設定することで、中干し後の間断灌漑を自動で行うことができます。
●落水口の制御を行うことで、中干しや間断灌漑時にメリハリのある水位管理を行うことができます。また、適正に中干しを管理することで、温室効果ガス(メタン)の発生を抑制する水管理を自動で行うこともできます。

「時間灌漑」
●地域によっては灌漑時間に制約がある場合もあり、設定した時間内のみ灌漑することができます。また、夜間灌漑は穂ばらみ期の低温障害対策に有効とされており、人手では困難な夜中に自動で灌漑をすることができます。

ICT水管理システム導入の効果

「省力効果」
●ICT水管理システムの導入圃場は、人手による水管理を行った対照圃場に比べて、水管理に要する時間は82%削減(7地区平均)と大幅な省力化が確認されています。
●水管理の省力化により、経営規模拡大や高収益作物の導入を図ることで、収益の最大化を図ることが重要です。

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図3 省力効果の例

「適正化による収量の増収と安定化」
●水稲の収量は、ICT水管理システムの導入圃場では、人手による水管理を行った対照圃場に比べ約6%増加しました(7地区平均)。なお、品質の違いは見られませんでした。
●水管理に多くの時間を割けない大規模農家は、精緻な水管理を自動化することで、減収を抑制し、安定的な収量を得る可能性は高いと考えられます。

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図4 増収効果の例

「水管理による高温・低温障害抑制」
<高温障害対策>
●飽水管理は高温障害を防ぐための水管理として有効とされていますが、人手で行うと、飽水を維持するために通常よりもより多くの労力を要します。
●間断灌漑モードで設定水位3cm、間断灌漑日数1日(圃場の減水深(透水性)によって設定値は異なります)で管理することで、人手による飽水管理と同等の水管理を再現することができます。
●飽水管理を実施した結果、水温は気温に比べて低く維持され、水管理労力は慣行に比べて91%削減し、収量は慣行の587kg/10aに対し640kg/10aとなりました。

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図5 飽水管理の例
飽水管理中(7月10日~16日)の同時刻の水温・気温の平均を算出
水温 :30min間隔の平均値・最大値・最小値
気温 :1hr間隔の平均値
品種 :てんたかく
場所 :富山県富山市


<低温障害>
●深水管理は低温障害を防ぐ水管理とされていますが、急激な水位の上昇は幼穂の形成に悪影響を与えます。
●幼穂の成長に合わせ、遠隔で設定水位を1日1cmずつ上昇させる水管理を行いました。
●深水管理を実施した結果、不稔のリスクが高まる気温19度以下の夜間においても、水温は20度程度を維持していました。
●水管理労力は慣行に比べて95%削減し、収量は慣行の689kg/10a に対し709kg/10aとなりました。

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図6 深水管理の例
深水管理中(7月16日~25日の同時刻の水温・気温の平均を算出
水温 :30min間隔の平均値・最大値・最小値
気温 :1hr間隔の平均値
品種 :きらら397
場所 :北海道岩見沢市

水管理スケジュールについて

「水管理スケジュールにおけるテンプレート作成」
●水稲の生育は微気象に影響されるため、地域の地形や水利条件などによって水管理スケジュールを調整する必要があります。
●地域を熟知した篤農家や普及員により、水管理スケジュールのテンプレートを作成し、地域の最適な水管理を容易に共有・実行することができます。
●これによって、地域の収量・品質の向上、さらにはブランド化が期待できます。

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図7 水管理スケジュールのテンプレート

「スマート水管理ソフト(スケジュールの自動作成)」
●対象地域の気象データと品種ごとの作物発育モデルを活用することで、高い精度で幼穂形成期や出穂期などの発育ステージを予測することが可能となっています。
●これらと水管理システムの連携により、「品種」「移植日」「地点」を事前に入力することで、作期を通じて生育状況と気象状況に応じた精緻で最適な水管理が可能となります。

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図8 スマート水管理ソフト
・品種に応じた水管理スケジュールを自動作成
・気象データを基にスケジュールを自動調整
・気象予測による高温・低温障害等の被害を抑制する水管理を自動実行

執筆者
若杉晃介
農研機構農村工学研究部門 農地基盤情報研究領域 上級研究員