提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


「お客様に本物の乳製品を」小さなジェラート店が人気のスイーツ&チーズショップへ急成長

2018年01月09日

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古株 昇治さん、明子さん (滋賀県蒲生郡竜王町 有限会社古株(こかぶ)牧場)


 古株牧場がある竜王町は琵琶湖の南、県中心部に位置する。東西を山にはさまれ、日野川をはじめ多くの河川が流れ、肥沃な大地が広がるところだ。

 この竜王町で昭和28年から酪農を始めたのが、古株昇治さん(有限会社古株牧場 代表取締役)の父・昇蔵さん。昇治さんが引き継いで酪農と水稲栽培に取り組み、平成9年からは妻・明子さんの発案で、近くの農業観光施設にソフトクリームの委託販売をスタート。「古株牧場のソフトクリームはおいしい」と評判になり、平成17年には牧場の一角にジェラートとソフトクリームの店「湖華舞(こかぶ)」をオープン。たちまち地域の人気店になった。
 今では3人の子供たちも加わり、牛乳、スイーツ、チーズなど乳製品、肉用牛などを扱う法人として地域農業活性化の一翼を担うまでに成長した。肉用牛部門は長男の治明さん、ジェラート部門を長女の明美さん、チーズ製造を次女つや子さん、経理を治明さんの妻が担当。それに店舗スタッフが3人、パートが20人という人員構成だ。

 
複合経営のメリットを活かした牧場経営
 古株牧場の経営規模は酪農40頭、肉牛約400頭と、水稲、麦、大豆が32ha。各部門が連携することで、複合経営のメリットを活かした経営が行われているのが特徴。田んぼから酪農・肉用牛へ飼料用米と稲わらを、田んぼや畑には堆肥を供給。酪農は乳製品加工の原料を供給するとともに、肥育素牛も産みだしている。生産現場は昇治さんと長男の治明さんのほか、5人の常時雇用スタッフが働いている。
 昇治さんは、牛糞尿を活用した堆肥による有機栽培米と飼料用米の栽培に取り組んでいる。地域の水田が放棄されることに危機感を抱いており、「田んぼ仕事ができない人が増え、気がつけば請け負っている面積は30haを超えている」という。
 平成28年度からは「田んぼオーナー制度」をスタートさせた。田植え、草取り、収穫体験をしてもらい、作業が終われば、焼き立ての石窯ピザやジェラートを食べるイベントを開催。兵庫県や京都府から30人余りが参加している。「田んぼと酪農は共存共栄の関係にあり、牧場で出る牛糞はほとんど堆肥になっています。酪農経営に負担のない、循環型農業です」と昇治さんは語る。


牛乳からジェラート、スイーツ、そしてチーズ作りへ
 現在、「湖華舞」の商品は、しぼりたての牛乳、ジェラート、スイーツ、チーズが中心だ。店内にはイートインスペースがあり、ランチが楽しめる。ジェラートやソフトクリームをテイクアウトするお客さんも多い。取材は平日の午後であったにもかかわらず、店はお客さんでにぎわっていた。


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左 :牧場横に建てられたお洒落な店「湖華舞」
右 :評判のソフトクリームは甘すぎずさっぱりとした味


 「生産調整で余る牛乳を何とか活用できないか」。明子さんの悩みを解決したのがソフトクリームとアイスクリームの委託販売だった。
 平成17年に自前の店「湖華舞」をオープンさせたのは、「牧場まで足を運んでもらって、しぼりたての牛乳を飲み、新鮮な牛乳を使ったジェラートを食べてもらいたい」という思いがあったから。開業と同時に多くのお客さんがつめかけ、「寝る間もないくらい忙しくなりました」と明子さん。次いで、別の仕事に就いていた長女の明美さんがスイーツ作りに取り組むようになり、ノウハウを学んで店でスイーツ販売をスタート。こちらもたちまち評判になった。


 次女のつや子さんは当初、ジェラートとスイーツ製造の補助をおこなっていたが、お客さんから「ぜひ、チーズも作ってほしい」という要望が高まり、本場フランスに留学してチーズ作りの基礎を学んだ。「フランスで、温度やpHなどの数値を気にしていたのですが、チーズ農家の方に『チーズは農作物よ』と言われ、『そうか、うちの牧場で、私にしか作れないチーズを作ればいいのだ』と思ったのです」。


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左 :チーズ製造責任者のつや子さんは広報担当も担う
右 :ジェラート、ケーキ、チーズが並ぶ店内


チーズを使ったピザ販売で新たな展開
 「チーズを店頭に並べて販売したのですが、当初は売り行きがあまり伸びなくて、中にはケーキと間違えて購入されるお客様もいた。どうしたらふだんの食生活に取り入れてもらえるかと考え、ピザなら認知度も高いし、手軽に食べてもらえると思った」。つや子さんはピザ作りを開始。試作を繰り返し、1年越しでようやく満足のいくピザが完成した。ピザ1枚あたりに使用するチーズの量は約50g。その生乳量は約500~600ccで、自社消費率の拡大が望める上、ピザ販売で飲食部門の新たな開拓へとつながる。

 そのためには、ピザを焼く本格的な窯が必要となる。東近江農業普及指導センターの協力を得て、平成25年から計画書作りを始め、翌26年2月に6次産業化の認定を受けた。また、平成27年には施設の拡充とあわせ、ピザの石窯やその他の加工機を増設した。


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左 :さまざまなチーズの用途をお客様に説明して販売
右 :チーズを作りピザを焼く体験型ランチも人気


 自家生乳と地元野菜をふんだんに使った「石窯ピザ」は、「湖華舞」での飲食のほか、急速凍結・真空包装されたテイクアウト商品として人気を集めているが、「チーズ作りとピザ作り、石窯で焼き上げて食べるという体験型の飲食も展開しています。こうしたことを通じて、乳製品に関心を持ってもらえる取り組みに力を入れています。ひいてはそれが<食育>につながれば、という思いがあります」と、つや子さんの目が輝く。


地に足を着けた農業を営む
 「湖華舞」では、姉妹が考案・調理するランチが大人気で、予約が必要なほど。チーズをはじめ、野菜も牛肉もすべて自社製を使用したメニューだ。「古株牧場があるから、わざわざ行きたいと思ってもらえる店にしたい」と、つや子さんは語る。


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左 :女性スタッフが加工品の生産を担当
右 :イートインスペースはいつも子供連れでいっぱい


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左 :しぼりたての牛乳は85℃で15分殺菌する
右 :牛たちの健康管理には十分すぎるほど気を配る


 明子さんがジェラートを牧場の一角で直接販売したのは、「牧場に来て新鮮な牛乳などを口にしてもらいたい」という思いだった。つや子さんも、「店に来てピザをはじめとした商品を楽しんでほしい」と語るように、お客さんに牧場に来てもらいたいという思いが強い。
 「地に足を着けた農業」とは、古株牧場に人々が集い、食を楽しみ、食べることで幸せになること、そして新たな出会いの場の創出ともいえるだろう。つや子さんは、「長年両親がこの地でやってきたことを私たちが受け継いでいく。ここから離れることなく、お客様にここに来てもらい食べてもらうことが大事」と語る。
 「地に足を着けた農業」という言葉を胸に、古株牧場の皆さんが地域農業をこれからもしっかりと支えていくことだろう。(上野卓彦 28年8月1日取材 協力:滋賀県東近江農業農村振興事務所農産普及課)
●月刊「技術と普及」平成28年12月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


有限会社古株牧場 ホームページ
滋賀県蒲生郡竜王町大字小口字不動前1183-1
TEL 0748-58-2040


湖華舞
【営業時間】10:30~18:00(夏季10:00~、冬季~17:00)
【定休日】毎週水曜日