大豆の省力・低コスト・安定生産技術に関する全国現地検討会(熊本県嘉島町・熊本市秋津町、九州沖縄農業研究センター)
2011年11月21日
大豆は「食料・農業・農村基本計画」により、増産が明記されているが、近年は異常気象や難防除雑草等の影響で伸び悩んでいる。そこで、安定供給と天候等に左右されない生産技術の普及・定着推進のため、(社)全国農業改良普及支援協会と九州沖縄農業研究センター主催による「大豆の省力・低コスト・安定生産技術に関する全国現地検討会」が熊本県で開催された。
11月9日、時折雨がぱらつく天候の中、現地見学と室内検討会等が行われ、北は青森から南は宮崎まで、全国各地の普及指導員、JA、機械メーカー等100人程が参加した。
<現地見学>
●大豆カントリー見学
熊本県嘉島町にある六嘉大豆カントリーを訪問。JAかみましきの担当者から、嘉島町におけるブロックローテーションの取り組みの説明を受け、管内約400haの大豆を請け負う大豆共同乾燥調整施設の見学も行った。
熊本県嘉島町では、米の生産調整(減反政策)により、昭和61年から、本格的な水田での大豆栽培が始まった。土地条件、特に土壌が埴壌土で乾田であったため、大豆の栽培に適しており、また集団転作による作付体系が確立され、水系の分離化を行い、水稲と大豆の隔離栽培により、良質な大豆が生産されている。早くからブロックローテーションによる栽培体系を確立し、中耕・培土により除草剤を使わない栽培が広く行われている。
●熊本県大豆奨励品種試験栽培圃場見学
熊本県熊本市秋津町の現地圃場で行われている、県の大豆奨励品種決定調査現地試験と「すずかれん」晩播-密播栽培試験の圃場見学を実施した。奨励品種決定試験では「フクユタカ」と「みさを大豆」を標準播きで、「すずかれん」晩播試験では「すずかれん」の密播と標準播きに加え、「みさを大豆」の遅播の栽培試験を行っていた。
<室内検討会>
九州沖縄農業研究センターにおいて、4名の講師による発表と総合討議が行われた。
●大豆多収化研究の最前線とわが国における課題(農研機構 中央農業研究センター 島田信二氏)
日本とアメリカの天候、土壌状況、管理方法、病害虫対策等を具体的なデータを示しながら、日本における大豆生産の課題と単収向上への提案があった。
●暖地向け大豆品種の育成状況-実需者・消費者・生産者の要望に応える品種育成-(農研機構 九州沖縄農業研究センター 高橋幹氏)
全国的に栽培されている大豆の中でも、特に暖地向けの大豆品種についての紹介があった。新しい品種、これまでに育種した特徴のある品種、開発中の有望系統等について、品種ごとに特徴が説明された。
●全国における大豆300A技術等の取組事例の紹介(株式会社クボタ 機械営業総括部 有原丈二氏)
大豆栽培にあたって、排水対策・雑草防除の重要性について説明があった。最近の異常気象により、圃場が冠水してしまう事態が起こりやすくなる中、排水対策を行っていた圃場では無事に生育できたケースもあり、また、雑草防除をしっかり行うことで機械作業効率の向上した事例等が紹介された。
●熊本県内における大豆栽培取組事例の紹介(熊本県農林水産部農業技術課 田中俊一氏)
熊本県の主力品種は「フクユタカ」で、99%を占めている。品質は着実に向上しているが、大豆栽培面積は減少しつつある。生産拡大や多様化する需要へ対応するため、「すずかれん」の栽培技術確立への取組みや、'みさをプロジェクト(案)'についての報告があった。'みさをプロジェクト(案)'では、在来種の「みさを大豆」を復活させ、優良系統を選抜し、安定栽培を目指している。
発表後には、九州沖縄農業研究センターの松永亮一氏を座長に、総合討議が行われた。会場からは東北の大豆栽培の状況等も報告された。排水対策と同時に干ばつ対策の重要性等も指摘され、活発な意見交換が行われた。
左上 :総合討議
右下 :さまざまな質問が出た、充実した討議となった
<大豆育種圃場見学>
九州沖縄農業研究センターの大豆の育種圃場では「フクユタカ」をはじめとして、「すずかれん」、「キヨミドリ」、「エルスター」、「九州163号」等、さまざまな種類の大豆が栽培されていた。品種ごとに生育結果を確認しながら各品種の特徴の説明を受けた。
<大豆機械展示>
大豆摘心機と色彩選別機が展示され、(株)クボタ担当者から説明があった。
摘心機は生育盛期の大豆の主茎の茎頂を切断する農機で、これにより生育が抑制され、大豆栽培にありがちな倒伏を抑えてくれる。また、色彩選別機は良品大豆とカメムシ病等による不良品大豆や異物を高性能カメラによる色の識別により選別することができる。微小黒点も高精度に選別し、大豆の他に白米、玄米も選別することができる。(みんなの農業広場事務局)