提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


野菜

露地ナス栽培における天敵農薬および土着天敵を活用した微小害虫防除効果の検証(群馬県 平成29年度)

目的

ipmH29_gunma_i1.jpg 露地ナスではアザミウマ類やハダニ類など微小害虫による被害が問題となっている。
 これに対して、近年マリーゴールド等を用いた土着天敵温存による防除効果が確認されているほか、平成27年には露地ナスで天敵製剤スワルスキーカブリダニ、平成28年には露地野菜でミヤコカブリダニが適用拡大となった。
 そこで、露地ナスの微小害虫を対象に、土着天敵温存技術と天敵製剤を併用した防除効果と被害軽減効果について調査を実施する。

地域の概要

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 伊勢崎市は関東平野の北部に位置し、標高40~160mの平坦地にあり、米麦の二毛作と多品目野菜の栽培が盛んな地域である。露地ではナスやゴボウ、ネギなどが栽培され、施設ではナスやトマト、キュウリが栽培されている。
 当地区のナス栽培は、3~7月収穫の無加温半促成栽培と6~10月収穫の露地栽培がある。両作型とも、近年、ミナミキイロアザミウマやハダニ類の薬剤抵抗性発達が問題となっており、半促成栽培では、スワルスキーカブリダニの利用が定着している。また、露地栽培ではヒメハナカメムシ類等の土着天敵の活用を推進していることもあり、天敵利用についての関心は高い地域でもある。

実証ほの概要

(1)耕種概要
 試験区1と2は同一生産者のほ場20aをミニソルゴーによって区分した。管理は同一。
 また、試験区と慣行区は約800m離れた位置に設置した。

表1 各区の概要
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(2)試験方法
① 天敵温存植物の植栽(表2)
 マリーゴールドは4月25日は種(128穴セルトレイ)、5月30日定植とした。(定植約2週間後に開花)
 ソルゴー及びミニソルゴーは、6月上旬は種とした。

表2 各区の天敵温存植物
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試験区(左)と慣行区(右)

② 天敵製剤の利用
 当初の計画では天敵放飼をナスの定植(5月29、30日)から2週間後と予定したが、育苗期(4月27日)にアグロスリン乳剤が使用されたため、天敵の放飼は6月30日(定植4週間後)とした。
 放飼時は微風であったもののナスの葉が揺れるほどではなかった。

表3 使用した天敵製剤
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天敵の放飼

調査内容および方法

●害虫及び天敵の発生状況
●農薬使用状況
●コスト試算

表4 害虫及び天敵の発生状況調査方法
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調査結果

(1)害虫及び天敵の発生状況
1)害虫の発生状況
①アザミウマ類
●ナス葉上
 慣行区では6月に成虫、7月に幼虫の発生が増えた。8月に発生は少なくなったものの、9月上旬から幼虫が再び増え、栽培終了時まで発生が続いた。
 試験区では6月中下旬に成虫の発生が多く、天敵放飼後の7月中旬以降は低密度で推移した。なお、試験区1と2は同様の傾向で推移した(図1)

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図1 ナス葉上におけるアザミウマ類の発生消長

●ナス花
 試験区、慣行区ともに栽培期間を通じてミナミキイロアザミウマが発生した。慣行区では8月下旬以降、試験区では9月下旬以降、ミナミキイロアザミウマの発生割合が高くなった。これは昨年の試験においても、同様の傾向があった。
●マリーゴールド花
 試験区1、2に天敵温存植物として植栽したマリーゴールドの花におけるアザミウマ類の種構成を調査した。7月下旬まではヒラズハナアザミウマ、8月下旬以降は主にコスモスアザミウマが確認された。また、ミナミキイロアザミウマについて、10月下旬に0.15頭/花わずかに確認された。他、キイロハナアザミウマ、クダアザミウマ、ビワハナアザミウマ、トラフアザミウマ等が確認された。なお、発生頭数は栽培期間を通して、ナスの花と比べると多く、特に幼虫の発生割合が高かった。
●アザミウマ類による被害果の推移
 試験区では7~8月にかけて10~20%の被害果が確認された。9月以降に被害果の発生が増加し、10月上旬に試験区1で53.3%、試験区2で36.7%となった。
 慣行区では農薬使用によって被害果の発生率は増減しており、7月下旬に23.3%、9月上旬に53.3%とピークがあった(図2)

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図2 アザミウマ類による被害果の発生率

②ハダニ類
 試験区2では天敵放飼前の6月下旬に高密度の発生が一部下葉で確認された。天敵放飼後は減少し、7月下旬以降は低密度で推移しており被害は確認されなかった。
 慣行区では3.0頭/葉以下で推移したが、試験区と比べるとやや高密度で推移した(図3)

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図3 ハダニ類の発生消長

③ その他害虫
●カスミカメムシ類とカメムシ類
 試験区において、6月下旬頃からカスミカメムシ類による葉の食害痕やカメムシ類による被害果が確認され始め、7月中下旬に発生・被害のピークとなった。8月27日にアルバリン顆粒水和剤を散布してからは被害が減少した。
 慣行区においても、6月下旬頃から同様の被害が確認され始めたが、随時農薬を散布していたため、被害は少なかった。
●チャノホコリダニ
 慣行区では、8月上旬から部分的に被害果と芯止まりが確認され、8月下旬に被害がピークとなり、その後は減少した。
 試験区では9月下旬に一部でガクと果実の被害が確認されたが、被害は広がらず抑えることができた(表5)

表5 チャノホコリダニによる被害果の発生率
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2)天敵類の発生状況
① ヒメハナカメムシ類
●ナス葉上
 試験区では、6月中旬に成虫の発生が確認され、下旬からは幼虫の発生が増え始め、7月中旬に発生のピークとなった。7月下旬には確認されるものの発生頭数は減少し、8月27日のアルバリン顆粒水溶剤を散布後、ほとんど見られなくなった(図4、5)
 慣行区でも、6月中旬から成虫が確認された。ただし、頭数は試験区と比べ少なく、0.1頭/葉以下となった。

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図4 ナス葉上における天敵の発生消長(試験区1)

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図5 ナス葉上における天敵の発生消長(試験区2)

●ナス花
 成虫と幼虫の発生割合について、幼虫の発生が6月には試験区1で75%、試験区2で33%となり、7月には試験区1で79%、試験区2で100%となった。8月下旬以降は発生が確認されず、9月下旬と10月下旬にわずかに確認された。
 慣行区では、成虫の発生が6月下旬に100%、7月下旬に60%となったが、8月下旬以降は確認されなかった。
●マリーゴールド花
 成虫と幼虫の発生割合について、幼虫は6月下旬に試験区1、2ともに75%、7月下旬には試験区1で77%、試験区2で57%となった。8月下旬・9月下旬以降は確認されなかったが、10月下旬にわずかに確認された。

② カブリダニ類
●ナス葉上
 天敵放飼後、7月中旬から下位葉の一部でわずかに確認され始め、8月下旬に発生のピークとなった。その後も1.0頭/葉以上定着した。なお、発生部位について、7月~8月上旬は下位葉で50%以上が確認され、8月下旬以降は、中・下位葉で30~40%程度、上位葉で20~30%程度と、株全体で定着した。なお、試験区1、2では同様の傾向となった。(図4、5)
●ナス花
 8月下旬から確認され始めたが、9月の試験区1で0.8頭/花を確認されたことを除くと、栽培期間を通して0.4頭/花程度確認された。
●マリーゴールド花
 ナスの花よりも早い7月下旬にもカブリダニ類が確認され、8月下旬以降は、0.6頭/花程度が確認された。

(2)農薬使用状況(育苗期間除く)
 試験区では、天敵放飼2週間前に防除を行ったが、害虫発生密度を低下させることはできなかった。しかし、天敵放飼後は、葉上の害虫が少なく推移したこともあり、農薬使用回数を月1回程度に低減させることができた。
 慣行区では、葉上に害虫の発生やチャノホコリダニの発生が続いたため、月2~3回の農薬散布を行った。

表6 農薬使用回数比較
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(3)コスト試算
 防除回数について、試験区では慣行区の50.0%に抑えることができ、散布労力は大きく軽減できた。
 使用薬剤について、試験区では、慣行区と比べ、殺虫剤数39.2%、殺菌剤数40.0%に抑えることができた。
 また、労賃を含む化学農薬及び天敵製剤の防除経費は、慣行区と比べ、試験区1で80.4%に抑えられた。しかし、試験区2では100.1%と増加した(表7)

表7 防除経費比較
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※労賃:1000/時

結果考察および今後の課題

 試験区と慣行区のほ場位置を比較すると、試験区は水田に囲まれた位置にあり、草丈2m以上のソルゴーで囲われていたため、十分な湿度が保たれたように思われる。対して、慣行区の周囲にはミニソルゴーを設置したため、風通しのよい乾燥しやすい条件であった。
 スワルスキーカブリダニ及びミヤコカブリダニの放飼について、3年間の試験から、放飼時や放飼直後の天候不順による定着への影響は少なく、8月ごろから増加していく傾向がみられた。
 試験区において、6~7月は葉上にアザミウマ類が多発したものの、ヒメハナカメムシ類が定着し、防除効果が確認された。8月以降はカブリダニ類が定着し、十分捕食していたと思われる。また、ハダニ類の発生について、試験区1とミヤコカブリダニを導入した試験区2では、ハダニ類の発生に差が見られなかった。土着天敵のハダニアザミウマやタマバエ類の発生が多くあったことから、これら土着天敵の捕食によるハダニ類の防除効果があったと考えられる。慣行区では、随時、薬剤防除を行っていたが、前述のとおり、乾燥しやすい条件ということもあり、アザミウマ類・ハダニ類の発生は続いた。

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ヒメハナカメムシ類(左)とカブリダニ類(右)

 しかし、ナスの花では、ミナミキイロアザミウマは生育期間を通して発生しており、試験区でも被害果の発生が続いた。ほ場外から成虫が飛来することやカブリダニ類が1.0頭/花以上確認できないことを踏まえ、被害果をゼロにすることは難しいと思われる。ただし、今年度は県内の他地域においても9月以降のミナミキイロアザミウマによる被害果が多発した状況でもあった。
 また、ヒメハナカメムシ類を活用することで、ネオニコチノイド系殺虫剤の使用を控えたため、カスミカメムシ類やカメムシ類の発生が増えてしまい、葉の食害や果実被害が多数発生した。過去2年の結果も同様であったことから、ほ場の被害程度に合わせた、ネオニコチノイド系殺虫剤の選択や使用のタイミングを検討する必要がある。

提案するIPM防除体系

 3年間の試験結果から、マリーゴールドを活用した土着天敵とカブリダニ類の放飼天敵を組み合わせた防除体系は有効であると考えられる。ただし、カスミカメムシ類やカメムシ類の防除を含め、薬剤による防除も同時に活用していかなければならない。
 また、資材費も高価であるため、経営状況に合わせた選択が必要になる。これらを踏まえ、簡易マニュアルを作成し、生産者に情報提供して推進していく。

(平成29年度 群馬県中部農業事務所伊勢崎地区農業指導センター、群馬県農政部技術支援課)