提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


転炉スラグを用いた土壌pH矯正によるホウレンソウ萎凋病の被害軽減

2016年01月28日

背景とねらい
 ホウレンソウ萎凋病は、夏どりホウレンソウの安定生産阻害要因として全国各地で問題となっています。本病の防除には土壌消毒が有効ですが、作業労力やコスト等の問題からすべての被害圃場で受け入れられている状況ではありません。一方で、土壌伝染性のフザリウム病害は土壌pHが高まるにつれて発病が減少することが知られています。

 そこで、市販の土壌酸性改良資材である転炉スラグ(商品名:てんろ石灰)の土壌施用によって、フザリウム病害である本病の被害軽減が可能か検討した結果、転炉スラグを用いた土壌pH矯正によって発病を軽減できることを明らかにしました。


開発した技術の特性
 ホウレンソウ萎凋病発生圃場に転炉スラグを処理し、作土深10cmまでの土壌pHを矯正することで、本病の被害を軽減することができます(表1、図2、図3)
 ただし、土壌pHが8を越えると生理障害(根の生育が悪くなる、葉色が淡くなる)が発生しやすくなるので、目標土壌pHは7.5とします(表1、図1)
 この技術による生育・収量に対する負の影響は認められませんでした(図4)。また、転炉スラグ処理による土壌中のフザリウム属菌の密度への影響は認められませんでした。


表1 転炉スラグ処理量が萎凋病の発病及びホウレンソウ生育に及ぼす影響(隔離床試験)
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図1 調査時における生育状況(隔離床試験)


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図2 現地試験における発病状況


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図3 現地試験における発病調査結果(左:地上部発病度、右:根部発病度)
・地上部発病指数0:発病を認めない 1:下葉の1-2枚にしおれがある 1:葉の3枚以上にしおれがある 3:全身萎凋または枯死
・根部発病指数0:導管褐変無し 1:一部導管が褐変 2:導管の約半分が褐変 3:導管のほとんどが褐変
・発病度=Σ(程度別株数×指数)×100/(調査株数×3)

※土壌pH矯正区では処理後3作目まで地上部および根部の発病を抑制した。


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(エラーバーは標準偏差を示す)
図4 現地試験における生育調査結果(調製重)
※土壌pH矯正区では、処理後3作目まで生育や収量に対する負の影響は認められなかった。


目標土壌pHの決定方法と混和方法
 転炉スラグは、土壌pHをあげても微量要素欠乏がでにくい土壌酸性改良資材です。被害軽減効果を発揮するためには、目標土壌pHとして7.5が推奨されます。
 土壌pH矯正深は10cmで効果が得られます。土壌pH矯正深を15cmや20cmとしても問題ありませんが、15cmでは処理量が1.5倍、20cmでは2倍になるので、費用および散布労力の負担も大きくなります。

 なお、投入量を決定する際は、圃場ごとに土壌緩衝能曲線(村上圭一・後藤逸男(2008)、アブラナ科野菜根こぶ病防除のための転炉スラグ施用量簡易決定法、関西病虫研報50: 97-98)を作成します。


 転炉スラグは、小面積の雨よけホウレンソウ圃場の場合には、手散布(図5)で対応できます。散布後は一般的なロータリで耕起・混和しますが、矯正深10cmとした場合は、できるだけ浅耕とします。処理2~3週間後に土壌pHを測定し、深度0~10cmの表層土壌が目標土壌pHになっていることを確認します。目標土壌pHに到達していない場合は、転炉スラグを追加処理します。


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図5 転炉スラグの散布作業


留意事項
(1)今回実施した現地試験では、萎凋病が特に問題となる6月~9月の作型を考慮し、5月上旬に転炉スラグ処理を行い、その後の3作について萎凋病の発病および生育状況を調査しました。

(2)土壌中のMg0含量が低い(40mg/100g以下)圃場では、転炉スラグ処理と同時に苦土肥料も施用し、マグネシウム欠乏症の発生を抑制します(目安:水酸化苦土肥料(水マグ)でおおむね100kg/10a)。

(3)処理費用は、転炉スラグ処理量が2t/10aの場合でおおむね6万円です。

(4)土壌pH矯正深は10cmなので、深層土壌との混和による土壌pH低下を避けるため、圃場耕起の際はできるだけ浅耕とする必要があります。

(5)現地試験の中で、塩類集積圃場(高ECなど)において効果が得られない事例がありました。再現試験(ポット試験)を行ったところ、高EC土壌では転炉スラグ処理により生育抑制が助長されました(図6、図7)。そのため、この技術の導入を検討する場合は、土壌分析を実施した上で判断することとし、塩類集積の程度が高い圃場では、冬期間のハウス被覆除去など、過剰蓄積した塩類の排除に努めてください。


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図6 EC別土壌における生育状況(ポット試験)


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(エラーバーは標準偏差を示す)
図7 EC別土壌における播種27日後における生育調査結果(ポット試験、左:草丈、右:葉数)。未矯正区はpH5.9~6.1、矯正区はpH7.5


(6)転炉スラグ以外の土壌酸性改良資材のみで土壌pHを矯正した場合に、同様の被害軽減効果が得られるかは不明です。

(7)圃場で発生している病害が萎凋病であることを確認してください。萎凋症状を示す他病害への被害軽減効果は不明です。


まとめ
 転炉スラグを用いた土壌pH矯正によってホウレンソウ萎凋病の被害軽減が可能であることを明らかにしましたが、一方で、塩類集積圃場での適用が難しい等の問題点も明らかとなりました。
 この技術がどのようなメカニズムにより病害の被害軽減に結びついているかは未解明ですが、目標土壌pHや土壌pH矯正深、効果の持続年数を検討する上でも解明が求められています。

 転炉スラグを用いた土壌pH矯正技術は、各種土壌伝染性フザリウム病のほか、キュウリホモプシス根腐病やアブラナ科根こぶ病などの実用的な被害軽減対策として活用できることが明らかとなりつつあります。この技術は、土壌消毒剤に頼らない、新たな土壌病害対策技術となり得ると考えられています。
 なお、これは農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業「転炉スラグによる土壌pH矯正を核としたフザリウム性土壌病害の耕種的防除技術の開発(課題番号:24015)」の中で試験を実施した成果です。研究成果集を以下で公開しています。


転炉スラグによる土壌pH矯正を核とした土壌伝染性フザリウム病の被害軽減技術 -研究成果集-


執筆者
岩手県農業研究センター環境部病理昆虫研究室
小山田 早希