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少量多品目生産の強みを生かし、フルーツの里が挑戦する地域産業

2017年3月 6日

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山口成美さん (長崎県大村市 農業生産法人 (有)シュシュ)


 「ちょっと昔の話...地元のむらおこしに情熱をかたむけた8人の青年達がでっかい太陽のあって、こげんよか土と、こげんよか水で、こげんよか農産物の穫れるとやけん、こいで福重ば元気にしようで!!ってなわけで、シュシュはたんじょうしたのであります。」
 「おおむら夢ファームシュシュ」のパンフレットは、こんな文章ではじまる。


少量多品目の生産と観光農業でやってきた福重地区
 「おおむら夢ファームシュシュ」は、長崎県本土のほぼ中央部、大村市の福重地区にある。周囲を果樹園に囲まれた丘陵地帯。大村湾を見下ろす小高い丘の上に、ログハウス調の交流体験施設、売り場面積約200㎡の直売所「新鮮組」、アイスクリームやパン、洋菓子の工房、加工センター、「ぶどう畑のれすとらん」、観光いちご園が並ぶ複合型の農業交流施設である。 


 同施設がある福重地区は、大村市の北部に位置し、人口 約3903人(平成27年12月1日現在)で、農業が盛んな地域である。ナシ、ブドウ、ミカン、花、野菜等が生産されている。
 とくに観光農園の歴史は古く、40年ほど前から力を入れてきた。「フルーツの里ふくしげ」を合言葉に、農家はナシ園、ブドウ園などを展開。8〜9月の2カ月間は、4万人を超えるたくさんの人々でにぎわった。

 しかし、かき入れ時はその2カ月のみ。もともと傾斜面に農地が点在し、産地化して共販に出すほどの品目もない。少量多品目の生産と観光農園という農業経営の中、高齢化に伴う遊休農地の増加が課題となった。量のまとまらない農産物は、市場でも価格が安定しなかった。
 このままでは地域が衰退してしまうと危惧した福重地区の有志40名は、「農業農村活性化協議会」を結成。「少量多品目だからこそ、大きな市場ではなく、直売所での対面販売を」と、平成8年に農産物直売所「新鮮組」をビニールハウスで開設した。


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 :直売所「新鮮組」の店内。こじんまりしているが木目を使った温かみある作り
 :直売所の入口では、従業員の女性が書いたイラストが出迎えてくれる


 「福重は、観光農園でやってきたという土台がありましたから、いい品物さえ作れば、安定した収入が得られるようになる。そして、価格も自分でつけられるという経験を有志は持っていた。6次産業化でいうなら、加工はしてなかったけれど、1次と3次の芽はあったから、直売所は考えやすかった。観光農園だけでは、どうしても新しい産地に負けてしまう。マスコミもお客さんも、新しいものを追いかけますから」というのは、常務取締役の山口純典さんだ。

 翌年の平成9年、地域で生産されるジャージー牛乳や農産物を生かし、規格外品も有効活用しようと農産加工にも着手する。「手作りジェラート シュシュ」がその皮切りだった。平成10年には農家8戸で、地域活性化の拠点であり、6次産業の確立と農業後継者の育成を目的にした(有)かりんとう(平成15年に(有)シュシュに社名変更)を設立、平成12年に「おおむら夢ファームシュシュ」をオープンした。


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 :おおむら夢ファームシュシュは、大村湾を臨む小高い丘の上にある。「シュシュ」はフランス語で「お気に入り」の意
 :パン工房のパンにも地元の食材が使われている


農家の所得を上げる地域商社としての役割
 「地域農業の活性化に確かな手ごたえを感じる」と山口成美代表取締役社長。地域の生産者の所得は確実に向上している。直売所「新鮮組」の売上高は約3億円(平成26年度)。出荷する170名のうち年間販売額が1000万円を超える生産者が4名。500万〜1000万円が10名もいる。生産者の平均売上高は165万円である。

 さらに、農家の副収入につながっているのが農産加工だ。年平均30戸の農家から年間約100tの加工用野菜・果実を受け入れている。主力の加工品である「黒田五寸人参ジュース」は、当地で守りつづけてきた在来種「黒田五寸」を使ったもの。味はいいが裂果しやすいデリケートな品種だが、その規格外品を幅広く受け入れることで、1農家あたり年間50万円ほどの所得につながった。さらに、フルーツの里らしく、多様なカンキツ類やナシ、ブドウ、トマトなどの加工用果実・野菜も引き受け、ジュースやジュレとして加工・販売し、さらに、同社の洋菓子やパン、アイスクリームなどの原料にもして売上を農家に還元している。


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 :シュシュが主催する「農業塾」の卒業生「農の匠集団」の無農薬野菜コーナー
 :看板商品の黒田五寸にんじんジュース。砂糖不使用で濃厚な甘みとすっきりした後味が特長


地域産業を成功に導く秘訣とは
 山口社長の話からは、シュシュがさまざまに創意工夫しながら、直売所やレストランを経営する様子がうかがえる。
 直売所「新鮮組」では、お客さんの多い週末にも品切れさせない工夫がある。生産者はおもに半径2km以内に住んでおり、売れ行きをメールで配信し、商品がなくなる前に何度も運んでもらう。

 さらにレストランの食材は、毎朝スタッフが直売所で定価購入。翌日まで持ち越せない半分に切ったカボチャなどは、レストランで使うことによって有効活用する。さらに、直売所で取り扱うジャムやドレッシング、食べ方を知られていない新しい野菜なども、バイキング形式のレストランで気軽に食べてもらえる。山口さん曰く、レストランは「有料試食の場」でもあるのだ。


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ぶどう畑のレストランでは、直売所で販売する野菜を使った地産地消の家庭料理をバイキング形式で提供している


 また、従業員72人中8割が女性であり、部門リーダーもほとんどが女性で、その視点を大事にしている。買い物や飲食での主役は女性だからだ。女性らしいきめ細かさで、商品を搬入する農家から畑の様子を聞き、売り場では、商品を説明しながら生産者の思いを伝えている。レストランのメニュー開発や各種商品開発にも、女性の視点は欠かせないという。


確かなものづくりと経営を学ぶ必要
 山口さんは畜産農家であり、JAの営農指導員だった経歴を持つ。現在は、国の6次産業化の認定審査員も務めている。
 「何かやらなくてはという危機感から、6次産業化の事業申請はするけれど、実際のところは、何をしたらいいかわからないまま補助金をもらおうとしている生産者も見うけられる。規格外品を生かすためにと、やみくもに農産加工をすすめるのもいかがなものか」と山口さんは言う。確かなものづくりを教える人、そして農業経営とは違う加工業の経営を教える人が少ないことも問題だ、とも指摘する。

「事業の申請書は『規格外のトマトを利用する』でいいけれど、規格外のトマトを3割出すようでは、おいしいトマトジュースは作れません。本当においしい青果を作ることができてこそです。手を抜く人には農産加工は無理。加工には加工の苦労があり、賞味期限が1年なら、1年のおいしさや安全を保証せねばならない。そして売れるまで現金は入らない。バラ色の6次産業の話ばかり聞いて百貨店等と商談をしても、買い叩かれたり、返品の山に泣くことになります」


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 :卵も牛乳も生産者名がわかるプリン
 :地元のフルーツなどフレッシュな素材を生かしたジェラート工房は平日から大人気


 そして、「肝心かなめは、やはり生産。定年後の生きがい農業も大事ですが、後継者資金を借りてでもハウスを建てて、嫁さんと一緒にがんばろうという農業者を育てていかないと、日本の農業は守れない」とも言う。
「6次産業化は、地域農業を維持し、つなげていくためにある。生産する農業だけでは充分な収入にならない人も、それをカバーするために、加工業、販売業、サービス業、観光業などを組み合わせる。消費者と交流しながら、農業の魅力を伝え、買い支えてもらう仕組みをつくる。時代を読みながら、これからもチャレンジし続けます」(森千鶴子 平成27年11月4日取材 協力:長崎県県央振興局農林部大村・東彼地域普及課)
●月刊「技術と普及」平成28年2月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載

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TEL 0957(55)5288