提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


付加価値を生む取り組みで、ブランド力を強化 おいしさと安全性の追求と、持続可能な農業の実践

2018年03月02日

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田村 透さん(岩手県一関市藤沢町 (株)アーク)


 藤沢町に、敷地面積100haに及ぶ館ヶ森アーク牧場がある。ゆるやかな丘陵地帯には各種の施設があり、訪れる人を迎えている。
 養豚事業からスタートし、ハム・ソーセージの製造販売、観光牧場の運営、堆肥製造・リサイクル事業などを展開。手づくり(有)館ヶ森ハム工房、有機肥料の製造販売を行う(株)若葉を含むグループ会社全体で100名強の従業員がいる。


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広大な牧場内には、さまざまな施設が点在している


「食はいのち」を理念に掲げて
 創業者の橋本輝雄氏は、大学を卒業して25歳の時、地元の埼玉県深谷市で父親とともに(有)橋本ファームを立ち上げた。母豚30頭の一貫経営から始め、5年間で母豚200頭にまで拡大。さらなる規模拡大のため新天地を求め、全国各地の候補地から東磐井郡藤沢町(現在の一関市藤沢町)の土地を選んだ。
 昭和50年、(有)橋本ファーム岩手牧場を設立し、母豚300頭の一貫経営から10年で母豚1000頭規模に成長。その中で、輝雄氏と妻の志津氏は「自分の愛する家族に安心して食べさせられるもの。そういうものだけ作ること。そうすれば、自信を持ってお客様に食べてもらえる」との想いを強くした。同社の理念「食はいのち」は、その想いを表したものである。

 昭和60年には、手作りハム・ソーセージ事業に取り組み始める。自分たちが飼育したおいしい豚肉を、さらにおいしいものにして多くの人に食べてほしい。そう考えたのがきっかけだった。昭和61年には「手づくり(有)館ヶ森ハム工房」を設立。設備はドイツから購入し、ハム・ソーセージの製造技術者もドイツから招いて技術習得に励んだ。


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 :スタッフの熱い想いが生んだ無添加ソーセージ
 :高い志と確かな技術が、無添加でのソーセージ生産を可能にした


ファームマーケット構想を具現化する
 養豚と手作りハム・ソーセージの製造が軌道に乗り始めたころ、藤沢町で国営の農地開発事業が始まる。そのうちの100haの農地を任されることになり、4年間の土作り期間を経て、平成4年に「館ヶ森アーク牧場」が誕生。アークとはヘブライ語で「方舟」を意味する。旧約聖書に出てくる「ノアの方舟」に、この牧場の使命である「日本の農業を未来に残す」を重ねて名付けたという。創業者の輝雄氏はここで、「ファームマーケット」の具現化に乗り出す。生産のみにとどまっていた農場を、消費者が訪れて楽しめる場にしようという考え方が、ファームマーケット構想。21世紀の農業・農村のあるべき姿を「つくる農業、売る農業、見せる農業、楽しむ農業にすること」と夢を描いた。輝雄氏は平成13年に病気のため他界したが、その遺志はスタッフに受け継がれている。


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 :牧場内のすべての生産物と、地場産品を取り揃えた「ファームマーケット」
 :牧場で育てたこだわりの館ヶ森高原豚の精肉、ハム・ソーセージは、牧場内のファームマーケットでも販売している


 ファームマーケット構想に基づいて整備された牧場内には、牧場産の豚肉や産みたての卵、採れたての野菜を使った料理が味わえるレストラン、ハーブガーデン、牧場産の商品や地元の名産品を販売するファームマーケット、ポニーやウサギなどの動物と触れ合える広場、花畑などがあり、さまざまな楽しみ方ができる。手づくりのソーセージ、パンなどを作る体験教室も好評。平成25年から開催されている「作りたてのソーセージと焼きたてのパンをビールやワインで楽しむ会」も全国から参加者が集まり、リピーターが後を絶たない。産みたての有精卵の収穫や野菜の摘み取り体験の後、ゆったりと食事を楽しむという企画で、平成28年は3回開催。同社の取締役牧場事業部本部長兼経営企画室室長の田村透さんは、「私たちのこだわり、理念を理解していただき、ファンをつくっていくことが目的です」と語る。


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 :牧場内の素材を使ったおいしい料理が堪能できる「レストラン ティルズ」
 :見頃のシーズンには圧巻の景色が広がる「ラベンダー畑」


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 :来場者が動物と触れ合えるコーナーもある
 :ハーブの香りを楽しみながらゆっくり散策できる「薫る風のガーデン」


高い志から生まれた生産品の数々
 館ヶ森アーク牧場が生産するブランド豚肉「館ヶ森高原豚」は、アメリカから導入した種豚「バブコック・スワイン種」を日本向けに育種改良した品種。赤身の柔らかさと旨味、脂身の旨味と甘みが味わえて、肉特有の臭みがなく、しまりが良いのが特徴だ。生産性では多品種に劣るが、安心・安全でおいしい豚肉づくりに価値を見出し、この品種を使用。館ヶ森高原豚は牧場内のファームマーケットでの直売、通信販売のほか、量販店やスーパーなどの小売店、飲食店にも出荷されている。また、牧場内の「自然食レストラン ティルズ」で提供されるメニュー「厚切りとんかつ」は、揚げ油のラード、パン粉、卵なども牧場産を使用したこだわりの一品だ。そして、さらなるチャレンジから誕生したのが、放牧豚「館ヶ森高原豚 プルミエ・クリュ」。あえて非効率でリスクの高い放牧飼育を行うことにより、豚肉本来の食感と味を引き出したブランド豚だ。


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 :放牧豚「館ヶ森高原豚 プルミエ・クリュ」は、出産から出荷まで放牧飼育されるほか、飼育環境にさまざまな特色を持たせて誕生したブランド豚
 :館ヶ森高原豚のモモ肉は、臭みのないまろやかな赤身のおいしさが味わえる


 「食はいのち」の理念は、手づくりハム・ソーセージにも貫かれている。ドイツ人マイスター、ユルゲン・シュミット氏の指導のもと、技術を習得したスタッフは、添加物に頼らないハム・ソーセージ作りへの挑戦を決意。新鮮で上質な豚肉を100%活かし、保存料、着色料、結着剤、化学調味料、増量剤、発色剤を使用しないハム・ソーセージは、素材本来の味と食感が堪能でき、安全性も保証され、多くのファンに支持されている。ドイツDLG(国際ハム・ソーセージ品質協議会)やSUFFA(ドイツ食肉製品コンテスト)で金・銀・銅賞を受賞するなど、本場の評価も高い。
 広大な大地を走り回って育った鶏の有精卵は、「昔たまご」の商品名で販売。牧場オリジナルの堆肥を使用した無農薬有機栽培による南部小麦や野菜類は、レストランでの調理、豚まんやパン・スイーツの製造、直売や通販を通じて消費者に届けられている。


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 :放牧、厳選した飼料など、徹底的にこだわった鶏から生まれた「昔たまご」は、臭みがなく、コクと甘みがあるのが特徴
中:半生カステラ「パン・デ・ロウ」にも「昔たまご」をたっぷり使用
 :放し飼いに適している品種を探し求めて行き着いたのが、オランダ原産の黒鶏「ネラ」


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 :館ヶ森高原豚、牧場内で収穫する無農薬有機小麦を使用した豚まん。もっちりとした皮が大好評
 :牧場産の昔たまご、無農薬有機栽培した小麦をぜいたくに使用した菓子類


ブランドイメージを高める戦略
 平成25年4月には、全国でも数少ない農場HACCP認証を取得。厳しい認証基準をクリアするのは容易ではないが、「ブランディングを進める上で、さまざまな問い合わせに対して準備をしておく必要がありますし、従業員が肌感覚でやっていたことがマニュアル化されることで、高い品質を安定してお客様へお届けできるという効果もあります」と、田村さんは取り組みの意図を説明する。平成28年7月には、昔たまごの生産管理でも農場HACCP認証を取得。放し飼いでのHACCP認証は難しいといわれる中、日本初の快挙となった。


 今後の方向として「お客様に永くご愛顧いただきたい」と語る田村さん。そのためには、付加価値を生む取り組みを支える優秀な人材が重要である。新卒採用は十数年前から継続しているが、近年さらに力を入れており、全国から集まる志望者の中から3〜4名を雇用。一方で、有機農業を実践する牧場の管理は手間がかかるため、草刈り等を高齢者に頼むなど、地元住民の担う力も大きい。人を大切にし、地域貢献を果たしながら、より一層のブランド力強化を目指していく。
(ライター 橋本佑子 平成28年10月17日取材)
●月刊「技術と普及」平成29年2月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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