実践編 水田を利用した野菜づくり
現状と課題
近年、カット野菜等の販売が右肩上がりで伸びており、野菜の加工・業務用需要が増加傾向にあります。加工・業務用野菜の約3割は輸入品で、安心・安全志向の観点からも、実需者の国産野菜供給へのニーズが高まっています。
●主要野菜の加工・業務用需要の動向
出典:農林水産政策研究所推計
●加工・業務用需要における輸入割合の推移
出典:農林水産政策研究所推計
一方で、主食用米消費量の低下による米価の下落により、安定的な農業経営のための水田の有効利用が大きな課題となっています。このような中、有効利用のひとつとして野菜栽培が注目され、新たに水田で野菜栽培に取り組む産地が年々増加しています。
しかし、水田転作畑は地下水位が高かったり湛水・冠水の危険性があったりと、野菜栽培においては湿害等、さまざまな問題が発生します。
以下の表に示すように、野菜の多くは湿害に弱く、水田転作畑での野菜栽培には排水対策が必要不可欠で、圃場の水を素早く排水することが大変重要です。
●野菜の耐水期間
●野菜の生育と地下水位
バレイショの湿害(左)(上)と、湿害によるニンジンの岐根(右)(下)
「湿害」とは、土壌中の過剰水分による酸素不足で作物が生育障害を起こす現象です。
湿害の原因には、
①集中豪雨の頻発、
②農機使用の影響による耕盤形成、
③腐植の減少(土壌の単粒化)、
④作業効率化のための作土の浅層化、 などがあげられます。
降雨後には地下排水よりも地表排水が圧倒的に多いことを認識し、地表排水の重点化と有機物の施用や、計画的な深耕等の土づくりを行う必要があります。
●参考
▼地表排水と地下排水
▼露地野菜における高畝成形について
具体的な排水対策
●参考
▼排水対策技術における事前調査
排水対策には「土づくり」も重要
大型の農業機械の使用により土壌が踏み固められ、作土が浅くなったり硬い耕盤層が現れますが、これも排水不良の要因となります。排水対策とあわせて土づくりをおこなうことで、排水の効果がより高まります。
安定して品質の良い野菜を継続して収穫するには、十分な有機物を⼟に混ぜ込む必要があります。
有機物が微生物の働きで分解されると、養分が供給されるとともにネバネバした腐植となり、細かい土粒同士が結びついた玉になります。これを「団粒化」と言います。
団粒化すると土のすき間が多くなって通気性、排水性が向上し、根にとっての環境がよくなります。
ただし、土粒が細かすぎると、雨が降ったときに水はけが悪く、土中のすき間が減るため、空気の入りが少なくなり、健全な土壌微生物の活性が低下します。
このように有機物の施用がないと、土はだんだんやせて野菜の生育が悪くなり、収穫量と品質が低下していきます。
左 :細かい土の粒子がかたまりになっている状態=団粒化した土
右 :土の粒子が詰まっている状態=排水も悪く、根も伸びない
○緑肥や堆肥などの有機物の施用により、土壌の団粒化を促進します
○深耕で土壌を膨軟にし、また、畝立てなどにより、作土層を確保します
●参考
▼緑肥のすき込みについて
▼緑肥(ライ麦)との輪作による土壌物理性改善が夏秋トマトの安定生産に与える影響
▼土づくり編(6) 緑肥、わら、収穫残さのすき込み
▼土づくり(野菜づくりの基本)
排水対策の実証事例の紹介
全国農業システム化研究会の実証から、排水対策を行った事例を紹介しています。
▼水田におけるたまねぎ等の機械化一貫体系と周年生産モデルの実証(富山県 令和元年度)
スクリューオーガによる額縁明渠並びにカットドレーンmini(穿孔暗渠機)による簡易暗渠を施工。田面から排水枡までの高さが30cm未満だったため、畦を割って排水口を設置し、排水口からカットドレーンminiを放射状に施工した。
▼水田における秋冬キャベツの排水対策の実証(島根県 平成30年度)
水田排水不良ほ場でのキャベツ栽培において、溝堀機による額縁明渠並びにサブソイラー(弾丸暗渠機)、カットドレーン(穿孔暗渠機)による簡易暗渠を施工し、排水性の改善による収量、品質の向上を図った。
▼WCS用稲後作キャベツ(秋冬)における新たな穿孔方法による排水対策に関する実証調査(島根県 平成30年度)
水田排水不良ほ場でのキャベツ栽培において、リターンデッチャによる額縁明渠、穿孔暗渠機カットドレーンminiとサブソイラによる簡易暗渠を施工し、排水性の改善の改善により収量、品質の向上を図った。
▼サトイモ栽培の機械化に関する実証(岐阜県 平成30年度)
サトイモの初期排水不良による生育不良の課題について、溝掘りと溝切りを併せた作業をおこない、ほ場排水性の向上を目指した。
▼キャベツ機械化栽培体系における排水対策技術の実証(福岡県 平成29年度)
加工業務用キャベツの契約出荷について、明渠や弾丸暗渠に加え、カットドレーンやパラソイラー等、効率的な排水対策技術を駆使し、品質・収量向上を目指した。
▼三重県の青ねぎ産地における湿害改善(三重県・平成28年度)
地域の青ねぎ産地において、これまでほとんど実施されてこなかった湿害対策技術(暗渠施工や耕盤破砕)の実証を行い、湿害による障害を回避することで新たな体系の作型を提案し、所得向上に繋げることとした。
▼砂丘畑ねぎ圃場への耕盤破砕の実施による排水性の改善および単収向上(新潟県・平成26年度)
根深ねぎの単収低下が著しく、原因として、耕盤層形成による圃場排水性の低下に起因する生育不良及び病害発生の助長が考えられることから、耕盤破砕の実施効果及びねぎへの収量・品質向上効果を実証し、耕盤破砕の普及啓発を図り、ねぎ単収向上につなげることとした。
関連情報
▼トラクター等でけん引することで手軽に本暗渠を施工できる「カットドレーナー」
大型のトラクターや農作業用のブルドーザーを用いてけん引することで暗渠管とモミガラ等の疎水材を深さ80cm程度まで埋設可能な本暗渠施工機。
▼簡単に施工できる穿孔暗渠機「カットドレーン」の開発
深さ70cmまでの位置に、耐久性のある通水空洞を無資材で、かつ、農家自らトラクターで迅速・簡単に施工できる穿孔暗渠機。
▼農家がワラ残渣などを使って簡単に排水改良できる有材補助暗渠機「カットソイラー」
農業で発生する収穫残渣や堆肥などの身近な資材を圃場に散在している状態のまま、農家自らトラクターを用いて簡単に農地下層に埋設して、圃場排水性や土壌理化学性を改良できる有材補助暗渠機。
▼V字状に幅広な破砕溝を構築できる全層心土破砕機「カットブレーカー」
従来の営農による心土破砕より深く、表面から70cmまでV字状に幅広く土壌を破砕できる全層心土破砕機。