提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


自慢のチーズケーキで海外展開 北海道と牧場の魅力を世界中に届けたい

2017年12月11日

201711_yokogao_fd_1.jpg
海野 泰彦さん、めぐみさん(写真左) (北海道厚岸郡浜中町 有限会社ファームデザインズ)


 北海道道東に位置する浜中町。霧多布湿原や牧草地が広がり、美しい自然に恵まれている。北海道屈指の酪農地帯でもあり、高品質生乳の生産地として有名だ。
 この地で海野泰彦さん、めぐみさん夫妻は、新規就農から牧場経営を開始した。さまざまな苦労を経て理想の牧場を作り上げ、平成12年にカフェレストラン「ファームデザインズ」をオープン。看板メニューのチーズケーキは全国の百貨店催事で人気を博し、現在はタイ・バンコクに多くの支店を展開している。


試行錯誤を重ねた経営
 海野さん夫妻は帯広畜産大学出身。泰彦さんは卒業後農協に就職、働くうちに自分の牧場を持ちたいと思い始めた。「私も酪農がやりたくて北海道へ来たので、2人でがんばってみようと決めました」(めぐみさん)。浜中町は、当時から新規就農受け入れに積極的で、各種支援も充実していたことから、昭和62年、リース牧場制度を活用し、離農跡地を買い取って海野牧場をスタートさせた。

 就農2年目に火災で牛舎が焼失するも、フリーストール形式の牛舎を新たに導入するなど、逆境に負けず試行錯誤を重ね、少しずつ牧草地や牛舎の整備を進めていった。就農当初35頭だったホルスタインは、高泌乳をめざして頭数を増やしていたが、理想のミルクを追求する中で経営方針を変更。より良い牛を選別し、現在は30頭。餌は輸入飼料に頼らず、安心して与えられる自給牧草100%、そして無化学肥料での牧草栽培をめざしている。夏期は昼夜放牧で、20haの放牧地を牛たちが自由気ままに動き回る。冬期でも牛を牛舎内にはつながない。こういった環境が、おいしい生乳の秘訣というわけだ。


201711_yokogao_fd_9.jpg  201711_yokogao_fd_10.jpg
浜中町は、夏でも気温25度を超える日はほとんどない冷涼な気候。酪農にはもってこいの地だ。一帯には広大な牧草地が広がる


牧場の魅力を伝えるレストラン「ファームデザインズ」
 牧場経営が軌道に乗り、自分たちの牛乳を直接味わってほしいと、平成12年にカフェレストラン「ファームデザインズ」をオープン。生乳処理施設を牛舎に併設し、牛乳提供を始めた。「国道沿いという立地もあって、お店をやってみたかった」というめぐみさん。店名は"牧場製"を意味しており、牛乳だけでなく酪農の魅力がたっぷり詰まったメニューがそろう。スイーツに使う牛乳は牧場産で、ホエー豚や鹿肉、米など食材は北海道産、それも、できるだけ浜中産のものにこだわっている。

 平成19年にはスイーツに力を入れるべく、菓子用の工房を建設。これが大きなきっかけとなった。レストランで出していたデザートが、家族旅行で来店した百貨店バイヤーの目に留まり「物産展に出してみませんか」と打診されたのだ。「はじめてだったこともあって、あまり実感のないまま商品を持っていったら、即完売してしまい、次々訪れるお客様に怒られてしまって......」。これを機に、他の百貨店や物産展からも声がかかるように。各種食品コンクールでも入賞が続き、知名度が一気に上がった。


201711_yokogao_fd_2.jpg  201711_yokogao_fd_3.jpg
左 :ファームデザインズ外観
右 :大きく窓がとられ、日が差し込む店内。お昼時は満席となる


201711_yokogao_fd_5.jpg  201711_yokogao_fd_6.jpg
左 :ガーリックが効いた醤油ベースのソースが絶品のカンザスディッシュ
右 :エゾシカのたたき。浜中産のエゾシカを使用しており、鮮度抜群


 さらなる転機は平成23年。タイ大手ビール会社のバイヤーが、ファームデザインズのホームページにアクセスし、北海道のスイーツをタイに持ち込みたいという話が舞い込んだ。技術指導・提携という形でタイ国内にカフェのフランチャイズ展開を開始した。現在の店舗数は25で、平成28年度中に33店舗まで拡大する予定だ。
 国内では浜中本店はレストランスタイル、支店3カ所はカフェスタイルで運営しており、加工品は物産展などのものも含め、すべて本店で製造。スイーツやお土産を軸にファームデザインズブランドを国内外に展開している。


きっかけは普及指導員の後押しだった
 振り返るとターニングポイントには普及指導員の姿があったというめぐみさん。「細かい部分までサポートしてもらい、右も左もわからない頃に大変助かりました。最初は、店を小さなカフェにしようと考えていたのですが、当時の普及員さんが『元気づくり事業』を紹介してくれました」。開業準備を進める途中で、カフェからレストランへと形態を変更。飲食店の営業許可を取得してのスタートだった。新規就農時には技術指導、ファームデザインズ立ち上げ時は各種制度の活用・書類申請、製造業の許可取得サポートなどで、海野さん夫妻を支援した。
 「浜中町での新規参入は、既存の牛舎などを活用する中規模牧場が大半です。その場合、家族単位の酪農で経営が成り立っている場合が多い。ここから新しい展開をするには、主業である生乳生産とのバランスが問題になります」。北海道釧路農業改良普及センターの担当普及指導員はこう語る。加工・飲食業を始めるとなると、衛生管理や各種許可の取得、設備投資など、越えなければいけないハードルは高い。「主人がこういうことが好きだった」とめぐみさんは笑うが、そこには強い気持ちが必要不可欠。ファームデザインズにかける想いと普及指導員の支援、この二つが今の成功を支えている。


201711_yokogao_fd_4.jpg  201711_yokogao_fd_8.jpg
左 :タイでも人気のチーズケーキ3種。左から、ショコラをアクセントにしたうしさんのチーズケーキ、焼き上げたタイプのクラシックチーズケーキ、ケシの実を混ぜ込んだポビーシード&レモンチーズケーキ
右 :しぼりたての生乳を使った、牧場の白いプリン。ショコラムースと合わせたうしぷりんも人気


世界中に酪農の良さを伝えたい
 海外では、すでにニューヨークやシンガポールにも出店を開始、国内では道内の星野リゾート・トマムに新たに牧場を建設、観光地で牧場の魅力を伝えるプロジェクトが進行中。レストランでも「浜中町の東部は太平洋に面しており、海産物も豊富なのでメニューに取り入れたい。日本有数の昆布産地なので、スイーツのコラボなんていつかやってみたいですね」と、アイデアはつきない。
 「新規就農で入ってきた私たちを、浜中の人たちは暖かく迎え入れてくれました。今まで助けてもらった分を、このレストランを続けることで恩返ししていきたいし、浜中町の活性化に繋げたい。世界中に、酪農の楽しさやおいしさ、浜中のすばらしさをもっと発信していきたい」。(工藤大平 平成28年6月24日取材 協力:北海道釧路農業改良普及センター、同釧路東部支所)
●月刊「技術と普及」平成28年11月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


(有)ファームデザインズ ホームページ
 北海道厚岸郡浜中町熊牛基線107番地
 TEL 0153-64-2310