実践編 緑肥のすき込みについて
はじめに、緑肥栽培のさまざまな有用効果
土壌には地力を育む三大性質(物理性、化学性、生物性)があります。このうち、土壌の物理性については、水田では堆肥等有機物の施用量が減少し、土壌の有機物不足と地力の低下が懸念されています。
水田作および畑作における土壌への有機物供給には、堆肥施用の他に緑肥作物を栽培し、すき込む方法があります。
緑肥にはさまざまな有用効果があることが知られています(橋爪、2007)。物理性の改善では、有機物供給による土壌の団粒構造の形成促進、根の伸展による土壌の透水性の改善、化学性の改善では、腐植の増大による保肥力の増大、マメ科緑肥においては窒素固定による土壌への窒素供給、生物性の改善では、豊富な土壌微生物相の形成促進、土壌病害の軽減、有害線虫の抑制など、地力を高め、作物生育を促進する有用な機能を持っています。
緑肥作物の種類と特徴
緑肥作物には、大きく分けてマメ科とイネ科があります。
マメ科緑肥作物は窒素固定を行い、C/N比が比較的低く深根性で、クロタラリア(写真1)やセスバニア(写真2)などが良く知られています。
イネ科緑肥作物は地上部・地下部とも有機物量が多く、C/N比は比較的高い傾向で根域は広く、ソルガム(ソルゴー、写真3)やエンバク(写真4、5)などが良く知られています。
写真1.クロタラリア(狭条播種された「ネマコロリ」(ドリルシーダーによる、条間約25cm)、安達(2008)より引用)
写真2.セスバニア(寺井利久氏提供、左上:草丈約0.8m、右下:花)
写真3.ソルガム(線虫抑制性緑肥として利用できる「つちたろう」)
写真4.エンバク(線虫抑制性緑肥として利用できる「たちいぶき」、安達(2008)より引用)
写真5.緑肥用エンバク栽培圃場(北海道空知郡南富良野町付近の農場にて撮影)
水田の畑地利用の場合には、圃場の排水性の改善が必要な場合がありますが、緑肥作物の中にはクロタラリアのようにとくに湿害に弱いものもあります。他方、セスバニアはとくに多湿条件で生育が旺盛な緑肥であり、深根性にも優れるため、排水不良圃場での利用が期待できます。
緑肥作物の選択にあたっては、栽培対象圃場の諸条件にも留意する必要があります。
圃場準備と播種
緑肥作物そのものに換金性はないので、収益性を持つ前作物・後作物の間の休閑期間をねらった栽培、あるいは、数年間の総合的な収益性判断による輪作体系への導入となります。
栽培前の圃場準備としては、前作後の残渣のすき込みを伴う圃場耕うんと、発芽を安定化するためのパワーハロー(写真6、7)等による砕土・整地作業を行います。
写真6.パワーハロー
写真7.パワーハロー(リア部にローラー付き)
この際に一定量の施肥が推奨されていますが、可能な限り前作物の残肥を有効利用することが重要で、これにより、栽培コストを下げます。あるいは、やや未熟な堆肥を緑肥栽培前に施用することで、緑肥栽培期間中に堆肥養分の一部は緑肥として循環するとともに、未熟堆肥の悪い影響を緩和し、後作物栽培前には栽培環境が整います。
緑肥作物の播種作業は、圃場面積が狭い場合には、手動の散粒機を使うことも可能ですが、通常はドリルシーダ(写真8)などの播種機を使用して、大面積を効率良く播種します。播種後は、手動で播種した場合には、浅く耕うんして覆土しますが、ドリルシーダ等で機械播種した後には鎮圧機(パッカーローラ(写真9)など)を使用することで、発芽率を高めます。
写真8.播種機(ドリルシーダ)
写真9.鎮圧幅が異なる2台の鎮圧機
緑肥のすき込み
夏季の緑肥栽培においては、通常2か月~3か月の栽培の後で、冬季においては、4か月~5か月の栽培の後で、緑肥作物を圃場にすき込みます。その際、緑肥の地上部生重が予想以上に大きい場合があります。緑肥の種類にもよりますが、イネ科のソルガムなどでは、4t~5t/10aを超える場合も珍しくありません。また、大きく育った緑肥が傾斜したり、倒伏する場合もありますので、すき込み方法を予め検討し、作業機械を準備します。
すき込み作業では、まず始めに、大きく生長し繁茂した緑肥作物を、裁断機(フレールモア(写真10、11)、ハンマーナイフモアなど)を利用して細かく砕き、圃場表面へ落とすことによりすき込みやすくします。その後に通常のロータリよりも砕断・すき込み能力の高い砕断ロータリ(写真12)、超砕土ロータリ(写真13)、あるいは、チゼルプラウ(写真14)などを利用して、作土層へすき込みます。
写真10.裁断機(フレールモア)
写真11.裁断機(フレールモア)(寺井利久氏提供、緑肥用ソルガムの裁断)
写真12.砕断ロータリ(ブロッコリー残渣のすき込み)
写真13.超砕土ロータリ
写真14.チゼルプラウ
後作物へのスムーズな連結
緑肥のすき込み後に、速やかに後作物を栽培する輪作体系の場合は、すき込んだ緑肥の腐熟を促進するために、通常20日~30日の腐熟期間を設定します(橋爪(2007)、佐久間(2012))。この間、10日から2週間に一度程度のロータリ耕うんを行えば、緑肥の腐熟は一層促進されます。
緑肥すき込みから後作物栽培開始までの期間が長い場合には、後作の播種もしくは植え付けの1か月程度前にロータリ耕うんを行い、後作物の栽培に備えます。
以上のように、さまざまな有用効果を持つ緑肥作物を栽培してすき込むことにより、輪作体系の中でその効果が発揮され、作物の収量・品質の向上につながれば幸甚です。
○参考文献
1)橋爪健(2007)新版 緑肥を使いこなす-上手な選び方・使い方.農文協
2)安達克樹(2008)九州における緑肥作物を活用した持続型農業への取り組み.牧草と園芸、56(6):5-9.
3)佐久間太(2012)北海道向け緑肥作物品種の特性とその利用方法について.牧草と園芸、60(3):1-5.