提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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長野県におけるレタスの機械化一貫体系

2007年11月08日

1.はじめに
長野県は、夏季の冷涼な気候を活かして葉菜類の生産が盛んです。葉菜類のうちでも、大規模栽培が可能なレタス、はくさい、キャベツの葉物3品で、野菜生産額の半分以上を占めています。特にレタスは、夏季の市場の多くを長野県産が占めています。夏の3ヵ月で1年分を稼ぎ出す地域もあり、その時期には生産者が真夜中から投光器の下でレタスを手作業で収穫しています。


newin_retasu_image0.jpg 長野県のレタス生産は明治30年頃に始まり、戦後の進駐軍用の特需向けに本格的な栽培が始まりました。昭和40年代に作付面積が急増し、現在に至っています。栽培方法も、直播きから移植栽培、露地からマルチ、全面マルチ、べたがけ栽培等、栽培技術を駆使して生産量や作期幅を拡大してきました。

 近年、生産者の高齢化や販売価格の低下が進んでいるものの、担い手の生産意欲は依然として高く、今後は意欲の高い担い手による規模拡大が一層進むと予測されます。


 そこで、長野県におけるレタス栽培における機械化について、最近の話題を取り上げて報告したいと思います。


2.レタス栽培機械化の進展
 レタス栽培の機械化は、一般作業である耕起等で始まり、ブームスプレーヤなど防除作業機の開発、普及へと進んできました。また、本県特有の栽培法である全面マルチ栽培の普及に伴い、「土入れ全面マルチャ」が開発されるなど、栽培技術と機械開発が呼応しながら発展してきました。
 その結果、現在ではトラクタやブームスプレーヤなど大型機械、全面マルチャなどの中型機械、そして手作業による移植・収穫作業が入り交じった機械化作業体系ができあがっています。


3.労力不足をカバーする移植機
 全面マルチ栽培用のレタス全自動移植機も、生産現場から開発当初は精度が不十分などと実用に懐疑的な意見もありましたが、開発から10年以上経過し、生産労力の不足をカバーするために、徐々に普及してきています。セル成型育苗が一般的となったことも普及の一要因と見られます。


4.環境を見据えた局所施肥作業機
 現在、地下水や土壌への環境負荷、持続的なレタス生産の観点から、化学肥料の削減が進められています。そこで、化学肥料削減の一つの方法として、局所施肥が試験されてきました。

 局所施肥とは、うねに沿って、その内部にすじ状に化学肥料を施用する方法で、畑全面に施肥する方法に比べて、2割程度施肥量を削減することができます。レタスの全面マルチでは、フィルムの押さえとして土壌をフィルムの上に載せるため、この土壌に含まれた肥料成分は利用されないことからも、局所施肥が肥料成分流亡の抑制に有効と考えられます。


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 この局所施肥を行うには、うねを立てながら、化学肥料をうね内に施肥する必要があり、既存のトラクタ用小型施肥機を利用して、施肥同時全面マルチャの開発を進めています。全面マルチャは作業機が後方に長く、作業時に後方のレバー操作も必要であるため、施肥機の取り付け位置の検討が必要でした。また、施用パイプ内での肥料の詰まり防止など、信頼性の確保も課題でしたが、概ね順調な作業が可能となっています(写真1)。


5.ブームスプレーヤ防除における農薬ドリフト対策
 レタスの農薬散布作業ではブームスプレーヤが用いられますが、いわゆるポジティブリスト制度の発効によって、ドリフト対策が必要となってきています。そこで、噴霧粒径が大きくなる「ドリフト低減ノズル」を用いて葉菜類の防除効果などの確認試験を行った結果、ドリフト低減効果は大きく、概ね慣行のノズルと同等の防除効果が見られました(写真2)。


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 しかし、低減ノズルで防除すれば完璧と言うわけではなく、強風の場合ではドリフトを起こすこと、葉裏への薬液の付着が劣るので防除効果が低下する場合も想定されます。よって、圃場の状況を確認しながら、慣行ノズルの補完として利用することが望ましいと思われます。


6.レタス収穫の軽作業化

 レタス生産において、機械化からとり残されたのが収穫作業で、規模拡大のネックになっていると同時に、長時間、腰を曲げて作業することから作業者への身体的負担が大きく、その解決が望まれています。そこで開発したのが、レタス収穫機です(写真3)。


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 開発したレタス収穫機は、圃場でレタスを切り取った後、すぐに圃場内で段ボール箱に詰める長野県の作業体系に沿っています。

 本収穫機は、4.4kW(6PS)のガソリンエンジンを動力とし、走行方法がゴムクローラ(キャタピラ)の自走式機械。利用できるのは全面マルチ栽培のレタスで、機械はうね2本をまたぎ、うね間を走行します。ゴムクローラなので雨天でも作業が可能です。

 機械のレイアウトは車体の右側に切り取り装置、切ったレタスを持ち上げる搬送装置、外葉を切り直しする調製作業部があります。車体の上部は2段になっていて、下段にはレタスの切り口から乳汁がしみ出る時間を確保する貯留・搬送装置と、その乳汁を洗浄する装置があり、上段は空段ボール箱置場になっています。

 後方には箱詰め作業部を配置し、洗浄されたレタスを選別しながら箱に詰めできます。いずれも、シンプルな構造で、電子制御やセンサーなどは組み込んでいません。


 実際の作業は、基本的に調製作業者と箱詰め作業者の2人で行い、機械の後方に添って歩きながら作業を行います。走行変速はHST(油圧)制御なので、作業者の作業しやすい走行速度に任意で設定できます。作業速度は非常にゆっくりなので、時折うねに沿っているかを確認して、どちらかの作業者が運転操作をすることになります。


1)切り取り
 機械を微速前進させると、機械右側の切取り部がレタスを地際で切ります。
 この時、レタスは外葉がついた状態で、マルチは破りません。切り取る方法は鎌刃による押し切りで、一斉収穫です。原理は、ガイドディスクの円周部がうね表面やレタスの地際に接して回転することで、切断刃がうねの表面とレタス列をなぞることにあります。試験の結果、通常の場合はほとんど損失がなく切り取れることがわかりました。


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 しかし、刃がうねの最も高い位置を滑っていくことから、変形球や、深植え球、玉に残したい外葉がうねの下に垂れている場合(小玉であったり、炎天下でしおれている場合)は、剥き玉になる場合があるので、注意が必要です。また、一斉収穫なので、均一な栽培が必要となります。


2)搬送・調製
 切り取ったレタスは、特殊な搬送ベルトで挟みながら持ち上げられます。

 持ち上げられたレタスを調製者が包丁と手作業で切り直しをして、本体の上の貯留・搬送皿に置きます。作業者は次々に持ち上がってくるレタスを切り直ししなくてはなりませんが、上がってくるレタスの間隔は作業速度によって変えられるので、作業しやすいように作業速度を設定します。

 なお、この作業能率が全体の能率を左右します。これまでの調査では、概ね一球切り直しするのに7秒程度が必要であり、走行速度は秒速3~4cmと非常にゆっくりです。


3)洗浄
 貯留・搬送皿は、回転寿司の皿を想像してもらうとよいでしょう。皿にレタスの切り口を上にして載せると、およそ3分で機械の上を一周するようになっています。一周する間にレタスの切り口から乳汁がしみ出てくるので、箱に詰める直前に水を自動的に噴霧して乳汁を洗い流します。


4)箱詰め
 箱詰め作業者は機体の後方左側に立ち、皿に載って送られてくるレタスを選別しながら箱に詰めます。詰めた箱は、ほ場に置くか、運搬車を伴走させます。


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 能率は、早い場合で1時間2人作業で27箱(搬出除く)できました。
 この機械は、作業者が腰を伸ばして作業ができることと、慣行と同様に、箱詰めまでを圃場内においてできることが大きな特徴です。


7.今後のレタス栽培機械化
 以上のように、レタスの機械化一貫体系のモデルは開発されました。しかし、われわれが開発した収穫機は一部試験的に導入されたものの、一貫体系の普及はこれからです。

 機械化の普及には「コスト」や信頼性、使いやすさと言った「ユーザビリティ」等の課題が常にありますので、今後、機械の情報化などがそれらを克服してくれることを期待したいと思います。


(※画像をクリックすると大きく表示されます)


(執筆者 長野県農業総合試験場 機械施設部研究員 鈴木 尚俊)
(くるみ会情報誌「ニューインプルNo.88」 2006年11月号から転載)